[O-0261] 知覚入力型インソールを用いた教示が動作の理解にあたえる影響
キーワード:インソール, 教示, 足底感覚
【はじめに,目的】我々の研究グループでは足底感覚入力を用い動作方法を教示するインソールの開発を進めている。以下に開発コンセプトを示す。まず,靴の中に小石が入った場面を想像すると,不快感がなければ異物を感知しながら動作を続けることが可能である。この際,足底感覚からは小石の特徴のみでなく「接触部位」や「動作中に接触が強くなるタイミング」などの情報がフィードバックされる。我々はこれらの感覚情報を動作中の「重心移動方向」や「接地・蹴り出し位置」として動作指導に用いる手法を提案し,足底感覚入力を行う突起を配した知覚入力型インソール(Perceptual Stimulus Insole以下,PSI)を試作した。本研究では「足底圧中心(Center of foot pressure以下,COP)の移動方向」の教示に対するPSIの効果について,口頭による教示法,画像を用いた教示法との比較から検討を進めた。
【方法】運動学およびPSIに関する知識のない健常女性11名を対象とした。課題は踏み返し動作中のCOP軌跡の制御とし,実験前にモデルとなるCOP軌跡を作成した。モデルは踵内側で着地した後,小指球に向かい,母指球で離地するCOP軌跡とし,着地点,小指球の折り返し地点,離地点およびそれぞれの中点の座標を計5カ所抽出した。実験条件は口頭による教示(言語条件),足底にCOP軌跡を描画した画像による教示(図示条件),PSIを用いた教示(PSI条件)とし,踏み返し動作中のCOP軌跡を足底圧分布測定システムF-scanにて計測した。なお,PSI条件では突起を踏みながら踏み返しを行うよう指示した。各条件10試行分の平均座標を求めた後,モデルとなるCOP軌跡の座標5カ所との最短距離とその平均値を求め,「課題理解の正確性」とした。次に10試行分の標準偏差を求め,「課題遂行の再現性」とした。また,「課題理解の難易度」および「課題遂行の難易度」に関するインタビューを実施し内容分析を行った。なお,統計には一元配置分散分析を用い,Bonferroni法による多重比較を行った。統計学的有意水準は5%とした。
【結果】COP軌跡の正確性は,言語条件3.4±0.9 cm,図示条件2.9±0.9 cm,PSI条件2.1±0.7 cmとなり,言語条件とPSI条件(P<0.001),図示条件とPSI条件(P=0.031)に有意差を認めた。COP軌跡の再現性は,言語条件1.6±0.5 cm,図示条件1.5±0.7 cm,PSI条件1.1±0.2 cmとなり,言語条件とPSI条件(P=0.025)に有意差を認めた。次に,内容分析の概要を以下に示す。言語条件では教示内容が曖昧なため正確な課題の理解と身体座標の照合が行えず,また,行っている動作の正否の判断が困難であった。図示条件では教示内容は理解が可能な一方,身体座標との照合が行えず,動作の正否判断も困難であった。PSI条件では足底感覚を通じて課題の理解と身体座標との照合が可能であり,動作の正否判断が容易であった。
【考察】本研究結果を要約すると,言語条件では課題理解の正確性と課題遂行の再現性が低く「闇雲に課題を遂行している状態」,図示条件では正確性が低い一方で再現性が高く「(教示とは異なる)被験者が解釈した課題を反復している状態」,PSI条件では正確性,再現性がともに高く「検者が教示した課題を正しく認識し反復している状態」と言い換えることが出来る。また,各条件に差異が生じる理由について,言語条件では「エリア」として漠然と解釈した課題に対し,心的な身体座標を照合しようとするため,COP軌跡の正確性や再現性が低いものと考える。次に,図示条件では,被験者がCOP軌跡を「ライン」上に制御する必要があると認識し,COP軌跡の再現性が高くなったものと考える。しかし,言語条件と同様に理解した課題を心的な身体座標に照合することが求められ,COP軌跡の正確性が低いものと考える。最後にPSI条件は,突起による「ポイント」が提示され,被験者が限局した部位としてCOP軌跡を認識したため,再現性が高いものと考える。加えて「今まさに体験している」感覚情報をもとに自身の身体座標を認識したことで,現在の経験と身体座標との照合が容易となり,COP軌跡の正確性の向上につながったものと考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究では足底感覚入力を用いた教示法の有効性を確認した。教示が運動学習の効果に影響をおよぼすことが報告されており,理学療法士は対象者の状態を適切に判断し,課題に応じて適切な教示法を選択する必要がある。その中でPSIは動作を教示する際の補助ツールとして応用可能と考える。なお,本研究は平成26年度科学研究費助成(挑戦的萌芽研究:課題番号25560290)を受け実施した。
【方法】運動学およびPSIに関する知識のない健常女性11名を対象とした。課題は踏み返し動作中のCOP軌跡の制御とし,実験前にモデルとなるCOP軌跡を作成した。モデルは踵内側で着地した後,小指球に向かい,母指球で離地するCOP軌跡とし,着地点,小指球の折り返し地点,離地点およびそれぞれの中点の座標を計5カ所抽出した。実験条件は口頭による教示(言語条件),足底にCOP軌跡を描画した画像による教示(図示条件),PSIを用いた教示(PSI条件)とし,踏み返し動作中のCOP軌跡を足底圧分布測定システムF-scanにて計測した。なお,PSI条件では突起を踏みながら踏み返しを行うよう指示した。各条件10試行分の平均座標を求めた後,モデルとなるCOP軌跡の座標5カ所との最短距離とその平均値を求め,「課題理解の正確性」とした。次に10試行分の標準偏差を求め,「課題遂行の再現性」とした。また,「課題理解の難易度」および「課題遂行の難易度」に関するインタビューを実施し内容分析を行った。なお,統計には一元配置分散分析を用い,Bonferroni法による多重比較を行った。統計学的有意水準は5%とした。
【結果】COP軌跡の正確性は,言語条件3.4±0.9 cm,図示条件2.9±0.9 cm,PSI条件2.1±0.7 cmとなり,言語条件とPSI条件(P<0.001),図示条件とPSI条件(P=0.031)に有意差を認めた。COP軌跡の再現性は,言語条件1.6±0.5 cm,図示条件1.5±0.7 cm,PSI条件1.1±0.2 cmとなり,言語条件とPSI条件(P=0.025)に有意差を認めた。次に,内容分析の概要を以下に示す。言語条件では教示内容が曖昧なため正確な課題の理解と身体座標の照合が行えず,また,行っている動作の正否の判断が困難であった。図示条件では教示内容は理解が可能な一方,身体座標との照合が行えず,動作の正否判断も困難であった。PSI条件では足底感覚を通じて課題の理解と身体座標との照合が可能であり,動作の正否判断が容易であった。
【考察】本研究結果を要約すると,言語条件では課題理解の正確性と課題遂行の再現性が低く「闇雲に課題を遂行している状態」,図示条件では正確性が低い一方で再現性が高く「(教示とは異なる)被験者が解釈した課題を反復している状態」,PSI条件では正確性,再現性がともに高く「検者が教示した課題を正しく認識し反復している状態」と言い換えることが出来る。また,各条件に差異が生じる理由について,言語条件では「エリア」として漠然と解釈した課題に対し,心的な身体座標を照合しようとするため,COP軌跡の正確性や再現性が低いものと考える。次に,図示条件では,被験者がCOP軌跡を「ライン」上に制御する必要があると認識し,COP軌跡の再現性が高くなったものと考える。しかし,言語条件と同様に理解した課題を心的な身体座標に照合することが求められ,COP軌跡の正確性が低いものと考える。最後にPSI条件は,突起による「ポイント」が提示され,被験者が限局した部位としてCOP軌跡を認識したため,再現性が高いものと考える。加えて「今まさに体験している」感覚情報をもとに自身の身体座標を認識したことで,現在の経験と身体座標との照合が容易となり,COP軌跡の正確性の向上につながったものと考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究では足底感覚入力を用いた教示法の有効性を確認した。教示が運動学習の効果に影響をおよぼすことが報告されており,理学療法士は対象者の状態を適切に判断し,課題に応じて適切な教示法を選択する必要がある。その中でPSIは動作を教示する際の補助ツールとして応用可能と考える。なお,本研究は平成26年度科学研究費助成(挑戦的萌芽研究:課題番号25560290)を受け実施した。