第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述34

がん2

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:00 PM 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:神津玲(長崎大学病院 リハビリテーション部)

[O-0251] 胸部食道癌根治術後の脊柱起立筋および大腰筋の経時的変化と関連因子

CT画像上の筋断面積の計測結果から

山田耕平1, 横山茂樹2, 塩田和輝1, 玉木久美子1, 安岐桂子1, 小野恭裕1, 本田透1 (1.香川県立中央病院リハビリテーション科, 2.京都橘大学健康科学部理学療法学科)

Keywords:食道癌術後, 体重減少, 筋断面積

【はじめに,目的】
胸部食道癌根治術は,侵襲の大きな外科手術の一つとされる。術後は経口摂取量の低下,消化吸収障害,代謝異常のため,体重減少は避けられないと考えられてきた。一方で,術後の体重減少はQOLの低下や合併症の発生に関係するとの報告もあり,体重減少を抑える試みも行われている。術後には炎症によるタンパク質の異化作用のため骨格筋の萎縮が発生するとされている。しかし骨格筋萎縮の程度と長期的な体重減少との関連性は不明である。
そこで今回,食道癌術後における体重と骨格筋の筋断面積の経時的変化を把握するとともに,骨格筋萎縮に影響を与える因子について調査した。
【方法】
2010年4月から2013年3月の間に当院で食道癌根治術を受けた患者の中で,術後に自宅生活が自立し,術前,術後3か月(3M),術後6か月(6M)にCT検査を受けた患者26例(男性23例,女性3例,平均年齢66.3±8.9歳)を対象とした。なお理学療法は,クリニカルパスに沿って術翌日から離床を進め,歩行練習や自転車エルゴメーターを実施し,退院にて終了した。
測定した骨格筋は,姿勢保持に関係する脊柱起立筋と歩行に関係する大腰筋とし,CT画像で脊柱起立筋はL3/4レベル,大腰筋はL4/5レベルで筋断面積を測定した。測定にはHOPE DrABLE-GX(富士通社製)を用いて,左右の脊柱起立筋,大腰筋をそれぞれフリーハンドで3回トレースし,その平均値を算出し,左右の合計を測定値とした。さらに患者の状態や経過を示す因子として,年齢,体重,身長,BMI,術後因子(気管内挿管日数,胸腔ドレーン挿入日数,入院日数),基本動作開始日数(端坐位,立位,歩行),Alb値(術前,入院中最低,退院時)を抽出した。
統計学的処理として,各時期における体重および各筋断面積について反復分散分析および多重比較を行った。さらに各時期における筋断面積を従属変数,各時期の体重,基本動作開始日数,Alb値を独立変数として,ステップワイズ重回帰分析を行った。なお有意水準は5%とした。

【結果】
各時期における体重は60.4±8.8kg,52.2±7.3kg,50.4±6.4kg(術前,3M,6M)で,術前と比べ3Mおよび6Mに有意に減少していた(いずれもp=0.001)。また3Mと6Mの間でも有意に減少していた(p=0.027)。各筋断面積は,脊柱起立筋は3850.1±609.4mm2,3488.8±558.3mm2,3472.0±578.9mm2,大腰筋は2078.4±539.4mm2,1824.7±475.1mm2,1903.0±498.9mm2で,いずれの筋断面積も術前に比べ3Mおよび6Mでは有意に減少していた(いずれもp<0.001)。しかし3Mと6Mの間には有意差を認めなかった。
重回帰分析の結果,各時期の筋断面積に関係する因子として同時期の体重が抽出された。また6Mの脊柱起立筋断面積に関係する因子として術前Alb値が抽出された。
【考察】
手術後,体重は3Mまで大幅に減少し,6Mまで減少が続いていた。Martinらは体重は6Mまで急激に減少し,術後3年後も継続していると報告しており,本研究でも同様の傾向がみられた。
脊柱起立筋と大腰筋の筋断面積はともに,3Mまで有意に減少し,その後の6Mまでには有意な変化はなかった。術後は異化作用による筋タンパクの崩壊が生じ,筋断面積の減少に関係していると考えられた。
筋断面積は同時期の体重と関連がみられたことから,筋断面積の減少は体重減少の一要因であると考えられた。
6Mの脊柱起立筋と術前Alb値に関連があり,筋断面積は栄養状態に影響されることが示唆される。しかし,3Mの脊柱起立筋の断面積と3M,6Mの大腰筋の筋断面積と各Alb値には関連がみられていない。筋断面積の変化には栄養状態以外の影響も受けると考えられ,今後は術後の栄養状態や活動量の変化と筋断面積の関連について検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
胸部食道癌術後の患者の体重減少は避けることはできない。しかし,体重減少と骨格筋との関連性については明らかになっていない。術後の経過における骨格筋の萎縮の経時的変化とその特性を把握し,的確な運動指導に結びつける上で,本研究は基礎的情報を示すことができたと考える。