第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述33

肩関節

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:10 PM 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:山崎重人(マツダ株式会社 マツダ病院 リハビリテーション科)

[O-0250] 腱板修復術後の肩甲上神経の潜在的ダメージに関する筋電図学的検索

Erb点刺激によるCMAPからの検討

高井一志, 露口明宏, 木村啓介 (三豊総合病院企業団)

Keywords:腱板断裂, 肩甲上神経, 誘発筋電図

【研究の背景】
腱板断裂修復術は,従来の直視下法とbone tunnel法から,鏡視下手術やスーチャーアンカー法,あるいはアンカーブリッジ法や上方関節包再建術などの新しい手技が考案され臨床成績が向上している。しかしながら,断裂した筋の脂肪変性・萎縮や代償運動の固定化により大断裂・広範囲断裂では機能回復に時間を要す場合も見られる。一方,MEPやSEP,ABRなどの術中モニタリングでは,神経の圧迫や牽引などの操作に伴い活動電位が可逆的に低下する事が観察される。腱板断裂修復時においても退縮した腱板の3cm以上の引き出しは,肩甲上神経の損傷のリスクが高くなると報告されている。しかし,3cm未満の引き出しでも可逆的な神経ダメージが存在している可能性があると思われる。それを踏まえて当院では潜在的な神経損傷の存在を確認する目的で,術後のスクリーニング検査として運動神経伝導検査運動神経伝達検査(Motor nerve Conduction Study:以下MCS)を希望者に行っており,今回はその結果を報告する。
【対象および方法】
対象は,2011年1月から2014年8月までの期間に当院で腱板修復術を行った症例の中で,術後のスクリーニング検査を希望した17例,(男12名:女性5名),年齢は51-80歳であった。全例ミニオープン法で,術式はbone tunnel法4例,スーチャーアンカー法7例,アンカーブリッジ法(変法を含む)3例,パッチ法3例であった。MCSは,再断裂を考慮し肩関節自動運動を開始してから2週間以降(術後28-69日)に測定した。棘上筋と棘下筋の複合筋活動電位(Compound muscle action potentials:以下CMAP)をErb点刺激にて測定し,頂点間振幅の健患側比率を算出した。基準値は過去の健常人の報告を参考に65%未満を振幅の低下ありとした。振幅の低下がみられた症例は,初回検査から2~3か月後に再度検査を行った。
【結果】
振幅低下は17例中5例にみられた。内訳は棘上筋のみ3例,棘上筋+棘下筋2例であった。振幅比率は,29-57%の範囲であった。振幅低下のみられた症例はすべて再検査で振幅比率65%以上まで回復していた。断裂サイズは,中断列1例,大断裂2例,広範囲断裂2例であった。術式は,bone tunnel法2例,スーチャーアンカー法1例,アンカーブリッジ法1例,パッチ法1例であった。術後の挙上獲得可動域の平均値は(自動/他動)は,振幅低下なし群(137度/168度),振幅低下あり群(115度/159度)であった。到達までの期間は,振幅低下なし群2-12か月(平均4.8カ月),振幅低下あり群3-14か月(平均8ヵ月)であった。
【考察】
振幅の低下は5例にみられ潜在的な肩甲上神経損傷の存在が示唆された。しかし,全例,再検査で回復しており過度な腱板の引き出しがなければ可逆的範囲内であることもわかった。断裂サイズでは大きな断裂で見られるようであったが中断裂でも見られた。断裂がみられた中断裂例は術後28日目にMCSを行っており,測定日が術後早期であったために僅かなダメージでも回復が完了せずに観察されたと思われた。また,振幅低下あり群では回復に時間がかかる傾向にあったが,自動可動域も低下していた。これは,肩甲上神経損傷よりむしろ脂肪変性や手術侵襲によるダメージが関連するのではないかと思われる。
【理学療法学研究としての意義】
腱板修復術後は可逆的な肩甲上神経のダメージが存在する可能性があり,早期の理学療法おいては,側芽形成の促進などの適切な配慮が必要と思われる。