[O-0210] 周術期リハビリテーションを受けた膵癌患者の最高酸素摂取量の変化
キーワード:膵癌, 最高酸素摂取量, 周術期
【はじめに,目的】
膵癌は5年生存率が約7%と最も予後不良の癌といわれている。根治治療として腫瘍切除術が行われているが,切除後であっても5年生存率は約15%程度と非常に再発率が高い。そのため,手術を受ける膵癌患者に対し,術後肺合併症を予防し,より早期に退院させ,残された健康寿命を可能な限り伸ばす手助けをすることが周術期リハビリテーション(以下,周術期リハ)に求められる。
近年,高侵襲手術を受ける癌患者に対し,術前の心肺機能の指標である最高酸素摂取量(以下Peak VO2)を増加させることが,術後肺合併症発生の低下に関連すると報告されている。また,術後の身体機能維持には栄養状態が大きく影響を及ぼすことが知られている。
現在,膵癌患者に限局して周術期リハを施行した報告は非常に少なく,Peak VO2を指標に検証された報告は無い。今回,我々は膵癌患者の周術期リハの効果をPeak VO2という視点から検証し報告することを目的とした。
【方法】
対象は2013年1月から2014年8月までに当院で腫瘍切除術予定であり,今回の研究内容に対し同意の得られた膵癌患者12例(男性8例,女性4例,年齢66.9±9.6歳)とした。当院倫理委員会規定に基づく除外症例や,エルゴメーターによる心肺運動負荷試験(CPET)が実施困難な症例は除外している。
入院時をベースライン期としたシングルケース研究法で,入院時,術前,術後(退院時)に各々,CPET,6分間歩行試験,呼吸機能検査,生化学検査を実施し,Peak VO2,6分間歩行距離(6MWD),%VC,FEV1.0%,体重,BMI,体脂肪率,総蛋白値,アルブミン値を測定した。なお,Peak VO2測定は呼気ガス分析装置(AERO MONITOR AS 300S;MINATO MEDICAL)を用い,Ramp負荷試験によるbreath-by-breath法で計測した。
周術期リハは術前に1週間,心肺機能強化運動として自転車エルゴメーター30分とスクワット運動を可能な限り実施し,術後は翌日より椅子坐位,立位,廊下歩行を実施,ドレーン抜去後より心肺強化運動を再開した。なお,心肺強化運動の負荷量は入院時のCPET結果を基に,術前は50~70%Peak VO2,術後は20~40%Peak VO2とした。
統計解析は入院時,術前,術後の3群間比較に一元配置分散分析を用いて行い,有意水準は5%未満とした(SPSS ver.18 J for Windowsを使用)。
【結果】
Peak VO2は入院時と術前の比較で有意に増加を認め(22.9±7.3ml/kg/min vs 26.3±7.7ml/kg/min;p=0.003),術前と術後の比較では有意に低下を示した(26.3±7.7ml/kg/min vs 23.2±7.0ml/kg/min;p=0.006)。しかし,入院時と術後の比較では有意差を認めなかった。6MWDもPeak VO2同様,術前に有意に増加を認め(449±98m vs 480±92m;p=0.03),術後に有意に低下するが(480±92m vs 451±100m;p=0.03),入院時と術後では有意な差は認めなかった。呼吸機能においては%VCのみ術前と術後の比較で有意な低下を認めた(100±11% vs 90±11%;p=0.003)。体重(kg),BMI(kg/m2),体脂肪率(%)の全項目で,術前と比較し術後に有意に低下を認めており(p<0.05),入院時と比較しても術後は有意に低下を認めていた(p<0.05)。栄養状態は総蛋白値(g/dL),アルブミン値(g/dL)共に3群間で有意な差を認めなかった。
術後経過:12例の術式は幽門輪切除膵頭十二指腸切除術7例,膵体尾部切除術4例,膵全摘術1例であった。術後在院日数は16.7±6.2日で,術後合併症は膵液瘻1例,下痢2例,低血糖3例,術後せん妄1例,肺炎および呼吸不全0名で,全例が術翌日より廊下歩行を開始し独歩で自宅退院となった。
【考察】
膵癌患者に対する術前1週間の心肺機能強化運動と術翌日からの早期離床を組み合わせは,術前のPeak VO2を有意に増加させ,術後は入院時と同等のPeak VO2を維持できる可能性が示唆された。体重は術後有意に減少を認めたものの,総蛋白値およびアルブミン値は保もたれており,これらは積極的に運動療法を実施する上で重要であり,心肺機能維持の基盤にあったと考えられる。本研究では膵癌の病期別や術式の検討は行っていないため,今後は対象者を増やし更なる検証を行っていく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
大規模なRCTではないが,今まで介入が難しく報告のない膵癌患者に対しての周術期リハの有効性と医学的根拠の一部が報告できたと考える。
膵癌は5年生存率が約7%と最も予後不良の癌といわれている。根治治療として腫瘍切除術が行われているが,切除後であっても5年生存率は約15%程度と非常に再発率が高い。そのため,手術を受ける膵癌患者に対し,術後肺合併症を予防し,より早期に退院させ,残された健康寿命を可能な限り伸ばす手助けをすることが周術期リハビリテーション(以下,周術期リハ)に求められる。
近年,高侵襲手術を受ける癌患者に対し,術前の心肺機能の指標である最高酸素摂取量(以下Peak VO2)を増加させることが,術後肺合併症発生の低下に関連すると報告されている。また,術後の身体機能維持には栄養状態が大きく影響を及ぼすことが知られている。
現在,膵癌患者に限局して周術期リハを施行した報告は非常に少なく,Peak VO2を指標に検証された報告は無い。今回,我々は膵癌患者の周術期リハの効果をPeak VO2という視点から検証し報告することを目的とした。
【方法】
対象は2013年1月から2014年8月までに当院で腫瘍切除術予定であり,今回の研究内容に対し同意の得られた膵癌患者12例(男性8例,女性4例,年齢66.9±9.6歳)とした。当院倫理委員会規定に基づく除外症例や,エルゴメーターによる心肺運動負荷試験(CPET)が実施困難な症例は除外している。
入院時をベースライン期としたシングルケース研究法で,入院時,術前,術後(退院時)に各々,CPET,6分間歩行試験,呼吸機能検査,生化学検査を実施し,Peak VO2,6分間歩行距離(6MWD),%VC,FEV1.0%,体重,BMI,体脂肪率,総蛋白値,アルブミン値を測定した。なお,Peak VO2測定は呼気ガス分析装置(AERO MONITOR AS 300S;MINATO MEDICAL)を用い,Ramp負荷試験によるbreath-by-breath法で計測した。
周術期リハは術前に1週間,心肺機能強化運動として自転車エルゴメーター30分とスクワット運動を可能な限り実施し,術後は翌日より椅子坐位,立位,廊下歩行を実施,ドレーン抜去後より心肺強化運動を再開した。なお,心肺強化運動の負荷量は入院時のCPET結果を基に,術前は50~70%Peak VO2,術後は20~40%Peak VO2とした。
統計解析は入院時,術前,術後の3群間比較に一元配置分散分析を用いて行い,有意水準は5%未満とした(SPSS ver.18 J for Windowsを使用)。
【結果】
Peak VO2は入院時と術前の比較で有意に増加を認め(22.9±7.3ml/kg/min vs 26.3±7.7ml/kg/min;p=0.003),術前と術後の比較では有意に低下を示した(26.3±7.7ml/kg/min vs 23.2±7.0ml/kg/min;p=0.006)。しかし,入院時と術後の比較では有意差を認めなかった。6MWDもPeak VO2同様,術前に有意に増加を認め(449±98m vs 480±92m;p=0.03),術後に有意に低下するが(480±92m vs 451±100m;p=0.03),入院時と術後では有意な差は認めなかった。呼吸機能においては%VCのみ術前と術後の比較で有意な低下を認めた(100±11% vs 90±11%;p=0.003)。体重(kg),BMI(kg/m2),体脂肪率(%)の全項目で,術前と比較し術後に有意に低下を認めており(p<0.05),入院時と比較しても術後は有意に低下を認めていた(p<0.05)。栄養状態は総蛋白値(g/dL),アルブミン値(g/dL)共に3群間で有意な差を認めなかった。
術後経過:12例の術式は幽門輪切除膵頭十二指腸切除術7例,膵体尾部切除術4例,膵全摘術1例であった。術後在院日数は16.7±6.2日で,術後合併症は膵液瘻1例,下痢2例,低血糖3例,術後せん妄1例,肺炎および呼吸不全0名で,全例が術翌日より廊下歩行を開始し独歩で自宅退院となった。
【考察】
膵癌患者に対する術前1週間の心肺機能強化運動と術翌日からの早期離床を組み合わせは,術前のPeak VO2を有意に増加させ,術後は入院時と同等のPeak VO2を維持できる可能性が示唆された。体重は術後有意に減少を認めたものの,総蛋白値およびアルブミン値は保もたれており,これらは積極的に運動療法を実施する上で重要であり,心肺機能維持の基盤にあったと考えられる。本研究では膵癌の病期別や術式の検討は行っていないため,今後は対象者を増やし更なる検証を行っていく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
大規模なRCTではないが,今まで介入が難しく報告のない膵癌患者に対しての周術期リハの有効性と医学的根拠の一部が報告できたと考える。