第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

セレクション 口述5

支援工学理学療法

2015年6月5日(金) 17:30 〜 18:30 第7会場 (ホールD5)

座長:新小田幸一(広島大学 大学院医歯薬保健学研究院 応用生命科学部門)

[O-0260] レッグサポートのエレベーティングの有無が背もたれ後傾に伴う臀部ずれ力の変動に及ぼす影響

小原謙一, 藤田大介, 大坂裕, 伊藤智崇, 高橋尚, 末廣忠延, 渡邉進 (川崎医療福祉大学医療技術学部リハビリテーション学科)

キーワード:褥瘡予防, リクライニング式車いす, ずれ力

【はじめに,目的】演者らは先行研究にて,リクライニング式車いすの背もたれ回転軸位置の違いによる臀部ずれ力の変動について検討した。その結果,背もたれ回転軸位置を大転子に近接させたリクライニング式車いすでは,背もたれを後傾させる際に背もたれ上端と座面間距離が短縮することによって,褥瘡発生因子である臀部ずれ力が従来の軸位置と比較して約35%増加することを示した。しかし,臀部ずれ力に影響を及ぼすと考えられるレッグサポートのエレベーティングの機能については明らかにされていない。本研究では,レッグサポートのエレベーティングの有無が背もたれ後傾に伴う臀部ずれ力の増大に及ぼす影響を検討した。
【方法】健常男性13人(年齢:22.7±6.9歳)を対象とした。背もたれ回転軸位置調節機能付き電動リクライニング式実験用椅子(背もたれ高:97-110cm,座面奥行き:40cm,座面角度:0度,傾斜角速度:秒速3度)の座面上に床反力計(共和電業,40×40cm,サンプリング周波数100 Hz)を置き,その上で背もたれに身体背面が接するように座る安楽座位にて臀部ずれ力を測定した。背もたれ回転軸位置は,座枠後端と背もたれとの交点の位置(後方軸)と,先行研究(河内ら,2000)に準拠して,後方軸位置から前方13cm,上方7.5cmの位置(大転子軸)の2種類とした。実験条件は,各回転軸位置において,大腿部の上面を水平面と平行となるように高さを調節した台に下腿鉛直位で足部を接地したleg-down条件とレッグサポートのエレベーティングによって下腿から下肢を上方へ支持するleg-up条件の4条件とした。なお,leg-up条件では足底支持の影響を除くためにフットプレートは使用しなかった。加えて,背もたれ後傾によって発生する背もたれに対する体幹のずれ幅は,Aissaouiら(2001)の方法に準拠して測定した。背もたれ後傾は,鉛直軸より10度後傾位(Initial Upright Position:IUP)から開始し,40度後傾位まで後傾させた(Full Reclining Position:FRP)。測定時間は,各期保持時間(IUP5秒,FRP5秒)に移行期を含めた20秒間とした。各条件につき3回測定し,測定順序は無作為とした。統計学的解析には,臀部ずれ力に関しては,形体学的な影響を考慮して各対象者の体重で除して正規化した値(% Body Weight:%BW)と,その変化率(FRP/IUP*100:%)を採用した。ずれ幅については,IUPとFRPにおける測定値との差を採用した(正:下方)。各回転軸位置における2条件の値をpaired t-testを用いて比較し,危険率5%未満をもって有意とした。
【結果】(後方軸leg-down,leg-up,/大転子軸leg-down,leg-up)の順に測定値を示す。臀部ずれ力(%BW)は,IUP(10.2±1.1,16.2±2.6,/9.9±2.3,16.2±1.6),FRP(10.2±1.0,14.9±1.4,/15.1±2.5,19.2±1.9)であり,各回転軸位置ともleg-up条件が有意に高値を示した。臀部ずれ力の変化率(%)は,(100.7±16.7,93.2±9.2,/155.6±29.1,119.3±10.7)であり,大転子軸においてleg-up条件が有意に低値を示した。ずれ幅(mm)は,(78.8±10.7,80.4±13.8,/-3.5±6.7,-6.6±6.6)であり,大転子軸においてleg-up条件が背もたれに対して体幹が有意に上方へ滑っていた。
【考察】Gilsdorfら(1990)は,下肢の上方への支持が不十分な椅子座位において,下肢質量が大腿部を介して座面先端を軸として坐骨を前上方に持ち上げるように作用すると述べている。本研究で用いたレッグサポートは大腿部上面を水平面と平行になるまで挙上することはできないため,下腿支持が不十分であったことが推測される。これらのことから,leg-up条件で臀部ずれ力は増大したと考える。さらに,大転子軸におけるleg-up条件では,坐骨に対する下肢質量の作用によって体幹からの背もたれへの垂直力が減少したことが推測される。それに伴って,背もたれ背部間の静止摩擦力が低下したために背もたれに対して体幹が上方へ滑りやすくなった結果,背もたれ後傾に伴う臀部ずれ力増大の変化率が減少したと考える。本研究結果から,背もたれ後傾前にレッグサポートをエレベーティングすることにより,臀部ずれ力は増大することが示され,大転子軸における背もたれ後傾による臀部ずれ力増大の変化率は,比較的軽度に抑えられることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,臀部ずれ力の変動を軽減させるためのリクライニング式車いすが備えるべき機能を褥瘡予防の観点から検討する上で一助となる点で意義がある。