第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述33

肩関節

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:10 PM 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:山崎重人(マツダ株式会社 マツダ病院 リハビリテーション科)

[O-0248] 肩関節外転に伴う三角筋後部の位置変化と内旋・水平内転可動域制限の関連性

坂雅之, 伊藤博志, 蒲田和芳 (広島国際大学大学院医療・福祉科学研究科)

Keywords:肩関節可動域制限, 三角筋後部, 3次元MRI

【はじめに,目的】
肩関節可動域には,一般に骨形態,関節包の緊張,筋のタイトネスが関与する。肩関節内旋・水平内転制限は,肩峰下インピンジメント症候群を含む多くの肩疾患において認められる身体所見であり,可動域制限の原因について調査が行われてきた。後方関節包拘縮により内旋可動域制限を生じることが屍体実験によって検証されてきたが,生体における関節包拘縮の影響は不明であり,内旋・水平内転制限に関与する因子の理解は不十分である。
肩関節後方筋群において,三角筋後部が内旋・水平内転制限に関連すると報告された。屍体実験において,三角筋後部は肩関節内転,水平外転,外旋モーメントアームを有することが示されたが,生体における肩関節運動に伴う三角筋後部の位置変化と,可動域制限の関係については明らかになっていない。三角筋後部が肩関節内旋・水平内転制限に与える影響を明らかにすることで,肩疾患に対する理学療法の進展に貢献できる可能性がある。本研究は,生体における肩関節外転運動に伴う三角筋後部の位置変化を明らかにし,肩関節内旋・水平内転制限との関連性を示すことを目的とした。
【方法】
研究デザインは横断研究とし,肩関節外転位のMRI画像より作成した三角筋後部の3次元モデルを分析し,内旋・水平内転制限との関連性を調査した。対象者の包含基準は肩関節内旋・水平内転可動域制限を有する成人男性とし,肩関節に手術歴を有する者,MRI撮影が禁忌となる者,MRI撮影肢位をとれない者は除外した。条件を満たし,研究参加の同意が得られた成人男性10名を本研究の対象とした。肩関節可動域の測定にはデジタル傾斜計を用い,背臥位における他動内旋・水平内転可動域測定を実施した。
MRI撮影にはHITACHI AIRIS-II MRI Scanner(0.3 T;HITACHI, Japan)を用いた。背臥位,肩関節回旋中間位,肘関節屈曲位における,①肩甲骨面外転45°,②外転90°,③外転135°の3肢位で撮影を実施した。得られた2次元画像より専用ソフトを用いて上腕骨と三角筋の3次元モデルを作成し,上腕骨頭中心に座標系の原点を定め,上腕骨に合わせて座標軸を定義した。3肢位におけるモデルから,肩関節を後方からみた際の,上腕骨頭中心から三角筋後部下端までの距離を算出し,外転に伴う三角筋後部の位置変化を分析した。分析は対象者の肩関節内旋・水平内転可動域を盲検化された検査者が実施した。
統計解析には記述統計と相関分析を用い,有意水準はα=0.05とした。
【結果】
上腕骨頭中心-三角筋後部下端距離は,①外転45°において58.9±15.7 mm(95%信頼区間;49.1 mm,68.6 mm),②外転90°において30.9±18.4 mm(95%信頼区間;19.5 mm,42.3 mm),③外転135°において6.9±9.7 mm(95%信頼区間;0.9 mm,12.9 mm)であり,外転に伴い上腕骨に対して三角筋後部が上方に移動した。
相関分析の結果,上腕骨頭中心-三角筋後部下端距離と,内旋・水平内転可動域には有意な相関は認められなかった(P=0.452-0.979)。
【考察】
本研究の主要な知見は,(1)肩関節外転に伴い三角筋後部は上方に移動する,(2)上腕骨頭中心-三角筋後部下端距離と内旋・水平内転可動域に関連性はない,である。屍体実験においても,肩関節外転に伴い三角筋後部の内転モーメントアーム減少が認められており,外転に伴い三角筋後部が上方に移動するという結果が支持された。本研究で用いた3次元MRIモデルによる分析は,正確なモーメントアームの評価が可能な屍体実験に対して,一定の妥当性を有していると考えられる。
肩関節スティフネス患者を対象とした先行研究によると,三角筋後部,棘下筋,小円筋のスティフネスと内旋可動域に負の相関があり,なかでも三角筋後部が最も内旋制限と関連すると報告された。本研究では三角筋後部の外転に伴う位置変化と可動域制限の関連性を検証したが,関連性を見出すことはできなかった。その原因として,筋による制限因子を排除した場合の関節可動域が計測できない点が挙げられる。今後は分析項目に修正を加え,健常者や肩疾患患者を対象とした,サンプルサイズの大きい研究が必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究で用いた3次元MRI法は,生体における筋の位置変化の評価が可能であり,肩関節以外の関節を含めた幅広い研究に応用可能である。本研究において筋と可動域の関係を見出すことはできなかったが,生体における筋の機能解剖に対する理解が深まることで,理学療法の発展にも寄与できると考えられる。