第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述34

がん2

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:00 PM 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:神津玲(長崎大学病院 リハビリテーション部)

[O-0253] 食道癌術後の咳嗽力における反回神経麻痺の影響

濱田真一1, 金光浩1, 増田崇2, 田平一行3, 長谷公隆1 (1.関西医科大学附属枚方病院リハビリテーション科, 2.奈良県総合医療センターリハビリテーション部, 3.畿央大学大学院健康科学研究科)

Keywords:食道癌, CPF, 反回神経麻痺

【はじめに,目的】
胸腹部外科術後は疼痛や声帯の機能不全が影響で,咳嗽による排痰能力が低下し,肺炎などの術後呼吸器合併症が生じやすい。その中でも食道癌手術は,外科領域の中で最も侵襲が大きく,広域リンパ郭清による反回神経麻痺を発症するリスクも高いため,術後呼吸器合併症が生じる確率が高い。本研究の目的は,食道癌術後の咳嗽力が反回神経麻痺の有無により,どのように影響するかを明らかにすることである。
【方法】
平成26年4月から平成26年10月までに当院にて食道癌摘出術を施行した患者14例(男性12例,女性2例,年齢68.1±4.91歳,身長158.3±8.47cm,体重48.7±5.43kg,術式は胸腔鏡視下4例,開胸開腹10例,術後再挿管された者は除く)を対象とした。
測定:術前と術後1,2,3,4,7,14日目に端坐位で咳嗽時最大呼気流速(Cough Peak Flow:CPF)と最大呼気流速(Peak Expiratory Flow:PEF)および咳嗽時痛を測定した。CPF,PEFはミニライト社製ピークフローメーターを使用し,CPFはフェイスマスク,PEFはマウスピースを装着し,測定日ごとに3回ずつ施行し,最高値を採用した。咳嗽時痛の評価にはVisual Analogue Scale(VAS)を用いた。
解析方法:術後14日目に,当院耳鼻科にて内視鏡による反回神経麻痺の有無を診断し,反回神経麻痺群(麻痺群:6例)と非反回神経麻痺群(非麻痺群:8例)に群分けした。CPF,PEFは,術前値を100%とした相対値を解析に用いた。2群における各測定項目の比較は,2元配置分散分析を用い,同日の比較には対応のないt検定を使用した。CPFとVASの関連にはPearsonの相関係数を用い,いずれも有意水準は5%未満とした。
【結果】
2元配置分散分析の結果,CPFは麻痺群の方が有意に低く,経時変化との間に交互作用を認められなかった。PEF,咳嗽時痛は,いずれも主効果,交互作用共に認められなかった。各測定日の比較において,CPFは2日目(p<0.01),3日目(p<0.01),4日目(p<0.01),7日目(p=0.02),14日目(p<0.01)で麻痺群の方が有意に低値を示した。PEF,咳嗽時痛は,全ての測定日で有意差を認めなかった。咳嗽時痛とCPFの関連は,非麻痺(r=-0.69,p<0.01),麻痺群(r=-0.367,p=0.03)共に有意な負の相関を認めたが,非麻痺群の方が高かった。
【考察】
術後の反回神経麻痺は,PEFへの影響は少ないが,CPFには大きく影響することが示された。反回神経麻痺により声帯の運動が障害されると,声帯における気道の開大と呼気の移動のタイミングが遅れ,気道抵抗が大きくなるため,咳嗽力が低下したと考えられた。一方,PEFは声帯の運動を伴わないため,反回神経麻痺の影響は少なかったものと推察された。また,咳嗽時痛とCPFの関係においては非麻痺群の方に強い関連があった。このことから非麻痺群は,術後経過で咳嗽時痛が軽減するに従って咳嗽力が増加することが示された。一方,麻痺群は咳嗽時痛が軽減しても咳嗽力への影響は少ない。この違いは,声帯の麻痺から生じていると考えられ,麻痺群における咳嗽力の改善には,声帯機能の改善が必要である可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
術後の反回神経麻痺の有無により咳嗽力の回復過程が異なることが明らかになった。反回神経麻痺がある場合は,術後去痰不全による呼吸器合併症に注意しなければならないといった,食道癌術後の呼吸理学療法に示唆を与えるものと考えられた。