第50回日本理学療法学術大会

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口述

セレクション 口述5

支援工学理学療法

Fri. Jun 5, 2015 5:30 PM - 6:30 PM 第7会場 (ホールD5)

座長:新小田幸一(広島大学 大学院医歯薬保健学研究院 応用生命科学部門)

[O-0262] 三次元歩行解析を用いた下肢運動学的指標の検者内信頼性と検者間信頼性

―歩行周期上のポイントと歩行周期全体図に着目して―

伊藤千晶1, 葛西貴徹1,2, 若山佐一1 (1.弘前大学大学院保健学研究科, 2.医療法人整友会弘前記念病院)

Keywords:三次元歩行解析, 下肢関節角度, 信頼性

【はじめに,目的】
観察による歩行分析は臨床でよく用いられるが,その信頼性は低いといわれており,歩行を定量化するためには三次元歩行解析(Three dimensional gait analysis,以下3DGA)を行い,定量的なデータを算出することが歩行解析におけるゴールド・スタンダードと言われてきた。だが,Schwartz(2004)らは,三次元動作解析を用いた分析は,実験計画段階で誤差が混入し,それらについては十分な見積もりがなされないまま計測が行われていると述べている。また,データの比較を行う際,関節の運動方向と歩行周期によってデータの信頼性が変化することを示している。本研究では,3DGAの比較で用いられる歩行周期上のポイントの比較(以下ポイント比較)と歩行周期全体図の比較(以下曲線図比較)を用い,下肢関節角度の信頼性の比較を行った。
【方法】
検者内信頼性は検者1名,被験者4名。検者間信頼性は検者3名,被験者4名とする。歩行路は10mを確保し,中心に床反力計3枚(AMTI社製)を置いた。計測は8台のカメラと三次元動作解析(VICON Nexus)を用いた。検者はマーカーの設置位置についての統一基準を確認し,貼付を行った。計測順はランダム化した。マーカーは35点のPlug In Gait Full Body Modelを用い,Butterworth filter(Cut-off 8Hz)を用いた。歩行は自然変動の因子をなるべく抜くため,被験者の自己快適歩行速度に合わせた形でのリズムを設定し計測を行った。統計処理はR.2.8.1を用い,ポイントの比較には級内相関係数と標準誤差,最小可検変化量,Spearman-Brownの公式よりAlmost Perfect(以下AP)となる必要計測回数を求めた。曲線図比較にはKadaba(1989)の研究よりAdjusted Correlation Multiple Coefficient(以下CMC)の算出公式を用いた。計測は股関節と膝関節と足関節の3関節に対して,矢状面と前額面と水平面の計測を行った。ポイント比較では,初期接地(Initial Contact,以下IC)と遊脚初期(Initial Swing,以下Isw)のデータを抜き取った。
【結果】
算出したデータより一部指標を記載する。比較と曲線図比較のどちらとも,検者内信頼性の方が高い信頼性を示した。ポイント比較のICでは殆どがAPと高い信頼性を示したが,IswではFairからAPとなり,関節と運動方向により信頼性がばらつく傾向がみられた。ポイント比較の検者間信頼性では,ICは矢状面の計測がModerateからSubstantialとなったが,前額面と水平面についてはSlightからFairと低い信頼性を示した。曲線図比較の検者内信頼性は,矢状面の信頼性がAPであったが,前額面と水平面についてはModerateからAPであり,計測面による信頼性の有意性は見られなかった。データ曲線図比較の検者間信頼性は矢状面の信頼性はAPを示したが,前額面と水平面はSlightからSubstantialと検者間信頼性より低い信頼性を示した。必要計測回数は,信頼性が高い関節では最小1回の計測で十分だが,信頼性の低い関節では10回以上の計測が必要になるなど,実用的でない計測回数も見られた。
【考察】
ポイント比較とデータ曲線図比較のどちらとも,検者内信頼性が検者間信頼性より高い信頼性を示すことに加え,先行研究からもマーカー貼付位置の違いが信頼性に影響を及ぼすことが考えられる。そのため,計測実験を行う時には検者を限定するか,触診などによるマーカー貼付技術の向上練習が必要である。ポイント比較では,抜き取る歩行周期の関節の動きによって信頼性が変化するため,事前に統計処理に使いたいピーク値などのポイントデータの信頼性と最小可検変化量を確認しておくことが望ましい。3DGAは量的なデータの計測を行うことができるが,検者によるマーカー設置の影響や,被験者の自然変動(関節の動きと皮膚の伸張,歩行速度など)の影響を受けるため,検者や計測日程を特定,マーカー貼付の練習を行うなど,データの計測方法を考慮する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
Davis III(2000)らは12の多施設共同研究を行い,3DGAで生じる偶然誤差と系統誤差を分類し,それらをまとめた最小標準化歩行解析プロトコール(A minimum standardized gait analysis protocol:MSGAP)を作成している。これらのように,検者と被験者,計測日程や計測機器間で生じる誤差を予測することで,信頼性のある計測を意識することも必要である。また近年,Meldrum(2014)やRøislien(2012)らによって,3DGAの信頼性の計測に伝統的に用いられてきたCMCの限界も指摘されており,統計比較にデータを用いる場合はその信頼性を十分に考慮しなければならない。