[O-0266] 入院中のがん患者の理学療法開始時の栄養状態と膝伸展筋力回復との関係
Keywords:がん, 栄養, 等尺性膝伸展筋力
【はじめに，目的】
がん生存者は今後益々増加することが予測され，理学療法の対象としても増加することが予測される。がん患者の理学療法において，全身状態の悪化により目標設定を下げざるを得ない患者が多くみられ，理学療法の目標設定が難しい場合がある。さらに，がん患者は様々な要因により栄養状態が低下しやすい。高齢者において低栄養状態は，筋量や筋力，生活機能の低下に関係していることが報告されており，がん患者においても栄養状態が理学療法の効果に影響を及ぼす可能性がある。なかでも，膝伸展筋力はADLに最も影響を及ぼす筋力とされ，理学療法の効果判定に頻繁に用いられる。
本研究の目的は，①がん患者の理学療法開始時の栄養状態を評価する，②理学療法開始時の栄養状態と膝伸展筋力の筋力回復との関係を調査することである。
【方法】
対象は2013年2月から11月までに当院に入院中のがん患者で理学療法を実施した者とした。包括基準は20歳以上，本人にがんの告知がされている，手術を実施する予定または手術後1ヵ月以内でない，骨折・麻痺による運動障害がない，認知機能・コミュニケーション能力に問題がないとした。
理学療法の内容は，個別に運動療法が決定され，筋力強化練習，有酸素運動，ストレッチなどを組み合わせて週5回，1回につき20分から40分程度実施した。
評価は，理学療法開始前と退院時に実施した。評価項目は，身長，体重，血清アルブミン値（Alb値），膝伸展筋力とした。膝伸展筋力は座位にて徒手筋力計を用いて等尺性筋力を測定した。栄養状態の評価としてGeriatric Nutritional Risk Index（以下，GNRI）を用いた。
膝伸展筋力が理学療法開始前より退院時で向上した者を筋力改善群，低下した者を筋力低下群の2群に分け，理学療法開始前のAlb値とGNRIについてMann-Whitney U検定を用いて検討した。
【結果】
対象者は18名（男性9名，女性9名），平均年齢57歳（21から75歳），平均BMI20.1（14.5から28.6）であった。原発部位は血液がん8名（44%），頭頸部癌4名，肺癌3名，その他3名で，治療方針は化学療法14名（78%）が最も多かった。平均在院日数59日，理学療法介入期間は22日であった。理学療法開始時のGNRIはリスクなし7名，軽度リスク6名，中等度リスク2名，重度リスク3名であった。
理学療法開始時の平均Alb値は筋力改善群4.1 g/dl，筋力低下群3.2 g/dl，平均GNRIは筋力改善群99.2点，筋力低下群83.0点でそれぞれ筋力改善群が有意に高値であった。年齢，体重，BMIでは両群に有意差はなかった。
【考察】
がん患者において低栄養はQOL低下，がん治療効果の減少，生存期間の短縮をもたらすと報告されている。がん患者は器質的な機能障害や治療の副作用による嘔吐や味覚障害など様々な要因により食欲不振や体重減少に至る。このように十分な栄養を摂取できていない状態では，必要なエネルギーを得るために筋肉の蛋白質を分解し，筋肉量が減少するとされている。さらに，炎症サイトカインによるタンパク異化亢進した悪液質の状態になると，食欲不振をともなう体重減少，とくに筋肉量の減少が特徴的とされている。このような状態ではAlb値やGNRIが低くなることが予測され，筋力低下群には悪液質状態となっている患者が含まれていたと考えられ，理学療法介入しても筋力が上がらない可能性がある。また我々は以前，Alb値3.0 g/dL以下のがん患者の72％は理学療法開始後運動強度が上がらなかったと報告している。今回も同様に，低栄養な場合，運動強度が上がらず，膝伸展筋力が回復するために必要な十分な運動強度まで達しなかったことが考えられる。
理学療法開始時に栄養状態が悪いがん患者は，筋力回復が難しい可能性がある。理学療法開始時の栄養状態の評価は筋力回復を予測し，目標設定の有用な情報となる。
【理学療法学研究としての意義】
がん患者に対する理学療法介入は，身体機能やADL向上を目標とした理学療法を実施するのか，身体機能維持やADL維持向上，緩和的な理学療法を実施するのかを判断が難しい場合がある。本研究より，Alb値およびGNRIを理学療法開始前に評価することで，目標設定や運動負荷設定などに有用な情報となる。
がん生存者は今後益々増加することが予測され，理学療法の対象としても増加することが予測される。がん患者の理学療法において，全身状態の悪化により目標設定を下げざるを得ない患者が多くみられ，理学療法の目標設定が難しい場合がある。さらに，がん患者は様々な要因により栄養状態が低下しやすい。高齢者において低栄養状態は，筋量や筋力，生活機能の低下に関係していることが報告されており，がん患者においても栄養状態が理学療法の効果に影響を及ぼす可能性がある。なかでも，膝伸展筋力はADLに最も影響を及ぼす筋力とされ，理学療法の効果判定に頻繁に用いられる。
本研究の目的は，①がん患者の理学療法開始時の栄養状態を評価する，②理学療法開始時の栄養状態と膝伸展筋力の筋力回復との関係を調査することである。
【方法】
対象は2013年2月から11月までに当院に入院中のがん患者で理学療法を実施した者とした。包括基準は20歳以上，本人にがんの告知がされている，手術を実施する予定または手術後1ヵ月以内でない，骨折・麻痺による運動障害がない，認知機能・コミュニケーション能力に問題がないとした。
理学療法の内容は，個別に運動療法が決定され，筋力強化練習，有酸素運動，ストレッチなどを組み合わせて週5回，1回につき20分から40分程度実施した。
評価は，理学療法開始前と退院時に実施した。評価項目は，身長，体重，血清アルブミン値（Alb値），膝伸展筋力とした。膝伸展筋力は座位にて徒手筋力計を用いて等尺性筋力を測定した。栄養状態の評価としてGeriatric Nutritional Risk Index（以下，GNRI）を用いた。
膝伸展筋力が理学療法開始前より退院時で向上した者を筋力改善群，低下した者を筋力低下群の2群に分け，理学療法開始前のAlb値とGNRIについてMann-Whitney U検定を用いて検討した。
【結果】
対象者は18名（男性9名，女性9名），平均年齢57歳（21から75歳），平均BMI20.1（14.5から28.6）であった。原発部位は血液がん8名（44%），頭頸部癌4名，肺癌3名，その他3名で，治療方針は化学療法14名（78%）が最も多かった。平均在院日数59日，理学療法介入期間は22日であった。理学療法開始時のGNRIはリスクなし7名，軽度リスク6名，中等度リスク2名，重度リスク3名であった。
理学療法開始時の平均Alb値は筋力改善群4.1 g/dl，筋力低下群3.2 g/dl，平均GNRIは筋力改善群99.2点，筋力低下群83.0点でそれぞれ筋力改善群が有意に高値であった。年齢，体重，BMIでは両群に有意差はなかった。
【考察】
がん患者において低栄養はQOL低下，がん治療効果の減少，生存期間の短縮をもたらすと報告されている。がん患者は器質的な機能障害や治療の副作用による嘔吐や味覚障害など様々な要因により食欲不振や体重減少に至る。このように十分な栄養を摂取できていない状態では，必要なエネルギーを得るために筋肉の蛋白質を分解し，筋肉量が減少するとされている。さらに，炎症サイトカインによるタンパク異化亢進した悪液質の状態になると，食欲不振をともなう体重減少，とくに筋肉量の減少が特徴的とされている。このような状態ではAlb値やGNRIが低くなることが予測され，筋力低下群には悪液質状態となっている患者が含まれていたと考えられ，理学療法介入しても筋力が上がらない可能性がある。また我々は以前，Alb値3.0 g/dL以下のがん患者の72％は理学療法開始後運動強度が上がらなかったと報告している。今回も同様に，低栄養な場合，運動強度が上がらず，膝伸展筋力が回復するために必要な十分な運動強度まで達しなかったことが考えられる。
理学療法開始時に栄養状態が悪いがん患者は，筋力回復が難しい可能性がある。理学療法開始時の栄養状態の評価は筋力回復を予測し，目標設定の有用な情報となる。
【理学療法学研究としての意義】
がん患者に対する理学療法介入は，身体機能やADL向上を目標とした理学療法を実施するのか，身体機能維持やADL維持向上，緩和的な理学療法を実施するのかを判断が難しい場合がある。本研究より，Alb値およびGNRIを理学療法開始前に評価することで，目標設定や運動負荷設定などに有用な情報となる。