第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

参加型症例研究ディスカッション 口述4

回復期理学療法のあり方を考える

2015年6月5日(金) 17:30 〜 18:30 第5会場 (ホールB5)

座長:髙見彰淑(弘前大学大学院 保健学研究科), 松葉好子(横浜市立脳血管医療センター リハビリテーション部)

[O-0256] 重症くも膜下出血から独歩で家庭復帰した症例

小川秀幸1, 西尾尚倫1, 堀匠2 (1.埼玉県総合リハビリテーションセンター理学療法科, 2.埼玉県総合リハビリテーションセンターリハビリテーション科)

キーワード:くも膜下出血, 運動失調, 症例報告

【目的】
くも膜下出血(以下SAH)重症例のリハビリテーションでは多様な症状に苦慮することが多い。今回,重度SAH患者の変化する問題点に対して客観的な分析から理学療法介入を変更していくことで,独歩で家庭復帰した症例を経験した。その経過に考察を加えて報告する。
【症例提示】
40代女性。椎骨動脈合流部の脳底動脈瘤破裂による急性SAHに対し脳室ドレナージ術施行。開頭クリッピング術後に脳幹梗塞を合併した。その後,脳室腹腔シャント術施行され58病日で当院転院となる。
【経過と考察】
問題点の変化に合わせ2期に分ける。第I期の問題点は体位変換時の眩暈や吐き気が強く離床困難なことであった。これは,正常圧水頭症に対する開頭術後の低髄圧症や脳幹梗塞が原因ではないかと考えられた。画像所見では,橋~延髄の左側から左小脳外側にかけて術後性及び梗塞によると思われる変化を認めるものの,大脳皮質や運動・感覚経路には大きな影響を認めなかった。心身機能評価では,長期臥床による廃用性の筋力低下を認めたが四肢の随意運動は可能であった。そのため,ベッド上にて随意運動を積極的に促し,循環の改善を図り徐々に離床を進めることで歩行練習まで到達可能であると予測を立てた。110病日頃より第I期の問題点が改善し日常生活活動が拡大した。第II期の問題点は活動性の向上に伴い顕在化した運動失調によるふらつきであった。これは,SAHによる小脳性失調のみでなく,脳幹梗塞や末梢性聴神経障害の合併による前庭性失調も混在しており,問題点を絞り込むことに難渋した。そこで,重心動揺計を用いてバランス障害の主要因を探索的に評価した。その結果,頭位の変化に関係する前庭性の問題が影響していると考察し,視覚や体性感覚からの情報を制限することで前庭感覚を頼ることに集中を要するバランス練習へと変更した。その後,重心動揺評価による転倒リスク値が軽減し,独歩自立で家庭復帰となった。