第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述33

肩関節

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:10 PM 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:山崎重人(マツダ株式会社 マツダ病院 リハビリテーション科)

[O-0246] 術前の肩関節可動域制限が腱板断裂修復術後3か月における
機能評価,患者立脚評価に及ぼす影響

―患者立脚評価システムShould36V.1.3を使用して―

松本仁美1, 東福寺規義1, 海老澤恵2, 孫田岳史1, 堀悠子1, 小川さゆり1, 野田健登1, 柏木圭介1, 中里友哉1, 正門由久3, 内山善康4 (1.東海大学医学部付属病院診療技術部リハビリテーション技術科, 2.東海大学医学部付属八王子病院診療技術部リハビリテーション技術科, 3.東海大学医学部付属病院専門診療学系リハビリテーション科学, 4.東海大学医学部外科学系整形外科学)

Keywords:肩関節, 腱板断裂, Shoulder36

【はじめに,目的】
肩腱板断裂修復術(以下RCR)において,術後成績は比較的良好といわれている。術後成績の不良因子として罹患期間,受傷原因,術前の拘縮が関与するという報告があり,臨床の場面でも術前の可動域が低下している症例は術後理学療法が長引く印象がある。術後早期の理学療法は肩関節可動域の改善に有用であるという報告や,肩関節可動域制限が術後の筋力回復を阻害するという報告があり,術後早期の理学療法において肩関節可動域の獲得は重要と考える。
当院のRCR術後患者は,再建した腱の配慮から術後3か月に初めて抵抗運動を開始し,ある程度のADL動作が可能になる。ADLを遂行するには一定の可動域が必要であり,術前から可動域制限がある場合,術後3か月も肩機能評価のみならず患者立脚評価にも影響が及ぶと考えた。今回の研究の目的は,術前の可動域制限が術後3か月における機能評価,患者立脚評価に及ぼす影響を明らかにすることである。
【方法】
対象は2011年10月から2014年3月までに関節鏡を用いたmini open法で手術を行い当院でのプロトコールで理学療法を施行して終了した中断裂以下のRCR術後患者67例67肩である。なお術前拘縮が認める例は術中に関節授動術を施行した。術前の肩関節屈曲,下垂位外旋自動可動域を測定し,肩関節屈曲150°かつ下垂位外旋60°以上であった群16例16肩(以下良好群),肩関節屈曲100°かつ下垂位外旋40°未満であった群14例14肩(以下不良群)を抽出した。比較項目は性別,手術時年齢,受傷機転,断裂サイズ,糖尿病の有無,罹患期間,術後理学療法期間とした。術後3か月の機能評価として肩関節屈曲,外転,下垂位外旋,下垂位内旋の自動可動域及び等尺性筋力(健患比),疼痛(Numeric Rating Scale NRS:安静時,夜間時,運動時)を測定した。患者立脚評価としてSh36各領域(疼痛,可動域,筋力,健康感,日常生活,スポーツ)の点数を調査した。統計処理にはMann-Whitney’sU検定,χ2検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
良好群,不良群の順に,罹患期間は7.0(6.0-8.8),4.0(4.0-6.5),術後理学療法期間は6.0(5.0-6.0),9.0(7.5-11.5)か月と有意な差を認めた(p<0.05)。術後3か月における肩関節屈曲自動可動域は122.0(119.3-145.3),98.5(80.8-116.8),外転112.5(100.0-130.3),85.0(78.8-116.3),下垂位外旋43.5(27.8-63.0),25.5(19.0-35.0)°であった。下垂位内旋自動可動域は34.6(33.6-39.9),44.5(39.0-46.6)cmであった。肩関節外転筋力69.7(59.1-79.2),51.7(41.8-64.6),下垂位外旋73.3(64.2-87.5),48.1(42.1-59.3)%であった。Sh36は疼痛3.8(3.3-3.8),2.9(2.3-3.3),可動域3.7(3.3-4.0),3.1(2.2-3.3),筋力3.3(3.0-3.6),2.3(1.2-2.8),日常生活3.6(3.4-3.8),2.9(2.3-3.4),スポーツ2.8(1.5-3.0),1.0(0.0-2.0)点であった。各項目いずれも有意な差を認めた(p<0.05)。
【考察】
いくつかの先行研究で術前の可動域制限は術後3か月から24か月まで残存すると報告されている。また自動可動域が術後3か月で屈曲120°,外旋10°以下では2年後の可動域に影響を及ぼすと報告されている。術前可動域制限があり術後3か月で屈曲120°以下であった不良群の可動域制限は残存する可能性がある。また不良群は外転筋力,外旋筋力も低値を示した。術前から可動域制限のある症例は術後3か月でも,棘上筋,棘下筋という腱板機能の低下により外転,外旋筋力に影響を及ぼしたと考える。腱板縫合部の修復には術後3か月程度要するという報告があり,当院ではそれまで愛護的に可動域,腱板機能練習を行っている。術後3か月に初めて抵抗運動を開始することもあり,筋力回復には可動域以上に時間を要すると考える。Sh36は十分なQOL評価が可能で,JOAスコアと相関があるといわれている。またJOAスコアの関節可動域点と筋力点は術後3か月におけるADL制限因子と強く相関すると報告されている。可動域制限や筋力低下の影響で,術後3か月においてもADLに支障をきたしQOLの低下を招き,Sh36が低値に至ったと考える。ADLに必要な動作は屈曲100°,外転110°,外旋40°以上と報告されている。不良群はいずれも劣り,ADL動作が阻害され,それもSh36が低値に至った原因と考える。
【理学療法研究としての意義】
術前に可動域制限を認める例は,術後3か月においても可動域,筋力,患者立脚評価に影響を及ぼした。また患者特性を捉えるのに機能的評価のみならず患者立脚評価も含め多角的に考慮する必要がある。