第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述33

肩関節

2015年6月5日(金) 16:10 〜 17:10 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:山崎重人(マツダ株式会社 マツダ病院 リハビリテーション科)

[O-0247] 鏡視下Bankart+Hill-Sachs Remplissage法術後の肩関節外旋可動域と外旋筋力

従来鏡視下Bankart法との比較

武井麻子, 江連智史, 鈴木智, 佐藤謙次 (船橋整形外科病院スポーツリハビリテーション部)

キーワード:反復性肩関節脱臼, 肩関節外旋可動域, Remplissage

【はじめに,目的】
肩関節は主に軟部組織や関節内陰圧により安定性を得ているため,最も脱臼が多い関節である。肩関節脱臼にて前方の関節包や関節唇が関節窩から剥離すると,肩関節の前方不安定性が発生する。Hill-sachs病変は一般的に肩関節の脱臼時に上腕骨頭が関節窩の前方関節縁と衝突し,結果生じる上腕骨頭後外側の骨折であり,鏡視下修復術後の再脱臼のリスクファクターとしても知られている。当院では肩関節脱臼,反復性肩関節脱臼患者に対し,全例鏡視下にてBankart法(以下,B法)を施行している。その中でもHill-sachs病変が重篤な者,また再発が危惧されるコリジョンスポーツ患者に対しては,鏡視下Bankart+Hill-sachs Remplissage法(以下,R法)が適応とされており,2012年1月から積極的に導入している。R法は棘下筋腱を固定し,再脱臼予防を目的として近年普及してきた術式である。臨床においてR法術後患者の肩関節外旋可動域や外旋筋力の改善に難渋するケースをしばしば経験する。従来の鏡視下B法術後について,術後肩関節外旋可動域,肩関節外旋筋力に関する報告は散見されるが,R法の報告は少ない。そこで本研究の目的は,従来のB法とHill-sachs病変を処置するR法の術後における肩関節外旋可動域,肩関節外旋筋力の経過の違いを明確にするために,術前と術後6ヶ月時において比較検討することである。

【方法】
対象は,2012年8月から2014年5月に当院にて肩関節脱臼または反復性肩関節脱臼と診断され,B法もしくはR法を施行し,術前と術後6ヶ月時の定期測定が可能であった63例をB法群[43例(男性38例,女性5例),平均年齢23.7(13~44)歳]とR法群[20例(男性17例,女性3例),平均年齢20.0(15~32)歳]に分類した。またB法群でコリジョン,コンタクトスポーツ28例,その他15例,R法群でコリジョン,コンタクトスポーツ16例,その他4例と,全例スポーツ活動をしている者とした。測定項目は術前,術後6ヶ月時の肩関節外旋可動域,及び外旋筋力とした。肩関節外旋可動域は背臥位にて他動的に測定した。肩関節外旋筋力の測定はエムピージャパン株式会社製のisobexを用い,測定肢位は端座位にて肘関節90°屈曲位,前腕中間位で等尺性収縮にて行った。術前,術後6ヶ月時におけるB法群とR法群での肩関節外旋可動域と肩関節外旋筋力の比較を行った。統計学的処理はMann-Whitney U検定を用い,有意水準は5%とした。

【結果】
肩関節1st外旋可動域は,術前でB法群65.0±17.7°,R法群55.0±14.6°であり,二群間に有意差を認めなかった(p=0.218)。術後6ヶ月時ではB法群45.0±14.5°,R法群32.5±8.20°とR法群の方がB法群よりも有意に低値を示した(p=0.021)。外旋筋力において,術前でB法群6.5±2.8,R法群6.2±2.4であり,二群間に有意差を認めなかった(p=0.679)。術後6ヶ月時においてもB法群6.4±2.6,R法群5.7±2.4で二群間に有意差を認めなかった(p=0.223)。

【考察】
Grimbergらは,屍体実験にてB法群と比較し,R法群で肩関節外旋可動域が有意に低下したと報告している。また,BuzaらはR法術後の肩関節挙上可動域の改善は認められたが,肩関節外旋可動域は低下したと報告している。今回の結果でも同様に,術前の肩関節外旋可動域と肩関節外旋筋力には差がなかったが,術後6ヶ月時において肩関節外旋可動域がR法群で有意に低下していた。R法は再脱臼予防を目的とした術式であり,肩関節外旋可動域に関しては,術式の影響が大きく関与していたと考える。今後はR法術後の経過を長期的に追い,肩関節外旋可動域の経時的推移を含め,外旋筋力と再脱臼率,スポーツ復帰状況を調査をしていく必要があると考える。

【理学療法研究としての意義】
鏡視下Bankart+Hill-sachs Remplissage法は再脱臼がなくスポーツ復帰を可能とすると考える。肩関節外旋可動域はスポーツ活動において獲得しなくてはならない動作である。今回,鏡視下Bankart+Hill-sachs Remplissage法という術式の特徴が大きい中で,術後の経過の一過程を把握することが出来きた。今後はより長期的な調査にて再脱臼率,スポーツ復帰状況を把握し,術後リハビリテーションを施行していく上での一助としていきたい。