[O-0224] 最大リーチ時の目測誤差と立位バランスとの関係性
加齢による影響
キーワード:目測能力, 高齢者, 立位バランス
【はじめに,目的】高齢者の要介護となる原因の一つに,転倒による骨折がある。転倒リスク因子は多数検討されており,高齢などの一般的因子,バランス能力低下や下肢筋力低下などの身体機能面が主に報告されている(田中ら,2012)。さらに,自己身体認識など認知機能面の報告も一部存在するが,対象は脳血管障害など疾患を有する高齢者や施設入所者などが多く,(Robinovitch, 1999;村田ら,2005),純粋に加齢による影響を検討している報告はほとんどない。そこで今回,自己身体認識が加齢により影響するかどうかを明らかにすることを目的に,健常高齢者に対してバランス能力と最大リーチ目測距離(以下ED;Eye-estimated disatnce)を評価し,若年健常人と比較検討を行ったので報告する。
【方法】対象は,年齢が22.6±1.9歳(平均±標準偏差)の若年健常成人22名を若年群,年齢が74.6±6.4歳の健常高齢者22名を高齢群とした。両群とも過去にバランスに影響を与える既往がないことを確認した。バランスの評価は,重心動揺計(ANIMA社製)を用いて,望月ら(2000)の提唱するIndex of Postural Stability(以下IPS)を測定した。IPSは,数値が高いほどバランスが良いという指標である。EDは,立位にて肩の高さに置かれた積み木に対し,足を踏み出さないで取れると思われる最大の距離を,前・右・左の3方向で測定した。このとき,明らかに積み木を取れる位置から徐々に離れることで目測を行った。その後,同様の3方向に対して最大リーチ実測距離(以下AD;Actual distance)を測定した。データ分析には他方向への空間認知を求めるため,EDとADはそれぞれ3方向の和を使用し,さらに身体の大きさの影響を最小限にするために身長で除した値,補正EDと補正ADを用いた。自己身体認識の評価のため,補正EDと補正ADの差(補正ED-補正ADとし,正の値であれば過大評価となり,負の値であれば過小評価となる)を求め,目測誤差とした。それぞれの群において,IPSと目測誤差との関係について,Spearmanの順位相関係数を求めた。また,2群間の目測誤差をMann-WhitneyのU検定を用いて比較した。優位水準は5%とした。
【結果】若年群では,IPSと目測誤差に有意な正の相関が認められた(r=0.468,p=0.028)。すなわち,過大評価する人ほどバランスが良い状態である可能性が示唆された。高齢群では,それらに有意な相関は認められなかった(r=0.281,p=0.206)。また,目測誤差の中央値(最小値,最大値)は若年群で-0.03(-0.29,0.25),高齢群では-0.16(-0.29,0.33)となり,2群間に有意な差は認められなかった。
【考察】若年群で認められたIPSと目測誤差の有意な正の相関は,高齢群では認められなかった。このことから,若年健常成人であれば,EDを過大評価するほど重心動揺計によるバランス能力が高い傾向にあるが,健常高齢者では必ずしもそうとは言えない。先行研究では,高齢者ほど過大評価をしてしまい転倒リスクが高いと考察している。今回の結果から,高齢者でEDを過大評価してしまう人は若年健常成人のようにバランス能力が高いとは言えず,転倒リスクにつながる可能性が示唆された。
また,目測誤差に2群間の有意差は認められなかった。これより,加齢により単純に目測能力が悪くなるわけではないことが示唆された。疾患を有する高齢者や施設入所者などを対象にしている先行研究では,若年健常成人よりも目測誤差が増えることが報告されている。そのため,高齢者は何かしらの疾患を有した時や施設入所の必要性が出た時に,目測誤差が大きくなる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】高齢者が転倒しやすい段差などの障害物の回避行動は,視覚情報から自己と障害物との位置関係の空間認知が必要であるといわれている。その過程で,自己身体認識が必要となる。高齢者の転倒予防を考える際には自己身体認識の理解が必要となり,今回の結果がその一助になると考える。
【方法】対象は,年齢が22.6±1.9歳(平均±標準偏差)の若年健常成人22名を若年群,年齢が74.6±6.4歳の健常高齢者22名を高齢群とした。両群とも過去にバランスに影響を与える既往がないことを確認した。バランスの評価は,重心動揺計(ANIMA社製)を用いて,望月ら(2000)の提唱するIndex of Postural Stability(以下IPS)を測定した。IPSは,数値が高いほどバランスが良いという指標である。EDは,立位にて肩の高さに置かれた積み木に対し,足を踏み出さないで取れると思われる最大の距離を,前・右・左の3方向で測定した。このとき,明らかに積み木を取れる位置から徐々に離れることで目測を行った。その後,同様の3方向に対して最大リーチ実測距離(以下AD;Actual distance)を測定した。データ分析には他方向への空間認知を求めるため,EDとADはそれぞれ3方向の和を使用し,さらに身体の大きさの影響を最小限にするために身長で除した値,補正EDと補正ADを用いた。自己身体認識の評価のため,補正EDと補正ADの差(補正ED-補正ADとし,正の値であれば過大評価となり,負の値であれば過小評価となる)を求め,目測誤差とした。それぞれの群において,IPSと目測誤差との関係について,Spearmanの順位相関係数を求めた。また,2群間の目測誤差をMann-WhitneyのU検定を用いて比較した。優位水準は5%とした。
【結果】若年群では,IPSと目測誤差に有意な正の相関が認められた(r=0.468,p=0.028)。すなわち,過大評価する人ほどバランスが良い状態である可能性が示唆された。高齢群では,それらに有意な相関は認められなかった(r=0.281,p=0.206)。また,目測誤差の中央値(最小値,最大値)は若年群で-0.03(-0.29,0.25),高齢群では-0.16(-0.29,0.33)となり,2群間に有意な差は認められなかった。
【考察】若年群で認められたIPSと目測誤差の有意な正の相関は,高齢群では認められなかった。このことから,若年健常成人であれば,EDを過大評価するほど重心動揺計によるバランス能力が高い傾向にあるが,健常高齢者では必ずしもそうとは言えない。先行研究では,高齢者ほど過大評価をしてしまい転倒リスクが高いと考察している。今回の結果から,高齢者でEDを過大評価してしまう人は若年健常成人のようにバランス能力が高いとは言えず,転倒リスクにつながる可能性が示唆された。
また,目測誤差に2群間の有意差は認められなかった。これより,加齢により単純に目測能力が悪くなるわけではないことが示唆された。疾患を有する高齢者や施設入所者などを対象にしている先行研究では,若年健常成人よりも目測誤差が増えることが報告されている。そのため,高齢者は何かしらの疾患を有した時や施設入所の必要性が出た時に,目測誤差が大きくなる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】高齢者が転倒しやすい段差などの障害物の回避行動は,視覚情報から自己と障害物との位置関係の空間認知が必要であるといわれている。その過程で,自己身体認識が必要となる。高齢者の転倒予防を考える際には自己身体認識の理解が必要となり,今回の結果がその一助になると考える。