[O-0218] 歩行率を増加させる体重免荷トレッドミル歩行トレーニングは不全脊髄損傷者の最大歩行速度を改善できる
Keywords:不全脊髄損傷, BWSTT, 最大歩行速度
【はじめに,目的】
脊髄損傷は完全損傷よりも不全損傷が多く,不全損傷の中でも損傷高位以下に運動機能が残存する者では歩行能力を再獲得する可能性が高く,理学療法の大きな目標の一つとなる。不全脊髄損傷者の歩行能力の再獲得を目的としたトレーニング方法の一つとして体重免荷トレッドミル歩行トレーニング(BWSTT)が注目されているが,有効性については一定した見解が得られていない。この理由として,トレーニング方法における速度や免荷量の条件が確立していないことが要因である。
我々はこれまでに,体重免荷の効果として,最大歩行速度が増加し,また,その時の歩行率が増加するという結果を得た。さらに,シングルケーススダディを用いて,従来の平地歩行トレーニングと最大歩行速度以上の速度で行ったBWSTTを比較したところ,BWSTTの期間は従来の平地歩行トレーニングのみを行った期間に比べて,平地最大歩行速度が有意に増加したという結果を得た。
これらのことより,本研究の目的は,歩行率を増加させる設定のBWSTTが身体機能と歩行能力へ及ぼす影響をランダム化比較試験によって明らかにすることである。
【方法】
A病院入院中で発症から1年未満の平地歩行が可能なASIA Impairment Scale Dの不全脊髄損傷者43名(平均年齢52.1±14.4歳)をBWSTT群(n=21)とCONT群(n=22)に無作為に割り付けた。頭部外傷やADLを阻害する疼痛や拘縮ある者は除外した。介入期間は8週間(週5日),両群ともに歩行トレーニングを40分,その他のトレーニングを60分実施した。BWSTT群では,予備検討から,歩行率を賦活できる条件である体重の20~30%免荷,最大速度の110~120%で25分間のBWSTTを行い,あわせて平地歩行トレーニングを15分実施した。介入前後に身体機能(上下肢の筋力,下肢の痙縮)と歩行能力を評価した。上下肢の筋力評価には,ASIA評価基準のL2~S1の各髄節を代表する5筋で構成される下肢筋力スコア(LEMS)とC5~T1の5筋で構成される上肢筋力スコア(UEMS)を用い,痙縮の評価には膝関節屈曲筋と足関節底屈筋の複合MAS(CMAS)を使用した。CMASはMASの段階付を0~5に改変したものである。歩行能力の評価は,10m歩行テストを用い,快適歩行速度(CWS)と最大歩行速度(MWS)を算出した。
分析は,介入前の各変数の群間比較に対応のないt検定およびχ2検定を用いた。介入効果の検討は,群と介入期間を2要因とした反復測定2元配置分散分析を用いて身体機能と歩行能力を比較した。
【結果】
42名が介入前後の検査を完遂した(CONT群1名が脱落)。介入前はすべての変数で群間差はみられなかった。LEMS,UEMSは両群ともに介入前後で有意に改善したが,群と期間の有意な交互作用はみられなかった。CWSとMWSは両群ともに介入前後で有意に増加したが,BWSTT群のMWSにおいてのみ,群と期間の有意な交互作用を認めた(F=4.544,p=0.040)。MWSの歩行率は介入前後で有意に増加し,BWSTT群の歩行率は群と期間の有意な交互作用を認めた(F=5.325,p=0.041)が,左右の平均歩幅では認められなかった。
【考察】
8週間の介入によって,両群ともにCWSとMWSが有意に改善したが,さらにMWSにおいては,BWSTTによって従来の平地歩行トレーニングに比較して有意な改善がみられた。これは,MWSの歩行率に有意な交互作用が認められたが,左右平均歩幅に認められなかったことから,MWSの改善した要因は歩行率の改善によるものと考える。
BWSTTがMWSのみを従来の平地歩行トレーニングよりもさらに改善させたのは,歩行率を賦活する最大歩行速度以上の速度にBWSTTを設定したことによる課題特異的な効果が生じたためだと推察する。また,介入前後に身体機能には両群間に有意な差がみられなかったことから,BWSTTによってcentral pattern generatorが賦活されたことにより,歩行パターンが改善して最大歩行速度が増加した可能性も示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
BWSTTはMWSを従来の歩行トレーニングよりもさらに改善させたことから,不全脊髄損傷者の歩行トレーニング方法の1つとしてBWSTTの有効性を示した。
脊髄損傷は完全損傷よりも不全損傷が多く,不全損傷の中でも損傷高位以下に運動機能が残存する者では歩行能力を再獲得する可能性が高く,理学療法の大きな目標の一つとなる。不全脊髄損傷者の歩行能力の再獲得を目的としたトレーニング方法の一つとして体重免荷トレッドミル歩行トレーニング(BWSTT)が注目されているが,有効性については一定した見解が得られていない。この理由として,トレーニング方法における速度や免荷量の条件が確立していないことが要因である。
我々はこれまでに,体重免荷の効果として,最大歩行速度が増加し,また,その時の歩行率が増加するという結果を得た。さらに,シングルケーススダディを用いて,従来の平地歩行トレーニングと最大歩行速度以上の速度で行ったBWSTTを比較したところ,BWSTTの期間は従来の平地歩行トレーニングのみを行った期間に比べて,平地最大歩行速度が有意に増加したという結果を得た。
これらのことより,本研究の目的は,歩行率を増加させる設定のBWSTTが身体機能と歩行能力へ及ぼす影響をランダム化比較試験によって明らかにすることである。
【方法】
A病院入院中で発症から1年未満の平地歩行が可能なASIA Impairment Scale Dの不全脊髄損傷者43名(平均年齢52.1±14.4歳)をBWSTT群(n=21)とCONT群(n=22)に無作為に割り付けた。頭部外傷やADLを阻害する疼痛や拘縮ある者は除外した。介入期間は8週間(週5日),両群ともに歩行トレーニングを40分,その他のトレーニングを60分実施した。BWSTT群では,予備検討から,歩行率を賦活できる条件である体重の20~30%免荷,最大速度の110~120%で25分間のBWSTTを行い,あわせて平地歩行トレーニングを15分実施した。介入前後に身体機能(上下肢の筋力,下肢の痙縮)と歩行能力を評価した。上下肢の筋力評価には,ASIA評価基準のL2~S1の各髄節を代表する5筋で構成される下肢筋力スコア(LEMS)とC5~T1の5筋で構成される上肢筋力スコア(UEMS)を用い,痙縮の評価には膝関節屈曲筋と足関節底屈筋の複合MAS(CMAS)を使用した。CMASはMASの段階付を0~5に改変したものである。歩行能力の評価は,10m歩行テストを用い,快適歩行速度(CWS)と最大歩行速度(MWS)を算出した。
分析は,介入前の各変数の群間比較に対応のないt検定およびχ2検定を用いた。介入効果の検討は,群と介入期間を2要因とした反復測定2元配置分散分析を用いて身体機能と歩行能力を比較した。
【結果】
42名が介入前後の検査を完遂した(CONT群1名が脱落)。介入前はすべての変数で群間差はみられなかった。LEMS,UEMSは両群ともに介入前後で有意に改善したが,群と期間の有意な交互作用はみられなかった。CWSとMWSは両群ともに介入前後で有意に増加したが,BWSTT群のMWSにおいてのみ,群と期間の有意な交互作用を認めた(F=4.544,p=0.040)。MWSの歩行率は介入前後で有意に増加し,BWSTT群の歩行率は群と期間の有意な交互作用を認めた(F=5.325,p=0.041)が,左右の平均歩幅では認められなかった。
【考察】
8週間の介入によって,両群ともにCWSとMWSが有意に改善したが,さらにMWSにおいては,BWSTTによって従来の平地歩行トレーニングに比較して有意な改善がみられた。これは,MWSの歩行率に有意な交互作用が認められたが,左右平均歩幅に認められなかったことから,MWSの改善した要因は歩行率の改善によるものと考える。
BWSTTがMWSのみを従来の平地歩行トレーニングよりもさらに改善させたのは,歩行率を賦活する最大歩行速度以上の速度にBWSTTを設定したことによる課題特異的な効果が生じたためだと推察する。また,介入前後に身体機能には両群間に有意な差がみられなかったことから,BWSTTによってcentral pattern generatorが賦活されたことにより,歩行パターンが改善して最大歩行速度が増加した可能性も示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
BWSTTはMWSを従来の歩行トレーニングよりもさらに改善させたことから,不全脊髄損傷者の歩行トレーニング方法の1つとしてBWSTTの有効性を示した。