第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述30

がん1

2015年6月5日(金) 16:10 〜 17:10 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:田仲勝一(香川大学医学部附属病院 リハビリテーション部)

[O-0228] 保存療法を行うがん患者の運動機能に関する調査研究

中野治郎1, 石井瞬2, 坂本淳哉1, 夏迫歩美2, 川内春奈1, 神津玲2, 沖田実3 (1.長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻理学療法学分野, 2.長崎大学病院リハビリテーション部, 3.長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻運動障害リハビリテーション学分野)

キーワード:がん, 保存的療法, 運動機能

【はじめに,目的】

がん患者に対するリハビリテーション(以下,リハビリ)では,レジスタンストレーニングや有酸素運動といった積極的な運動介入が推奨されており,その効果は多くの研究で確かめられている。しかし,化学療法や放射線療法といった保存療法を行うがん患者では,治療の副作用が激しいため積極的な運動介入は困難であり,病室内での行動さえも制限されることがある。そのような場合は,患者の障害に応じたリハビリプログラムを展開する必要があるが,本邦では保存療法を行うがん患者の運動機能に着目した報告が少ない。そこで本研究では,保存療法を行うがん患者の運動機能に関する基礎データを構築することを目的とし,調査を行ったので報告する。
【方法】
調査対象は,2012年7月以降に保存的治療目的で長崎大学病院へ入院し,リハビリを処方された60歳以上のがん患者60名であり(平均年齢71.4±12.4歳,男性31名,女性29名),主な病巣は血液28名,消化器10名,肺10名,その他12名で,行っている治療は化学療法40名,放射線療法4名,化学・放射線療法の併用11名,その他5名であった。評価項目は,Performance Status(以下,PS),膝伸展筋力,大腿筋厚,握力,Timed Up and Goテスト(以下,TUG),1日歩数,身体活動量,機能的自立度評価表(以下,FIM)とし,評価はリハビリ開始時に行った。膝伸展筋力は端座位・膝関節90度屈曲位でミュータスF1(アニマ社製)を用いて測定し,大腿筋厚は超音波診断装置SeeMore(メディコヒラタ社製)を用いて膝蓋骨上縁10cm部の大腿直筋と中間広筋の合計厚を測定した。1日歩数と身体活動量はライフコーダーGS4(スズケン社製)を用いて測定し,リハビリ開始から1週間の平均値を算出した。また,基本情報として年齢,BMIの他に血液生化学,倦怠感,不安抑うつ,痛みの検査結果を得た。データ解析では,全身状態の指標であるPSの段階に基づき,患者をPS1群,PS2群,PS3群,PS4群の4群に分け,各評価結果を比較した。統計手法には一元配置分散分析を適応し,有意水準は5%未満とした。
【結果】
各群の基本情報を見ると,年齢のみPS1群に比べPS4群が有意に高値を示したが,それ以外の項目では全ての群間に差はなかった。次に,各群の運動機能を比較すると,膝伸展筋力と握力はPS1群に比べPS2群,PS3群,PS4群が有意に低値を示し,また,PS2群,PS3群に比べPS4群が有意に低値を示した。1日歩数,身体活動量,FIMはPS1群とPS2群の間に有意差はなく,それらに比べてPS3群とPS4群は有意に低値を示した。TUGではPS1群,PS2群に比べPS3群が有意に高値を示し,PS4群は測定が困難であった。大腿筋厚はPS1群,PS2群,PS3群の間に有意差はなく,それらに比べてPS4群のみが有意に低値を示した。
【考察】
今回の調査の結果,保存療法を行うがん患者ではPSが重度化するのにしたがって,まずPS2の段階で膝伸展筋力,握力といった努力性の最大筋力が低下し,次にPS3の段階でTUG,身体活動量,FIMなど実際のADL能力が低下,最終的にPS4の段階で筋ボリューム(大腿筋厚)の低下に至ることが示唆された。PSの判定基準は日常生活制限の程度に基づいていることから,その進行に準拠して運動機能が低下していることは容易に予想できた。しかし,その推移に各評価項目間に違いがあることは新たな知見であり,PSのそれぞれの段階においてリハビリのターゲットにするべき運動機能の病態と残存機能は異なるといえる。これらのことから,保存療法を行うがん患者では,運動障害を正確に評価し,それに応じたリハビリプログラムを提供していくことが重要であると考えられた。今後は,調査を継続しつつ,その結果に基づいてPSの各段階に適切なリハビリプログラムの確立に繋げていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,保存療法を行うがん患者に対する理学療法プログラムの立案にあたって参考となる運動機能の基礎データを提示するものであり,理学療法学研究として十分な意義があるといえる。