第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述30

がん1

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:10 PM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:田仲勝一(香川大学医学部附属病院 リハビリテーション部)

[O-0232] レゴラフェニブ投与患者の手足皮膚反応に対するオーダーメイド・インソールの予防効果について

杉本寿司1, 辻靖2, 光野薫3, 加藤奈美3, 縣幹春4, 佐藤明紀1, 中村恵二1, 加藤純代1, 阿部貴至1, 楫野知道1,5 (1.KKR札幌医療センター斗南病院リハビリテーション科, 2.KKR札幌医療センター斗南病院腫瘍内科, 3.KKR札幌医療センター斗南病院看護部, 4.森口義肢製作所, 5.KKR札幌医療センター斗南病院整形外科)

Keywords:マルチキナーゼ阻害薬, 手足皮膚反応, インソール

【はじめに,目的】
レゴラフェニブ(薬品名スチバーガ®錠)は2013年に「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」を適応症として製造販売承認を受けたマルチキナーゼ阻害薬である。マルチキナーゼ阻害薬に特異的な副作用として,手や足の圧負荷のかかる部位での皮膚障害(手足皮膚反応)があり,本剤では80%と高率に認める。手足皮膚反応は手作業や歩行に支障をきたし,QOL低下の一因となる。さらに中等度以上(grade2-3)の障害時には減量や休薬が必要となり,治療の継続を困難にする。手足皮膚反応の予防には皮膚の湿潤環境保持や過剰な圧負荷を避けることが重要とされるが,歩行において足底への圧は避けられず,手足皮膚反応の予防と活動性の維持を両立するのは難しい。今回我々は,足底における過剰な圧負荷を分散させるために患者個人に最適なオーダーメイド・インソールを作成し,予防的に着用することで足底での皮膚反応が軽減できるかを検討した。
【方法】
2013年11月より2014年6月の間に当院にてレゴラフェニブを1コース以上(3週間の服薬と1週間の休薬期間)投与した大腸癌患者13例を対象とした。
理学療法士による姿勢・歩行評価と足部の評価,静的動的な足圧分布,荷重下での採型データに基づき,義肢装具士と協同でオーダーメイド・インソールを作成した。足圧分布の計測にはWin-Pod(Medicapteurs社製)を用いた。治療期間中は屋外,屋内ともにインソールを着用させた。手足皮膚反応の評価はCTCAE version 4.0を用いて毎週行い,先行研究であるCORRECT試験(国際共同第III相試験)の結果と比較検討した。また,同一患者において手と足における皮膚障害の程度の違いを比較検討した。統計学的検討にはフィッシャーの正確確率検定を用い,有意水準を5%とした。インソールを使用したことによる有害事象を調査した。
【結果】
手足皮膚反応は全gradeを合わせて7例(53.8%)に認められた。grade3は認めなかった。手足皮膚反応による服薬中止は生じなかった。発症部位別では,手の皮膚病変は7例53.8%(grade1:3例,grade2:4例,grade3:0例),足の皮膚病変は5例38.5%(grade1:4例,grade2:1例,grade3:0例)に認めた。本研究における手足皮膚反応の発症率はCORRECT試験と比較して有意に低かった(P=0.000092)。同一患者における手足の皮膚病変発症率は有意差が見られなかった。しかし,手に皮膚病変が認められたが足には認められなかった症例を2例認めた。また手にはgrade2が認められたが足はgrade1という症例を3例認めた。足の皮膚病変の発症部位は,歩行時の足圧分布評価で特に高圧だった骨突起部に生じる傾向が見られた。インソールによる有害事象は,足の蒸れによる不快感や悪臭を6例46.2%に認めた。病勢の進行に伴うるい痩に起因したインソールの不具合のため,2例で足の皮膚病変が生じたが,修正後には改善した。
【考察】
レゴラフェニブ投与患者における手足皮膚反応に対して有効な予防策は確立していない。今回我々はレゴラフェニブ投与患者に対してオーダーメイドのインソールを使用することで足の皮膚病変を抑制できた。代表的な足底の皮膚病変である胼胝や鶏眼は,骨突起部への荷重やせん断力が集中した部位に発症しやすい。また,レゴラフェニブの作用機序の一つとして血管新生の抑制がある。血管新生が抑制された環境下で,特定の骨突起部に荷重ストレスが集中した場合に,褥瘡と同様の機序で同部位に高度な皮膚障害が生じると想定されている。インソールによって荷重時の足底接触面積が増加し,歩行時の足底圧を骨突起部以外に分散したことによって,足の皮膚障害を抑制できたと考える。荷重ストレスの分散と骨突起部への荷重軽減を目的としてインソールを使用する場合,既製品ではなく,オーダーメイドのインソールを使用することが肝要であると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
近年,様々なマルチキナーゼ阻害薬が開発され,数多くのがん種で臨床応用されている。同薬剤に特徴的な手足皮膚反応を理学療法の観点から予防する意義は大きい。QOL低下の大きな原因となる足底の皮膚病変を軽減することは,薬剤のアドヒアランスを向上させ,より質の高い延命に寄与すると考える。