第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述28

呼吸4

2015年6月5日(金) 15:00 〜 16:00 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:山下康次(市立函館病院 中央医療技術部リハビリ技術科)

[O-0209] 生体肝移植術後のリハビリテーションと運動負荷の関係

術後肝合成機能に着目して

児玉了, 大串幹, 砥上若菜, 小山雄二郎, 水田博志 (熊本大学医学部付属病院リハビリテーション部)

キーワード:生体肝移植術, 運動負荷, 術後肝合成機能

【はじめに,目的】
生体肝移植(living donor liver transplantation)は末期の肝障害のレシピエントに,健康であるドナーの肝臓の一部を移植する手術である。肝移植を必要とする肝障害患者の多くは,重度の状態不良のために,低栄養,易疲労性,耐久力・持久力の低下が見られる。そのため術前からの十分なリハの介入は行われていない状況にある。生体肝移植術後のリハを実施する上で,運動負荷量を決める基準は明確ではなく,生体肝移植におけるリハ効果については,未だ科学的に実証されていない状況にある。第48回日本理学療法士学術大会においてリハ期間中のアルブミン値が2.5g/dl以上の症例は歩行可能な傾向にあり,生体肝移植術後のリハを実施する上でアルブミン値が2.5g/dl以上・以下によって,運動負荷量を調整する必要性を報告した。今回の研究の目的は生体肝移植患者の術後肝合成機能が生体肝移植術後のリハを実施する上での運動負荷量・転帰・リハ実施期間の指標として用いられるかということをカルテより後方視的に検討することである。
【方法】
2010年1月から2013年12月までに当院移植外科で生体肝移植が施行され,入院期間中にリハ処方がされた28名(女性15名,男性13名,平均年齢48歳(21歳~69歳))をカルテより後方視的に調査した。すべてChild-Pugh分類Cで肝機能としては末期の状態の患者であった。今回の検討項目としては①リハ期間中のアルブミン値の推移,リハ期間中のアルブミン値と移動能力の変化 ②リハ終了時のアルブミン値と転帰の関係 ③リハ終了時のアルブミン値とリハ実施期間の関係の3項目を検討した。
【結果】
① リハ期間中のアルブミン値が3.0 g/dl以上の症例は独歩または歩行補助具なし歩行が可能な傾向にあり,歩行レベルの内訳は独歩可能17名,歩行補助具なし監視レベル3名,杖歩行介助レベル1名,歩行器歩行介助~監視レベル3名だった。一方アルブミン値が2.5 g/dl前後の4症例は歩行不可能で坐位レベルにとどまり,その後リハ中止・死亡となった。②リハ終了時のアルブミン値が3.0 g/dl以上の症例は自宅退院が可能な症例が多かったが,退院時アルブミン値が2.5 g/dl前後の症例は死亡となった。③リハ終了時のアルブミン値が3.0 g/dl以上の症例のリハ実施期間は100日以内の傾向にあり,移動能力,転機とも良好な傾向にあった。
【考察】
肝臓は多くの代謝機能および生体防御機能を有している。運動に関する機能としては糖およびタンパク代謝機能が,術後の回復については代謝機能のみならず生体防御機能も関連する。生体肝移植術後のリハにおいては,肝機能に適した運動負荷量調節が必要であり,第48回日本理学療法士学術大会においてリハ期間中のアルブミン値が2.5 g/dl以上の症例は歩行可能な傾向にあり,生体肝移植術後のリハを実施する上でアルブミン値が2.5g/dl以上・以下によって,運動負荷量を調整する必要性を報告した。また,術後筋力の推移において佐野らは生体肝移植患者の術後下肢筋力は術後4週では術前に比べ筋力低下が認められ,その後に改善傾向にあることが示唆されると述べている。今回の研究結果より,リハ期間中のアルブミン値が3.0 g/dl以上の症例は独歩または歩行補助具なし歩行が可能な傾向にあり,リハ終了時のアルブミン値が3.0 g/dl以上の症例は自宅退院が可能な症例が多かった。またリハ終了時のアルブミン値が3.0 g/dl以上の症例のリハ実施期間は100日以内の症例が多く移動能力,転機とも良好だった。よって,アルブミン値3.0g/dl以上が独歩または歩行補助具なし歩行練習を実施グループと歩行補助具歩行練習を実施グループを決める運動負荷量の指標となる可能性が考えられた。またアルブミン値3.0g/dl以上・以下が転帰・リハ実施期間の予測指標となる可能性も考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
今回の研究において,生体肝移植術後のリハを実施する上でアルブミン値が3.0g/dl以上・以下によって,歩行レベルの運動負荷量を調整する必要性が示唆された。また,アルブミン値3.0g/dlが転帰・リハ実施期間を予測する指標となる可能性も示唆された。今後の研究では,アルブミン値と筋力・筋量・栄養等の関係にも着目して,包括的生体肝移植術後のリハ効果を科学的に検討していきたい。