第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述28

呼吸4

Fri. Jun 5, 2015 3:00 PM - 4:00 PM 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:山下康次(市立函館病院 中央医療技術部リハビリ技術科)

[O-0213] 高齢者消化器外科手術の術前評価における身体的フレイル評価の有用性

安延由紀子, 杉本研, 前川佳敬, 中間千香子, 竹屋泰, 山本浩一, 樂木宏実 (大阪大学大学院医学系研究科老年・腎臓内科学)

Keywords:高齢者, 術前評価, 身体機能

【はじめに,目的】
本邦における医療の飛躍的な進歩により,高齢者における外科手術の安全性が向上し,高齢者の外科手術件数は以前より増加している。術後合併症のリスク低減を目的とした現行の術前評価のうち,代表的なものとしてE-PASS scoring system(以下E-PASS)やPOSSUM scoring system(以下POSSUM)が,また外科手術の予後指標としてPerformance Status(以下PS)が用いられている。しかし,高齢者の合併症予測に有用な評価法についてはまだ定説はない。一方,特に後期高齢者においては,加齢に伴って生じる身体機能低下,すなわち身体的フレイル(Physical Frailty)が前要介護状態を判定する概念として最近注目されているが,術前に身体的フレイルを評価し,術後合併症や予後への影響をみた検討はほとんどない。我々は,身体機能のうち特に下肢筋力に着目し,術前検査として高齢者総合機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment,以下CGA)に身体機能評価を加えた際の合併症予測における有用性を検討した。
【方法】
対象は,2010年4月以降に当院で消化器癌と診断され消化器外科手術対象となった高齢者のうち,術前にCGAおよび身体機能評価を施行し,根治術が施行された70歳以上の連続286症例である。評価項目のうち,身体機能として筋力測定(握力,下肢筋力(等尺性膝伸展筋力))と重心動揺検査(外周囲面積,総軌跡長)を施行し,筋量はバイオインピーダンス(BIA)法を用いて計測した。問診では,CGAとして認知機能検査(MMSE),ADL評価(Barthal Index,IADL),うつ評価(GDS-15),意欲評価(Vitality Index,やる気スコア)を行い,加えて運動習慣の有無,PSについて聴取した。術後評価項目のうち,術後せん妄についてはConfusion Assessment Method(CAM)を用いてカルテ記載内容に基づき判定し,術後合併症(感染症や縫合不全,出血など)については,重症度,治療の必要性,合併症による入院期間延長の有無でその程度を判定した。各種評価項目とせん妄を含む術後合併症との関連性を検討した。
【結果】
対象の平均年齢は79.2歳(男性率66.1%)であった。術後せん妄はPS,Barthal Index,MMSE,GDS,IADLとともに,術前の下肢筋力と関連を認めた(P<0.001)。術後合併症はPS,Barthal Index,Vitality Index,IADL,MMSE,GDSとともに,術前の下肢筋力と関連を認めた(P<0.001)。術後せん妄,術後合併症それぞれを従属変数とし,CGAの要素または術前の下肢筋力を独立変数とし,多重ロジスティック回帰分析を行ったところ,術前の下肢筋力,Barthal Index,IADLが独立した術後合併症予測因子として抽出された。
【考察】
一般に高齢者は,併存する疾患が多くそれぞれが重症である場合があること,また肉体的,精神的な予備能力が低下していることが多い。そのため高齢者の術後合併症においては,せん妄や合併症の重症化,長期化がみられることが特徴である。このことから,術後合併症発現の予測に対しては術前に身体的,精神的状態を的確に評価・把握することが重要と考えられる。今回の検討から,術前にCGAに加え身体機能を評価することが,術後合併症の発現予測に有用であることが示唆された。
これまでの報告では,術後合併症発現の要因として術式や疾患の程度,年齢などが挙げられているが,それらの因子で補正した解析により,術前の身体機能やADLの評価が,術後合併症の予測により有用であることが,今回の検討で示された。術前に身体機能評価を行うことにより,ハイリスク者の選定や,周術期のリスク管理に対し有益な情報となるだけでなく,早期の介入を可能とすることで術後の全身状態の安定化や手術予後の改善,早期退院といった転帰への影響も期待できる。また,E-PASSやPOSSUMなどの既存の評価方法は,術前に加え術中の情報も必要であるが,今回の我々が用いた評価はすべて術前に得られる情報のみで行えることも利点である。以上から,術前の情報のみで高齢癌患者の術後リスクを評価できる意義は非常に大きいと思われる。
【理学療法学研究としての意義】
高齢者の術前評価としてCGAと身体機能評価の併用が,術後合併症の予測に有用であることが示唆された。また,下肢筋力測定を始めとする身体機能評価は理学療法の臨床で用いられることが多いため,術後のみならず術前リハビリテーションへのスムーズな移行や早期介入などの臨床的応用が可能となると考える。