第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述30

がん1

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:10 PM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:田仲勝一(香川大学医学部附属病院 リハビリテーション部)

[O-0227] がん患者に対する低強度の運動が身体機能,
身体・精神症状,身体活動量,ADLおよびQOLにおよぼす影響

石井瞬1, 中野治郎2, 夏迫歩美1, 坂本淳哉2, 神津玲1, 沖田実3 (1.長崎大学病院リハビリテーション部, 2.長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻理学・作業療法学講座理学療法学分野, 3.長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻運動障害リハビリテーション学分野)

Keywords:がん, 運動強度, QOL

【はじめに,目的】
放射線化学療法や緩和ケアなどの保存的治療が適応となるがん患者では,痛みや倦怠感などの身体症状や不安・抑うつなどの精神症状が高頻度に認められる。それらの症状によって日常生活動作(以下,ADL)や身体活動量が低下すると,廃用症候群が進行してしまい,さらに身体・精神症状が増悪するといった悪循環に陥ることがある。先行研究ではこのようながん患者に対する有酸素運動などの高強度の運動療法の有用性が報告されているが,臨床では歩行などの低強度の運動しか実施できない症例も少なくない。一方,近年,がん患者において身体活動量の低下が痛みや倦怠感,抑うつの増強および生活の質(以下,QOL)の低下と関連していることが報告されており,低強度の運動であっても身体活動量を向上させることが身体・精神症状の改善やQOLの向上に有用ではないかと考えられる。そこで,今回,保存的治療が適応となるがん患者を対象に低強度の運動療法を実施し,身体機能,身体・精神症状,身体活動量,ADLおよびQOLにおよぼす影響について検討した。
【方法】
対象は,2012年8月から2014年10月までに放射線化学療法を目的に当院に入院し,リハビリテーションを実施したがん患者46例とした(平均年齢69.8歳,男性23名,女性23名)。運動には歩行や階段昇降などの日常生活動作を取り入れ,その際には運動負荷強度が40%以下となるようにカルボーネン法により上限心拍数を算出して実施した。評価項目は握力,膝伸展筋力,10m歩行速度,Time Up and Go test(以下,TUG),運動時痛の強度(Visual Analog Scale:VAS),倦怠感(Cancer Fatigue Scale:CFS),不安・抑うつ(Hospital Anxiety and Depression Scale:HADS),身体活動量(1日平均歩数および活動時間),ADL(Functional Independence Measure:FIM),QOL(EORTC QLQ-C30)として,各評価項目についてリハビリテーション介入時と退院時で比較した。統計解析にはWilcoxonの符号付順位和検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
退院時の握力,膝伸展筋力,10m歩行速度,TUGといった身体機能は介入時と退院時の間に有意差を認めなかった。一方,運動時痛のVAS,CFSは介入時と比べて有意に低値を示し,また,退院時の1日平均歩数および活動時間,FIM,EORTC QLQ-C30における総合スケールの点数は介入時と比べて有意に高値を示した。また,全症例を対象にするとHADSの点数は介入時と退院時の間に有意差を認めなかった。しかし,介入時にHADSの合計点数が11点以上の精神症状を有する症例を対象とすると,退院時の不安が介入時と比べて有意に低値を示した。
【考察】
今回の結果から,歩行や階段昇降を中心とした低強度の運動では,保存的治療が適応となるがん患者の筋力や歩行速度といった身体機能を向上させることはできなくとも,身体活動量の向上と身体・精神症状の改善が得られることが示唆された。そして,身体活動量の向上と身体・症状の改善が退院時のADLとQOLの向上に繋がったと推察される。しかし,鎮痛薬や放射線化学療法などの治療の効果も要因として考えられるため,今後は対照群を設定するなど低強度の運動の影響をより詳細に検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から,保存的治療が適応となるがん患者に対する低強度の運動は,身体活動量を向上させ,身体・精神症状の改善やQOLの向上に効果がある可能性が示唆された。これまでにがん患者に対する低強度の運動がおよぼす影響を検討した報告はほとんどなく,本研究の結果はがん患者に対するリハビリテーションを考えていく上で重要な基礎データになると考える。