[O-0219] 脳卒中片麻痺者に対する装着型ロボットスーツによる歩幅改善効果とその要因についての検討
Keywords:ロボット, 脳卒中, 歩幅
【はじめに,目的】
近年,動作支援ロボットを用いた歩行練習が注目をされており,ロボットスーツHAL福祉用(以下HAL)を用いた歩行練習効果についても報告されている。先行研究においてHALを用いた歩行練習により歩行速度,歩幅等の歩行能力が改善することは示されているが,歩幅の改善効果が麻痺側歩幅,非麻痺側歩幅の改善どちらによるものなのか分析した報告はない。また,それに伴う歩容や立脚時間など歩幅変化に関する要因について分析した報告は少ない。そこで本研究では,脳卒中片麻痺者に対するHAL介入による歩行能力改善効果として,特に歩幅の改善に関わる要因を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象者の適用基準は脳出血又は脳梗塞の初回発症であり,介助歩行が可能である者とした。除外基準は,重度の高次脳機能障害,重度の下肢関節拘縮,その他理学療法の実施に高いリスクを有することとした。これらの基準を満たした症例は8例であり,年齢は58.6±16.9歳,性別は男性5名,女性3名,右片麻痺5例,左片麻痺3例,発症から介入開始までの期間は140.4±27.6日であった。HAL介入時期の決定にあたり,入院時から毎週10m最大歩行速度を計測し,前週及び前々週を含めた3週分の移動平均値の改善率を観察し,改善率が連続する2週間で10%未満,5%未満,5%未満,以降5%未満を満たした時点を介入開始点とした。HAL介入は1回の練習時間を20分,週5回,5週間実施し,この期間は通常の理学療法を40分とし,HAL介入期間外と理学療法時間を同一とした。HALによる歩行練習は,免荷機能付き歩行器(All-In-One,Ropox A/S)を転倒予防目的に使用し,アシストが有効に作用する最大の歩行速度にて実施した。
評価指標としてHAL介入期間の前後に10m快適歩行テストを実施し,歩行速度,歩行率,歩幅を計測すると共に矢状面から動画撮影を行い,麻痺側歩幅,非麻痺側歩幅,麻痺側の股関節・膝関節角度,麻痺側・非麻痺側の単脚支持率を算出した。動画解析はFrame-DIASIIを用い,撮影した動画から任意に2歩行周期を選出し,そのうち左右歩幅の合計値が大きい1歩行周期分を解析対象とした。歩幅は値を身長で除し,正規化した上で身長比として比較した。股関節角度は肩峰-大転子-膝外果のなす角,膝関節角度は大転子-膝外果-足外果のなす角とし,遊脚期の股関節・膝関節最大屈曲角度及び立脚期の股関節最大伸展角度・膝関節最小屈曲角度を算出した。単脚支持率は1歩行周期を100とした単脚支持時間から算出した。統計解析はShapiro-Wilk検定にて正規性を確認した後,正規性のある項目は対応のあるt検定を,正規性がない項目はWilcoxonの符号付順位検定を実施した。解析にはSPSS ver.21を用い,有意確率は5%未満とした。
【結果】
HAL介入前後において,歩行速度は38.6±17.2m/minから50.0±20.3m/min,歩行率は84.4±17.9step/minから96.2±19.2step/min,歩幅は0.27±0.09から0.31±0.10といずれも有意な改善を認めた。麻痺側歩幅は0.41±0.10から0.43±0.12,非麻痺側歩幅は0.35±0.12から0.38±0.07といずれも有意差は認められなかった。歩容に関する項目では,最大膝関節屈曲角度が38.0±12.5°から52.3±9.2°と有意な改善を認めた。一方,遊脚期の最大股関節屈曲角度は32.9±8.9°から43.3±9.9°(NS),立脚期の最大股関節伸展角度は5.1°±10.9°から0.4°±17.7°,最大膝関節屈曲角度は8.0±11.4°から13.6±11.4°,麻痺側単脚支持率は25±6%から29±7%,非麻痺側単脚支持率は37±8%から42±3%へと変化を示したが,有意差は認められなかった。
【考察】
本研究の結果より遊脚期の最大膝関節屈曲角度の改善が認められ,麻痺側遊脚期の正常な膝の随意性が出現したことで,代償的な歩容である分廻し歩行の改善効果が得られたことが示唆された。一方,その他の項目については有意差が認められなかった。これは麻痺側振り出しの改善により麻痺側歩幅が増加する例,麻痺側の立脚支持能力の改善により非麻痺側歩幅が増加する例,またはその両方の例が存在していたためばらつきが生じ,各評価指標に有意差が得られなかったものと考えられる。今後は,各症例が示す異常歩行パターン別に,期待される改善効果が得られるかどうか検討を続ける必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
HALによる歩行能力改善に関わる要因を明らかにすることはHALのような新技術の普及に向けて必須である。また,本研究結果はHAL介入の対象者の選定やより焦点を絞った効率良い介入を行う一助になると考えられる。
近年,動作支援ロボットを用いた歩行練習が注目をされており,ロボットスーツHAL福祉用(以下HAL)を用いた歩行練習効果についても報告されている。先行研究においてHALを用いた歩行練習により歩行速度,歩幅等の歩行能力が改善することは示されているが,歩幅の改善効果が麻痺側歩幅,非麻痺側歩幅の改善どちらによるものなのか分析した報告はない。また,それに伴う歩容や立脚時間など歩幅変化に関する要因について分析した報告は少ない。そこで本研究では,脳卒中片麻痺者に対するHAL介入による歩行能力改善効果として,特に歩幅の改善に関わる要因を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象者の適用基準は脳出血又は脳梗塞の初回発症であり,介助歩行が可能である者とした。除外基準は,重度の高次脳機能障害,重度の下肢関節拘縮,その他理学療法の実施に高いリスクを有することとした。これらの基準を満たした症例は8例であり,年齢は58.6±16.9歳,性別は男性5名,女性3名,右片麻痺5例,左片麻痺3例,発症から介入開始までの期間は140.4±27.6日であった。HAL介入時期の決定にあたり,入院時から毎週10m最大歩行速度を計測し,前週及び前々週を含めた3週分の移動平均値の改善率を観察し,改善率が連続する2週間で10%未満,5%未満,5%未満,以降5%未満を満たした時点を介入開始点とした。HAL介入は1回の練習時間を20分,週5回,5週間実施し,この期間は通常の理学療法を40分とし,HAL介入期間外と理学療法時間を同一とした。HALによる歩行練習は,免荷機能付き歩行器(All-In-One,Ropox A/S)を転倒予防目的に使用し,アシストが有効に作用する最大の歩行速度にて実施した。
評価指標としてHAL介入期間の前後に10m快適歩行テストを実施し,歩行速度,歩行率,歩幅を計測すると共に矢状面から動画撮影を行い,麻痺側歩幅,非麻痺側歩幅,麻痺側の股関節・膝関節角度,麻痺側・非麻痺側の単脚支持率を算出した。動画解析はFrame-DIASIIを用い,撮影した動画から任意に2歩行周期を選出し,そのうち左右歩幅の合計値が大きい1歩行周期分を解析対象とした。歩幅は値を身長で除し,正規化した上で身長比として比較した。股関節角度は肩峰-大転子-膝外果のなす角,膝関節角度は大転子-膝外果-足外果のなす角とし,遊脚期の股関節・膝関節最大屈曲角度及び立脚期の股関節最大伸展角度・膝関節最小屈曲角度を算出した。単脚支持率は1歩行周期を100とした単脚支持時間から算出した。統計解析はShapiro-Wilk検定にて正規性を確認した後,正規性のある項目は対応のあるt検定を,正規性がない項目はWilcoxonの符号付順位検定を実施した。解析にはSPSS ver.21を用い,有意確率は5%未満とした。
【結果】
HAL介入前後において,歩行速度は38.6±17.2m/minから50.0±20.3m/min,歩行率は84.4±17.9step/minから96.2±19.2step/min,歩幅は0.27±0.09から0.31±0.10といずれも有意な改善を認めた。麻痺側歩幅は0.41±0.10から0.43±0.12,非麻痺側歩幅は0.35±0.12から0.38±0.07といずれも有意差は認められなかった。歩容に関する項目では,最大膝関節屈曲角度が38.0±12.5°から52.3±9.2°と有意な改善を認めた。一方,遊脚期の最大股関節屈曲角度は32.9±8.9°から43.3±9.9°(NS),立脚期の最大股関節伸展角度は5.1°±10.9°から0.4°±17.7°,最大膝関節屈曲角度は8.0±11.4°から13.6±11.4°,麻痺側単脚支持率は25±6%から29±7%,非麻痺側単脚支持率は37±8%から42±3%へと変化を示したが,有意差は認められなかった。
【考察】
本研究の結果より遊脚期の最大膝関節屈曲角度の改善が認められ,麻痺側遊脚期の正常な膝の随意性が出現したことで,代償的な歩容である分廻し歩行の改善効果が得られたことが示唆された。一方,その他の項目については有意差が認められなかった。これは麻痺側振り出しの改善により麻痺側歩幅が増加する例,麻痺側の立脚支持能力の改善により非麻痺側歩幅が増加する例,またはその両方の例が存在していたためばらつきが生じ,各評価指標に有意差が得られなかったものと考えられる。今後は,各症例が示す異常歩行パターン別に,期待される改善効果が得られるかどうか検討を続ける必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
HALによる歩行能力改善に関わる要因を明らかにすることはHALのような新技術の普及に向けて必須である。また,本研究結果はHAL介入の対象者の選定やより焦点を絞った効率良い介入を行う一助になると考えられる。