第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述31

脳損傷理学療法3

2015年6月5日(金) 16:10 〜 17:10 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:松田雅弘(植草学園大学 保健医療学部)

[O-0238] 重度脳卒中片麻痺患者のトイレ動作に対する長下肢装具を用いた練習効果の検証

多職種協同による練習を通して

村井直人, 与儀哲弘, 今山裕康 (医療法人ちゅうざん会ちゅうざん病院)

キーワード:長下肢装具, トイレ動作, 多職種

【はじめに,目的】
長下肢装具(以下KAFO)を用いた治療に関する報告は多くみられるが,KAFOを生活場面に用いる,またはPT以外の職種によるKAFOを用いた治療に関する報告は少ない。我々はトイレ動作の介助量が多い重度脳卒中片麻痺患者5症例に対し,KAFOを積極的に用いたPT個別リハに加え,病棟生活におけるトイレ動作時に大腿上位半月をカットしたKAFO(以下semiKAFO)を用いる下衣操作練習を多職種(PT・OT・ST・NS・CW)にて行った。その結果全症例において装具なしでの動作が自己にて可能となった。この多職種にてsemiKAFOを用いた練習の効果を検証するために,使用者と不使用者で下衣操作獲得の帰結,トイレ動作に関わる能力や運動機能の変化,帰来先を比較・検討したのでここに報告する。
【方法】
平成24年9月から平成26年3月までに当院に入院した初発の重度脳卒中片麻痺患者(入院時Functional Independence Measure(以下FIM)の運動項目37点未満,入院時下衣操作全介助)でKAFOを作製した15名を対象とし,その中から多職種にてsemiKAFOをトイレで使用した者5名(以下:使用群,年齢70.0±10.6歳)とPT個別リハのみの使用に留まった者10名(以下:不使用群,年齢78.0±8.7歳)の2群に分けた。なお,認知症などで指示理解が困難な者は除外した。使用群における練習開始へと至る基準としては,下衣操作が重度介助を要する場合,KAFO装着での下衣操作を評価し軽介助~監視にて実施可能な者とした。次に練習は起立・着座・移乗時は膝継手ロックを外す,下衣操作時のみロックを入れる方法に統一した。またsemiKAFOは車椅子乗車時から装着し,常にトイレで使用できるようにした。対象の2群間における下衣操作獲得の帰結(可能・不可能),入・退院時FIM(トイレ動作・排尿管理・排便管理・トイレ移乗・移動),入・退院時上肢・手指・下肢Bruunstrom stage,入・退院時NTP-stage,帰来先(自宅・施設)をカルテより後方視的に調査した。またその他項目として,年齢,在院日数,入・退院時FIM運動項目(以下FIM-M)・認知項目(以下FIM-C)についても調査した。各調査項目における群間比較を,2標本t検定及びマンホイットニーのU検定,χ2検定を用いて行った。なお,有意水準は1%及び5%未満とし,統計解析にはR2.8.1を使用した。
【結果】
下衣操作獲得の帰結については,可能であった者の割合が使用群100%,不使用群10%であり,使用群の方が可能者が多く有意差を認めた(p<0.01)。退院時FIMのトイレ動作(使用群4.4±0.5点,不使用群2.7±1.4点)・排尿管理(使用群5.0±0.8点,不使用群2.7±1.7点)・排便管理(使用群5.0±1.0点,不使用群2.6±1.9点)・移動(使用群5.2±0.8点,不使用群2.7±1.7点)や退院時NTP-stage(使用群3.4±0.5,不使用群2.5±0.8),退院時FIM-M(使用群58.8±5.9点,不使用群39.6±17.3点)については,使用群の方が高値であり有意差を認めた(p<0.05)。帰来先については,自宅退院者の割合が使用群80%,不使用群20%であり,使用群の方が自宅が多く有意差を認めた(p<0.05)。退院時FIM-C(使用群25.2±3.0点,不使用群16.7±5.8点)については使用群の方が高値であり有意差を認めた(p<0.01)。その他項目は有意差を認めなかった。
【考察】
KAFOをPTのみの使用に留めず実際のトイレ場面においても多職種にて積極的に使用していくことは,トイレ動作の介助量軽減に有効であることが示唆された。トイレ動作は移動・移乗・下衣操作・排泄・清拭から構成されている。今回は下衣操作に対してsemiKAFOを用いた練習を行ってきたが,これは単に装具により下衣操作の難易度を軽減させ,多職種にて効果的な練習量を確保したことによる運動学習の効果が下衣操作獲得に影響を及ぼしたということだけではないと思われる。両足底に荷重しアライメントを確保した立位をとる機会が増えたこと,生活場面にて成功体験を積み重ねた動作介入ができたことが,体幹機能や社会的認知の改善に加え,移動・排泄・清拭といった能力の改善にも繋がった要因であると推察する。またトイレ動作の獲得は自宅退院に大きく影響することが報告されており,トイレ動作の介助量軽減が自宅復帰率の改善にも繋がったと考える。今後はトイレ以外での生活場面における立位・歩行練習を多職種にて行うような取り組みや家族に対するKAFOを用いた練習の指導なども検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
KAFOを工夫し生活場面にも多職種にて積極的に使用していくことの有効性が示唆されたという点において臨床的意義が高いと考える。