[O-0217] 脳卒中片麻痺者における改変30秒椅子立ち上がりテストの信頼性と身体機能ならびに日常生活動作との関連性
Keywords:脳卒中片麻痺, 30秒椅子立ち上がりテスト, 下肢筋力
【はじめに,目的】
30秒椅子立ち上がりテスト(以下,CS-30)は下肢筋力や歩行能力を把握するテストバッテリーとして幅広い年齢層に適用されている。また増田ら(2004)により脳卒中片麻痺患者(以下,片麻痺患者)の歩行能力との関連も報告されている。しかし,CS-30は立ち上がり動作(以下,起立動作)時に両上肢を使用してはならないため,ある程度の下肢筋力などの運動機能が要求され,測定対象の限定を生じさせる。
これに対して矢倉ら(2005)はCS-30を改変し,手すり支持30秒椅子立ち上がりテスト(以下,HSCS-30)を考案した。手すりを使用することで測定可能な対象が拡大するが,起立動作時に「引く」という代償的な運動を招いてしまうと考えられている。我々は,手すりではなく台に「触れる」という方法でCS-30の改変を試みた。手すりを「引く」のではなく台に「触れる」という手がかりを提供することで,「引く」という代償的な運動を少なくした。この方法により測定可能な対象を広げつつ,起立動作という動作能力や身体機能,日常生活動作(以下,ADL)を把握することができるのではないかと考えた。本研究では手すりを用いたHSCS-30と台を用いた改変CS-30を比較し,改変CS-30の信頼性と身体機能ならびにADLとの関連性を検討した。
【方法】
対象は当院回復期病棟入院中の片麻痺患者とした。採用基準は上肢を使用し連続した起立動作ができ,10m歩行を測定する際に介助なしで可能な者とした。除外基準は体幹・四肢に変形を伴う運動器疾患や運動失調症を有する者,口頭指示が理解できない者とした。
測定項目:性別・年齢・発症日数・下腿長・下肢Brunnstrom Stage(以下,下肢BRS)・快適10m歩行速度・歩行自立度(院内歩行の可否)・麻痺側膝関節伸展筋力(以下,麻痺側下肢筋力)・FIM移乗項目の合計点・HSCS-30・改変CS-30。HSCS-30と改変CS-30は測定後48時間以内に再測定を行った。HSCS-30と改変CS-30の測定時には常用している装具を着用させ,歩行測定時には杖の使用も許可した。
検討項目はHSCS-30と改変CS-30の再現性,歩行自立度別に分類した場合のHSCS-30・改変CS-30と各項目との関連性とした。解析には級内相関係数と対応のあるt検定,Pearsonの積率相関係数,Spearmanの順位相関係数を用いた。有意水準は5%未満とした。
【結果】
採用基準に合致した症例は18例(男性12名,女性6名),平均年齢58±11歳,平均発症日数96±33日,下腿長30±3cm,下肢BRSはVI:1名,V:10名,IV:9名,III:2名であった。
再現性の検討:HSCS-30がICC=0.67(p<0.05),改変CS-30がICC=0.83(p<0.05)と共に有意であったが,改変CS-30の方がより高い再現性を認めた。HSCS-30においては初回(10±0.7回)と比べて再測定時(11±0.8回)の方が有意に多かった(t(18)=-4.56 p<0.05)。歩行自立度別での各項目との関連性:歩行非自立群(n=13)において,改変CS-30は麻痺側下肢筋力(r=0.57,p<0.05)と,移乗FIMの合計点(r=0.55,p<0.05)に有意な相関が認められた。HSCS-30は各項目と相関は認められず,歩行自立群(n=5)においてはHSCS-30,改変CS-30ともに全ての項目と有意な相関を認めなかった。
【考察】
台に比べ手すりを使用する方が連続起立動作時において多様な戦略をとりやすく,短期間で回数が増加したと考えられる。
歩行非自立群において改変CS-30は麻痺側下肢筋力と相関を認めた。片麻痺患者は麻痺が重度であるほど非麻痺側への依存が大きくなり,下肢のみでの起立動作が困難になるため上肢による支持が必要になる。Eriksrudら(2003)は,片麻痺患者は起立動作時に手すりを使用した場合,使用しなかった時と比較して両下肢の体重比膝関節伸展筋力の合計が有意に低下していたと報告している。手すりを使用すると麻痺側下肢筋力が少なくても起立動作時に重心を上方へ引き上げる力を得られると考えられる。改変CS-30は手すりを台に変更したことで「引く」動作への依存が少なくなり,麻痺側下肢筋力と相関が得られたと考えられる。改変CS-30はFIM移乗項目の合計点と相関が認められた。片麻痺患者の移乗動作時には麻痺側下肢筋力が重要であると武井ら(2006)は述べている。麻痺側下肢筋力と相関が認められた改変CS-30は移乗動作を把握することが可能であると考えられる。しかし,移乗動作には麻痺側下肢筋力だけではなくバランス能力の要素も含まれるので,今後はバランス能力との関連性を検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
改変CS-30はHSCS-30よりも再現性が高く,また歩行非自立群において麻痺側下肢筋力や移乗動作能力を把握する指標になる可能性が示唆された。
30秒椅子立ち上がりテスト(以下,CS-30)は下肢筋力や歩行能力を把握するテストバッテリーとして幅広い年齢層に適用されている。また増田ら(2004)により脳卒中片麻痺患者(以下,片麻痺患者)の歩行能力との関連も報告されている。しかし,CS-30は立ち上がり動作(以下,起立動作)時に両上肢を使用してはならないため,ある程度の下肢筋力などの運動機能が要求され,測定対象の限定を生じさせる。
これに対して矢倉ら(2005)はCS-30を改変し,手すり支持30秒椅子立ち上がりテスト(以下,HSCS-30)を考案した。手すりを使用することで測定可能な対象が拡大するが,起立動作時に「引く」という代償的な運動を招いてしまうと考えられている。我々は,手すりではなく台に「触れる」という方法でCS-30の改変を試みた。手すりを「引く」のではなく台に「触れる」という手がかりを提供することで,「引く」という代償的な運動を少なくした。この方法により測定可能な対象を広げつつ,起立動作という動作能力や身体機能,日常生活動作(以下,ADL)を把握することができるのではないかと考えた。本研究では手すりを用いたHSCS-30と台を用いた改変CS-30を比較し,改変CS-30の信頼性と身体機能ならびにADLとの関連性を検討した。
【方法】
対象は当院回復期病棟入院中の片麻痺患者とした。採用基準は上肢を使用し連続した起立動作ができ,10m歩行を測定する際に介助なしで可能な者とした。除外基準は体幹・四肢に変形を伴う運動器疾患や運動失調症を有する者,口頭指示が理解できない者とした。
測定項目:性別・年齢・発症日数・下腿長・下肢Brunnstrom Stage(以下,下肢BRS)・快適10m歩行速度・歩行自立度(院内歩行の可否)・麻痺側膝関節伸展筋力(以下,麻痺側下肢筋力)・FIM移乗項目の合計点・HSCS-30・改変CS-30。HSCS-30と改変CS-30は測定後48時間以内に再測定を行った。HSCS-30と改変CS-30の測定時には常用している装具を着用させ,歩行測定時には杖の使用も許可した。
検討項目はHSCS-30と改変CS-30の再現性,歩行自立度別に分類した場合のHSCS-30・改変CS-30と各項目との関連性とした。解析には級内相関係数と対応のあるt検定,Pearsonの積率相関係数,Spearmanの順位相関係数を用いた。有意水準は5%未満とした。
【結果】
採用基準に合致した症例は18例(男性12名,女性6名),平均年齢58±11歳,平均発症日数96±33日,下腿長30±3cm,下肢BRSはVI:1名,V:10名,IV:9名,III:2名であった。
再現性の検討:HSCS-30がICC=0.67(p<0.05),改変CS-30がICC=0.83(p<0.05)と共に有意であったが,改変CS-30の方がより高い再現性を認めた。HSCS-30においては初回(10±0.7回)と比べて再測定時(11±0.8回)の方が有意に多かった(t(18)=-4.56 p<0.05)。歩行自立度別での各項目との関連性:歩行非自立群(n=13)において,改変CS-30は麻痺側下肢筋力(r=0.57,p<0.05)と,移乗FIMの合計点(r=0.55,p<0.05)に有意な相関が認められた。HSCS-30は各項目と相関は認められず,歩行自立群(n=5)においてはHSCS-30,改変CS-30ともに全ての項目と有意な相関を認めなかった。
【考察】
台に比べ手すりを使用する方が連続起立動作時において多様な戦略をとりやすく,短期間で回数が増加したと考えられる。
歩行非自立群において改変CS-30は麻痺側下肢筋力と相関を認めた。片麻痺患者は麻痺が重度であるほど非麻痺側への依存が大きくなり,下肢のみでの起立動作が困難になるため上肢による支持が必要になる。Eriksrudら(2003)は,片麻痺患者は起立動作時に手すりを使用した場合,使用しなかった時と比較して両下肢の体重比膝関節伸展筋力の合計が有意に低下していたと報告している。手すりを使用すると麻痺側下肢筋力が少なくても起立動作時に重心を上方へ引き上げる力を得られると考えられる。改変CS-30は手すりを台に変更したことで「引く」動作への依存が少なくなり,麻痺側下肢筋力と相関が得られたと考えられる。改変CS-30はFIM移乗項目の合計点と相関が認められた。片麻痺患者の移乗動作時には麻痺側下肢筋力が重要であると武井ら(2006)は述べている。麻痺側下肢筋力と相関が認められた改変CS-30は移乗動作を把握することが可能であると考えられる。しかし,移乗動作には麻痺側下肢筋力だけではなくバランス能力の要素も含まれるので,今後はバランス能力との関連性を検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
改変CS-30はHSCS-30よりも再現性が高く,また歩行非自立群において麻痺側下肢筋力や移乗動作能力を把握する指標になる可能性が示唆された。