[O-0225] 若年健常者を対象とした動的バランス能力と身体機能との関連性の検証
キーワード:バランス, 身体機能, 重心動揺計
【はじめに,目的】
動的バランス能力は,日常生活との関連性が強く,臨床的に重視されており,高齢者では,足底感覚や下肢筋力などの身体機能との関連性が報告されている。動的バランスの関連因子は多様であり,機能的な側面から評価および解釈することは,臨床的に重要であり,その結果の解釈により運動療法プログラムに反映されている面がある。一方,若年健常者の動的バランス能力と身体機能との関連性については明らかではない。若年者から高齢者まで各年代における動的バランス能力の関連構造因子について知ることは,疫学的に有意義であるが,バランス能力の安定している若年健常者に適合した評価について,明確に数値化できる指標はない。動的バランス能力の評価について,鈴木らにより筑波大式修正IPS(MIPS)が考案されている。MIPSは,望月らによって考案された重心動揺計を用いて動的バランス能力を評価する方法である姿勢安定度評価指数(IPS)を改変し,IPSを閉眼・軟面上でおこなう事で,よりバランス難度を高めた評価指標である。MIPSは,若年健常者においてバランス不良の鋭敏な抽出が可能であると報告されており,動的バランス能力を評価するMIPSの一定の妥当性が示されている。そこで本研究は,若年健常者を対象としてMIPSを使用することで,動的バランス能力の詳細な評価及び多様な関連因子の抽出が可能であると考えた。本研究の目的は,若年健常者を対象とし,動的バランス能力の評価としてMIPSに着目し,MIPSと身体機能との関連について多角的に検討することである。
【方法】
対象は若年健常者58名(男性27名,女性31名,平均年齢28.7±7.0:19~45歳)とした。動的バランス能力の関連因子として,筋力および体性感覚に着目し,評価を以下7項目選択した。<動的バランス検査>測定には重心動揺計及びラバーマットを使用し,MIPSを測定した。<表在感覚検査>測定にはモノフィラメントを使用し,踵部にて触覚を測定した。<深部感覚検査>測定にはノギスを踵部にて2点識別覚,音叉C128を下腿内果にて振動覚を,それぞれ使用した。<筋力検査>測定にはトルクマシンにて膝伸展筋力(60°/秒)・膝伸展持久力(360°/秒),徒手筋力測定器にて足背屈筋力,足趾筋力計にて足趾筋力を測定した。そしてMIPSと上記7項目との関連性の検証をおこなった。統計解析方法は,MIPSとの関連性の検証についてSpearmanの順位相関係数を用いて検証し,さらに上記解析にて単相関を認めた因子を説明変数,MIPSを目的変数として重回帰分析(強制投入法)をおこなった。解析にはそれぞれSPSS(Ver21)を使用し,統計学的有意水準は全て5%未満とした。
【結果】
MIPSと7項目との関連性の検証では,膝伸展筋力にのみ有意な正の相関が認められ(r=0.31,p<0.05),さらに重回帰分析の結果においても,膝伸展筋力がMIPSの関連因子として抽出された(p<0.01)。
【考察】
本研究は,MIPSを,若年健常者を対象とした場合の良好な動的バランス能力評価であると考え,若年健常者におけるMIPSと身体機能との関連性について検討をおこなった。今回の結果において,若年健常者における動的バランス能力は,下肢の体性感覚と関連性はなく,膝伸展筋力のみと関連性があることが示唆された。動的バランス能力とその関連因子について,高齢者では,動的バランス能力は膝伸展筋力と体性感覚の双方との関連性が報告されているが,本研究の結果から,若年健常者では,高齢者とは相違した結果が示された。下肢体性感覚は,若年健常者であっても動的バランス能力に影響を与える因子であると考えられており,渡邊らは,若年健常者の足底部に冷却刺激をおこない,足底感覚情報を著しく低下させることで,動的バランス能力は低下したと報告している。しかし,本研究の結果において,動的バランス能力に体性感覚が影響しなかった理由として,対象が健常および若年であるため,対象の体性感覚の感度が正常範囲にあり,個人差が生じていなかったためであると考えられた。膝伸展筋力と動的バランス能力との関連性については,本研究の結果において,若年健常者であっても高齢者と同様にその相関性が示されたことで,年代にかかわらず膝伸展筋力が動的バランス能力に影響する可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,若年健常者における動的バランス能力の関連因子を示せたことで,理学療法において重視されるバランス分野の実態解明の一助になる可能性が考えられる。
動的バランス能力は,日常生活との関連性が強く,臨床的に重視されており,高齢者では,足底感覚や下肢筋力などの身体機能との関連性が報告されている。動的バランスの関連因子は多様であり,機能的な側面から評価および解釈することは,臨床的に重要であり,その結果の解釈により運動療法プログラムに反映されている面がある。一方,若年健常者の動的バランス能力と身体機能との関連性については明らかではない。若年者から高齢者まで各年代における動的バランス能力の関連構造因子について知ることは,疫学的に有意義であるが,バランス能力の安定している若年健常者に適合した評価について,明確に数値化できる指標はない。動的バランス能力の評価について,鈴木らにより筑波大式修正IPS(MIPS)が考案されている。MIPSは,望月らによって考案された重心動揺計を用いて動的バランス能力を評価する方法である姿勢安定度評価指数(IPS)を改変し,IPSを閉眼・軟面上でおこなう事で,よりバランス難度を高めた評価指標である。MIPSは,若年健常者においてバランス不良の鋭敏な抽出が可能であると報告されており,動的バランス能力を評価するMIPSの一定の妥当性が示されている。そこで本研究は,若年健常者を対象としてMIPSを使用することで,動的バランス能力の詳細な評価及び多様な関連因子の抽出が可能であると考えた。本研究の目的は,若年健常者を対象とし,動的バランス能力の評価としてMIPSに着目し,MIPSと身体機能との関連について多角的に検討することである。
【方法】
対象は若年健常者58名(男性27名,女性31名,平均年齢28.7±7.0:19~45歳)とした。動的バランス能力の関連因子として,筋力および体性感覚に着目し,評価を以下7項目選択した。<動的バランス検査>測定には重心動揺計及びラバーマットを使用し,MIPSを測定した。<表在感覚検査>測定にはモノフィラメントを使用し,踵部にて触覚を測定した。<深部感覚検査>測定にはノギスを踵部にて2点識別覚,音叉C128を下腿内果にて振動覚を,それぞれ使用した。<筋力検査>測定にはトルクマシンにて膝伸展筋力(60°/秒)・膝伸展持久力(360°/秒),徒手筋力測定器にて足背屈筋力,足趾筋力計にて足趾筋力を測定した。そしてMIPSと上記7項目との関連性の検証をおこなった。統計解析方法は,MIPSとの関連性の検証についてSpearmanの順位相関係数を用いて検証し,さらに上記解析にて単相関を認めた因子を説明変数,MIPSを目的変数として重回帰分析(強制投入法)をおこなった。解析にはそれぞれSPSS(Ver21)を使用し,統計学的有意水準は全て5%未満とした。
【結果】
MIPSと7項目との関連性の検証では,膝伸展筋力にのみ有意な正の相関が認められ(r=0.31,p<0.05),さらに重回帰分析の結果においても,膝伸展筋力がMIPSの関連因子として抽出された(p<0.01)。
【考察】
本研究は,MIPSを,若年健常者を対象とした場合の良好な動的バランス能力評価であると考え,若年健常者におけるMIPSと身体機能との関連性について検討をおこなった。今回の結果において,若年健常者における動的バランス能力は,下肢の体性感覚と関連性はなく,膝伸展筋力のみと関連性があることが示唆された。動的バランス能力とその関連因子について,高齢者では,動的バランス能力は膝伸展筋力と体性感覚の双方との関連性が報告されているが,本研究の結果から,若年健常者では,高齢者とは相違した結果が示された。下肢体性感覚は,若年健常者であっても動的バランス能力に影響を与える因子であると考えられており,渡邊らは,若年健常者の足底部に冷却刺激をおこない,足底感覚情報を著しく低下させることで,動的バランス能力は低下したと報告している。しかし,本研究の結果において,動的バランス能力に体性感覚が影響しなかった理由として,対象が健常および若年であるため,対象の体性感覚の感度が正常範囲にあり,個人差が生じていなかったためであると考えられた。膝伸展筋力と動的バランス能力との関連性については,本研究の結果において,若年健常者であっても高齢者と同様にその相関性が示されたことで,年代にかかわらず膝伸展筋力が動的バランス能力に影響する可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,若年健常者における動的バランス能力の関連因子を示せたことで,理学療法において重視されるバランス分野の実態解明の一助になる可能性が考えられる。