第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

口述

口述35

がん3

Fri. Jun 5, 2015 5:30 PM - 6:30 PM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:赤尾健志(富山赤十字病院 リハビリテーション科)

[O-0263] 頸部リンパ節郭清術後の肩甲骨位置と肩関節自動可動域の検討

田仲勝一1, 森照茂2, 森田伸1, 伊藤康弘1, 藤岡修司1, 板東正記1, 小林裕生1, 広瀬和仁1, 井窪文耶1, 星川広史2, 加地良雄1,3, 森正樹1,3, 西村英樹1,3, 山口幸之助1,3, 山本哲司1,3 (1.香川大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.香川大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科, 3.香川大学医学部整形外科)

Keywords:頸部リンパ節郭清術, 副神経麻痺, 僧帽筋

【はじめに,目的】
頭頸部癌における頸部リンパ節郭清術後は副神経機能が障害され,僧帽筋筋力低下をきたすことによる肩関節機能障害を呈することが知られている。今回は頸部リンパ節郭清術前後の肩甲骨位置と肩関節自動可動域の関係について検討した。
【対象と方法】
当院耳鼻咽喉科・頭頸部外科及び歯科口腔外科で頭頸部癌の診断にて根治術を含む頸部リンパ節郭清術を施行した症例のうち,手術前後で評価が可能であった11症例14肩,平均±標準偏差は年齢61.4±6.2歳(46歳~76歳),男女比は8対3であった。頸部リンパ節郭清術は全例で副神経が温存され,廓清レベルはI~IIIが2例,I~IVが1例,IAが1例,I~Vが1例,II~IVが8例,D3c 1例であった。
評価項目は肩甲骨位置と肩関節自動可動域とした。測定方法は,肩甲骨位置は立位で上肢を自然に下垂した姿勢で,脊柱から肩峰後角,肩甲棘内縁,肩甲骨下角までの距離をメジャーにて測定した。肩関節自動可動域は端座位で屈曲,外転,伸展をゴニオメーターで測定した。これらの評価項目を術前と術後(リハビリテーション室が許可された日)に測定しその変化について検討した。統計学的検討にはSPSS(ver 20)を用い,術前後の肩甲骨位置と肩関節自動可動域の比較にはWilcoxonの符号付順位検討を用いた。術前から術後の肩甲骨移動距離と肩関節自動可動域の低下角度との関係をspearmanの順位相関係数により検討した。有意水準は危険率5%未満とした。
【結果】
術後の評価が可能となるまでに要する期間は平均8.1±5.4日(1~19日)であった。肩甲骨位置の術前,術後は,脊柱から肩峰後角20.4±2.0cm,21.7±2.2cm,脊柱から肩甲棘内縁7.9±1.2cm,9.1±1.4cm,脊柱から肩甲骨下角11.2±2.1cm,12.2±3.0cmとなり,すべての肩甲骨位置で統計学的有意差を認めた(p<0.05)。肩関節自動可動域の術前,術後は,屈曲148±17度,114±24度,外転157±20度,90±35度,伸展58±11度,54±11度となり,屈曲と外転で統計学的有意差を認めた(p<0.05)。肩甲骨移動距離は,脊柱から肩峰後角では1.6±1.2cm,脊柱から肩甲棘内縁では1.3±0.8cm,脊柱から下角では1.2±1.4cmであった。肩関節自動可動域の低下角度は屈曲35±15度,外転67±31度,伸展4±12度であった。肩甲骨移動距離と肩関節自動可動域の関係は,脊柱から下角と外転低下角度で負の相関関係があった(r=-0.664,p<0.05)。
【考察】
今回の結果から肩甲骨位置はすべての測定部位で有意差があり,術前の位置から外側に変位していることを意味している。頸部リンパ節郭清術後は副神経麻痺による僧帽筋筋力低下を呈することが報告されており,術前と術後の肩甲骨位置を評価することにより,副神経麻痺の有無を確認するための一助となり得る可能性が示唆された。肩関節自動可動域は僧帽筋機能の影響が大きい屈曲と外転で術後有意に低下し,特に外転ではその影響が大きかった。肩関節屈曲,外転運動では僧帽筋は前鋸筋と協調して肩甲骨の上方回旋に貢献するが,外転運動では角度の増加により僧帽筋中部線維と下部線維の働きにより肩甲棘内縁を脊柱尾側方向に移動させながら肩甲骨の上方回旋を行うことが報告されていることからも,術後僧帽筋筋力低下がある状態では外転90度以上が困難であったと考えられる。肩関節自動伸展は僧帽筋の影響を受けないために術前後で角度に差が出なかったと考えられる。肩甲骨移動距離と肩関節自動可動域の関係では脊柱から下角と外転低下角度のみ負の相関関係があった。先に述べたように外転運動時の肩甲骨は僧帽筋の働きにより脊柱尾側方向に引っ張られて上方回旋が起こるが,僧帽筋筋力低下によりこの動きが制限された状態では,肩甲骨が外側に位置している方が外転運動には有利なのかもしれない。しかし,僧帽筋筋力低下があれば肩甲骨位置は下方への変位も認めているため併せて定量的評価を行う必要があり,その測定方法の検討も同時に必要である。術後評価が可能となるまでの期間にばらつきがあり,根治術+頸部リンパ節郭清術と頸部リンパ節郭清術のみでは術後の経過が異なるため,評価時期を一定にすることが今後の課題と考えている。
【理学療法学研究としての意義】
頸部リンパ節郭清術後には副神経麻痺による僧帽筋筋力低下を認めることがあり,理学療法の対象となる。副神経麻痺における肩甲骨位置や肩関節自動可動域の関係を知ることは,術後理学療法を展開する上で重要な因子の一つといえる。