[O-0229] 理学療法介入時期の違いが化学療法を受けたがん患者の下肢筋力に与える影響
Keywords:がん, 化学療法, 廃用症候群
【はじめに,目的】
化学療法中のがん患者においては,その副作用である倦怠感や骨髄抑制による活動制限,嘔気や下痢などによる栄養障害および神経障害などから,筋力低下などの廃用症候群を惹起し易い環境にあるといえる。がん治療中の患者に対する運動療法が身体機能および精神機能に及ぼす影響は報告されているが,外科的治療と比較して明確な侵襲のない化学療法では廃用症候群が進行して初めて理学療法介入が行われることも少なくない。そこで本研究では,理学療法介入時期の違いが廃用症候群の一指標として下肢筋力に及ぼす影響について調査したため報告する。
【方法】
対象は,2012年4月~2014年9月に当院にて化学療法期間中に理学療法が実施されたがん患者(n=79)より,運動麻痺を認めたもの(n=2),下肢骨への転移を有するもの(n=3),1か月以上高容量のステロイド剤を継続使用しているもの(n=3),既往に明らかな運動器疾患のあるもの(n=3)を除外した68名とした。対象者を理学療法介入時期に応じて化学療法開始前から介入が行われた群(以下A群,n=18),開始後2週以内から介入された群(以下B群,n=25),開始後2~4週から介入された群(以下C群,n=11),開始後4週以降に介入された群(以下D群,n=14)の4群に分類した。疾患についてはいずれの群においても造血器腫瘍が半数以上となり,次いで消化器癌が多かった。抗がん剤の種別については代謝拮抗薬が最も多く,次いで微小血管阻害薬が多かった。対象者には原則として5回/1weekの頻度で1単位/day,下肢の筋力トレーニングおよび歩行トレーニングが実施された。下肢筋力は介入時および介入後2週時(以下介入後)に,等尺性膝伸展筋力を徒手筋力測定器(MICROFET,HOGGAN HEALTH INDUSTRIES製)を用いてすべて同一検者が評価し,測定値を先行研究の各年代別平均値で除した値を用いた。各群間の比較には一元配置分散分析を実施後,多重比較としてTukey法を実施し,介入前後の比較には対応のあるt検定を用いた。また筋力低下に関わる因子として化学療法中の有害事象をCTCAEver4.0,栄養状態をMini Nutritional Assessment Short Form(以下MNA-SF),ADLをBarthel Index(以下BI)を用いて評価した。統計ソフトはSPSSver22.0を用い,有意水準を5%未満とした。
【結果】
A群,B群,C群,D群の順に,下肢筋力年代比(平均値±標準偏差)では介入時(63.0±21.2%,64.4±16.9%,40.2±14.2%,41.1±16.2%),介入後(62.4±22.3%,62.0%±14.7%,44.6±14.5%,35.4±20.6%)となり,介入時ではA群およびB群においてC群およびD群と比較して有意に筋力が高く(p<0.01),介入後ではA群およびB群においてD群と比較し有意に筋力が高かった(p<0.05)。下肢筋力年代比の介入前後比較ではいずれの群においても有意な差を認めなかった。CTCAEver4.0による有害事象には各群において有意な差はなく,MNA-SF(中央値)では(9,9.5,6,5.5),BI(中央値)では(95,90,75,67.5)となり,A群,B群において高値を示した。
【考察】
結果より,化学療法期間中のがん患者における下肢筋力は治療開始2週後より低下し,2週間の理学療法介入ではそのレベルが維持される傾向にあることが示唆された。先行研究では化学療法開始時より筋力トレーニングを行うことにより下肢筋力の向上を認める報告もあるが,本研究とはトレーニング量および観察期間が異なっており,今後理学療法内容などの再検討が必要と考えられる。治療開始2週以降に介入した群において著明な筋力低下を認める原因としては,薬理作用として微小血管新生阻害等の影響も考えられるが,すべての抗がん剤にて同様の副作用が発生するわけではないため,結果の通り栄養障害およびADL低下による活動制限が化学療法による副作用を修飾し,著明な筋力低下をきたすものと考えられる。よって化学療法が施行されるがん患者の廃用予防に関しては,早期から理学療法介入を行い,ADLを維持し,栄養面を含めた多方面からの介入が必要であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
化学療法が施行されるがん患者に対する理学療法早期介入は,治療中の廃用症候群予防に対して有効である可能性が示唆された。
化学療法中のがん患者においては,その副作用である倦怠感や骨髄抑制による活動制限,嘔気や下痢などによる栄養障害および神経障害などから,筋力低下などの廃用症候群を惹起し易い環境にあるといえる。がん治療中の患者に対する運動療法が身体機能および精神機能に及ぼす影響は報告されているが,外科的治療と比較して明確な侵襲のない化学療法では廃用症候群が進行して初めて理学療法介入が行われることも少なくない。そこで本研究では,理学療法介入時期の違いが廃用症候群の一指標として下肢筋力に及ぼす影響について調査したため報告する。
【方法】
対象は,2012年4月~2014年9月に当院にて化学療法期間中に理学療法が実施されたがん患者(n=79)より,運動麻痺を認めたもの(n=2),下肢骨への転移を有するもの(n=3),1か月以上高容量のステロイド剤を継続使用しているもの(n=3),既往に明らかな運動器疾患のあるもの(n=3)を除外した68名とした。対象者を理学療法介入時期に応じて化学療法開始前から介入が行われた群(以下A群,n=18),開始後2週以内から介入された群(以下B群,n=25),開始後2~4週から介入された群(以下C群,n=11),開始後4週以降に介入された群(以下D群,n=14)の4群に分類した。疾患についてはいずれの群においても造血器腫瘍が半数以上となり,次いで消化器癌が多かった。抗がん剤の種別については代謝拮抗薬が最も多く,次いで微小血管阻害薬が多かった。対象者には原則として5回/1weekの頻度で1単位/day,下肢の筋力トレーニングおよび歩行トレーニングが実施された。下肢筋力は介入時および介入後2週時(以下介入後)に,等尺性膝伸展筋力を徒手筋力測定器(MICROFET,HOGGAN HEALTH INDUSTRIES製)を用いてすべて同一検者が評価し,測定値を先行研究の各年代別平均値で除した値を用いた。各群間の比較には一元配置分散分析を実施後,多重比較としてTukey法を実施し,介入前後の比較には対応のあるt検定を用いた。また筋力低下に関わる因子として化学療法中の有害事象をCTCAEver4.0,栄養状態をMini Nutritional Assessment Short Form(以下MNA-SF),ADLをBarthel Index(以下BI)を用いて評価した。統計ソフトはSPSSver22.0を用い,有意水準を5%未満とした。
【結果】
A群,B群,C群,D群の順に,下肢筋力年代比(平均値±標準偏差)では介入時(63.0±21.2%,64.4±16.9%,40.2±14.2%,41.1±16.2%),介入後(62.4±22.3%,62.0%±14.7%,44.6±14.5%,35.4±20.6%)となり,介入時ではA群およびB群においてC群およびD群と比較して有意に筋力が高く(p<0.01),介入後ではA群およびB群においてD群と比較し有意に筋力が高かった(p<0.05)。下肢筋力年代比の介入前後比較ではいずれの群においても有意な差を認めなかった。CTCAEver4.0による有害事象には各群において有意な差はなく,MNA-SF(中央値)では(9,9.5,6,5.5),BI(中央値)では(95,90,75,67.5)となり,A群,B群において高値を示した。
【考察】
結果より,化学療法期間中のがん患者における下肢筋力は治療開始2週後より低下し,2週間の理学療法介入ではそのレベルが維持される傾向にあることが示唆された。先行研究では化学療法開始時より筋力トレーニングを行うことにより下肢筋力の向上を認める報告もあるが,本研究とはトレーニング量および観察期間が異なっており,今後理学療法内容などの再検討が必要と考えられる。治療開始2週以降に介入した群において著明な筋力低下を認める原因としては,薬理作用として微小血管新生阻害等の影響も考えられるが,すべての抗がん剤にて同様の副作用が発生するわけではないため,結果の通り栄養障害およびADL低下による活動制限が化学療法による副作用を修飾し,著明な筋力低下をきたすものと考えられる。よって化学療法が施行されるがん患者の廃用予防に関しては,早期から理学療法介入を行い,ADLを維持し,栄養面を含めた多方面からの介入が必要であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
化学療法が施行されるがん患者に対する理学療法早期介入は,治療中の廃用症候群予防に対して有効である可能性が示唆された。