第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述29

身体運動学2

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:10 PM 第7会場 (ホールD5)

座長:中江秀幸(東北福祉大学 健康科学部 リハビリテーション学科 理学療法学専攻)

[O-0221] 二重課題が上半身重心・下半身重心に与える影響について

田中和哉1, 跡見友章1, 廣瀬昇1, 清水美穂2, 跡見順子2 (1.帝京科学大学医療科学部理学療法学科, 2.東京農工大学)

Keywords:姿勢制御, dual task, 上半身重心

【はじめに,目的】人は前庭系,体性感覚,視覚などの入力系と筋骨格などの出力系が相互に働くことで,重力環境下において力学的平衡を保ち,姿勢制御を可能としている。しかしながら近年,生活様式や疾病・障害・加齢などの影響により,姿勢制御パターンが変化し,日常生活能力が低下することにより,介護を要するものが急増している。特に日常生活場面における転倒においては,歩行や立ち上がりといった単一の動作ではなく,会話や家事など身体以外に注意を向ける必要性が有る場面であることが多く報告されている。Geurtsらの報告においても,バランス障害を有する高齢者は,動作に認知課題を加えると,健常高齢者に比して,有意に重心動揺が増加するとしている。但し,これらの報告では,一点の身体重心位置や足圧中心からの解析が多く,分節的な姿勢制御が二重課題(dual task)によってどのような影響を受けるかは明らかにされていない。そこで本研究は,姿勢制御のパターンを身体合成重心(COG),上半身重心(COGU),下半身重心(COGL)といった観点から,COGU制御パターン,COGL制御パターンに分類し立位姿勢を分析し,課題の影響や姿勢制御パターンの相違が重心動揺などのバランス機能に与える影響を検証した。
【方法】対象者は健常男性20名とし,利き足片脚立位の運動課題(single task)と運動課題と認知課題(ストループ課題)を組み合わせた二重課題(dual task)の比較を行った。試行はそれぞれ60秒間とし,各5回実施した。各施行について,光学式3次元動作解析システム(VICON-MX,Oxford Metrics社製,MXカメラ7台)を用い,身体に貼付したマーカ位置の3次元空間内での身体体節の移動を計測した。計測マーカはPlug-in-Gait modelの貼付部位に準じた,37点とし,身体各部位に貼付した。計測データは,体節の質量比が付与された筋骨格モデルを用い,COG,COGU,COGLを算出した。前額面上のCOGUとCOGLの位置関係より,立脚側への変位が上半身>下半身のものをCOGU制御パターン,上半身<下半身のものをCOGL制御パターンと定義し,解析した。課題の影響と姿勢制御の相違が各重心の動揺総軌跡長に与える影響を検討した。
【結果】姿勢制御のパターンは,COGU制御パターンのものが8例,COGL制御パターンのものが12例であった。全例における各重心の動揺軌跡長はsingle taskでCOG:484mm/min,COGU:534mm/min,COGL:479mm/min,dual taskでCOG:595mm/min,COGU:615mm/min,COGL:561mm/min,であり,dual taskでCOGとCOGUの動揺が有意に大きくなった(p<0.05)。dual task時での姿勢制御のパターン影響においては,COGU制御パターンのものがCOG:651mm/min,COGU:697mm/min,COGL:584mm/min,COGL制御パターンのものがCOG:557mm/min,COGU:561mm/min,COGL:547mm/min,であり,COGU制御パターンのものでCOG(p<0.05),とCOGU(p<0.01)有意に大きくなり,上位のセグメントほど影響を受ける形となった。
【考察】健常者においても姿勢制御パターンには差異があることが明らかになった。先行研究においては,dual taskによっての影響には様々な議論がなされているが,今回の結果から,dual task時に重心動揺が大きくなったことは,姿勢制御にかかる情報処理能力がリソース不足となったことが推察される。運動課題と認知課題の各々の課題に必要な注意量が高い場合,課題間の相互緩衝作用が大きくなることを支持する形となった。また,COGU制御パターンの場合,頭位の変化も大きく,視覚や前庭系からの入力系にも影響を与えたことが今回の結果と関連している可能性も考えられる。高齢者などのバランス不良があるものに対して,運動療法を行う場合,特に頭部が揺れにくいCOGL制御パターンを学習することが必要であると考えられる。加えて,COGUの動揺がより強くみられたことに関しては,認知課題により姿勢制御の特に自身の頭部の位置情報の処理などに影響がでたことによるものが考えられる。このような現象は,姿勢制御や認知課題の個人にとって相対的にタスクが高いほど,相互緩衝作用が大きくなくことが示唆され,高齢者や障碍者ではより顕著になることが考えられる。
【理学療法学研究としての意義】日常生活場面で想定されるdual taskの状況において,頭部が揺れやすい姿勢制御パターンのものに対し,COGL制御パターンでの姿勢制御獲得が有効である可能性が示唆された。また,転倒リスクの高いものを早期に発見し,予防的な観点からも介入が可能となることで要介護者の更なる増加を抑制し,健康寿命への寄与につながることが考えられる。