第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述35

がん3

Fri. Jun 5, 2015 5:30 PM - 6:30 PM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:赤尾健志(富山赤十字病院 リハビリテーション科)

[O-0264] 下肢リンパ浮腫の重症度が運動機能に与える影響

森田恵美子1, 辻哲也2, 田沼明1, 満田恵1, 増田芳之1, 岡山太郎1, 石井健1, 里宇明元2 (1.静岡県立静岡がんセンターリハビリテーション科, 2.慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室)

Keywords:リンパ浮腫, 重症度, 下肢筋力

【はじめに,目的】
続発性下肢リンパ浮腫は,がん治療後に発症する合併症の1つであり,発症すると完治しにくい難治性の疾患である。リンパ液の鬱滞や皮膚肥厚により重圧感,易疲労感等の症状を生じるだけでなく,関節拘縮や筋力低下等の運動障害やADL,QOL低下も問題となる。しかし,リンパ浮腫の重症度がどの程度運動機能に影響を与えているのか分析をした報告は少ない。本研究の目的は,下肢リンパ浮腫患者の運動機能を運動耐容能の指標であるShuttle Walking Test(以下,SWT)と機能的パフォーマンステストである階段昇降テストで評価し,運動機能に影響を与える因子として,浮腫の重症度が関与するかを後方視的に検討し,明らかにすることである。

【方法】
対象は,2013年4月から同年10月の間に,がん治療後に続発性下肢リンパ浮腫と診断され,当院の外来にてリンパ浮腫の保存治療である複合的治療を施行された症例のうち,Performance Status 0または1の45名[全例女性,年齢60.0±10.8歳,浮腫側(左20名,右13名,両下肢12名),癌腫(子宮頸癌18名,子宮体癌18名,卵巣癌5名,その他4名),術式(単純子宮全摘出術20名,準広汎子宮全摘出術3名,広汎子宮全摘出術19名,手術なし3名)]とした。除外基準は,既往・併存疾患により著しい筋萎縮や循環呼吸機能の低下が認められる症例,運動機能低下により移動動作が自立していない症例とした。主要評価項目はSWT歩行距離,階段昇降時間とし,副次評価項目は浮腫の重症度,body mass index(BMI),大腿四頭筋筋力,足関節背屈可動域,1日の歩数とした。浮腫の重症度は,国際リンパ学会の基準を参考に,下肢体積および浮腫病期により軽度群(20名)と非軽度群(25名)に分類した。大腿四頭筋筋力は,ハンドヘルドダイナモメーター(uTasMT-1,アニマ社製)で測定し,測定値(kgf)を体重(kg)で除し算出した値を大腿四頭筋筋力体重比(%)とした。1日の歩数は歩数計(PD-635,TANITA)を用い,1週間の歩数より1日の平均値を算出した。統計学的解析にはSPSS(Statistics 21,日本IBM)を用い,Mann-WhitneyのU検定とχ2検定,重回帰分析を行い,浮腫の重症度と主要・副次評価項目との関係を検討した。有意水準は5%未満とした。

【結果】
非軽度群で有意にSWT歩行距離が短く,昇段・降段時間が長い結果となった。SWT歩行距離および階段昇段・降段時間を目的変数とし,年齢,BMI,浮腫側大腿四頭筋筋力体重比,浮腫重症度を説明変数として重回帰分析を行ったところ,浮腫側大腿四頭筋筋力体重比がSWT歩行距離,昇段時間を決定する説明変数として抽出された(P<0.05)。降段時間では関連性はみられなかった。そこで,対象者を浮腫側大腿四頭筋筋力体重比の40%未満と40%以上に分類し分析したところ,40%未満の症例においてSWT歩行距離は軽度群で370m,非軽度群で250m,昇段時間は軽度群で4.87秒,非軽度群で5.65秒であり,非軽度群において有意にSWT歩行距離が短く,昇段時間が長い結果となった(P<0.05)。一方,大腿四頭筋筋力体重比40%以上の症例では差は認められなかった。

【考察】
本研究により下肢リンパ浮腫の重症度は,浮腫側の大腿四頭筋筋力体重比が40%未満の場合のみ,運動耐容能および階段昇段動作に影響を与え運動機能低下の一要因として関与していること,大腿四頭筋筋力体重比が40%以上あれば,浮腫の重症度に左右されず運動機能は保たれることが示唆された。下肢筋力は,リンパ浮腫に対してリンパ還流を促す筋ポンプ作用として重要な因子とされているが,今後は浮腫の改善だけではなく運動機能の側面からも着目していく必要があると考える。

【理学療法学研究としての意義】
下肢リンパ浮腫と運動機能との関連を評価することで,今まで十分に焦点が当てられていなかった運動機能の観点から下肢リンパ浮腫患者における新たな問題点を把握し,運動学的視点を加味した複合的治療が可能になると考える。