第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

口述

口述35

がん3

Fri. Jun 5, 2015 5:30 PM - 6:30 PM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:赤尾健志(富山赤十字病院 リハビリテーション科)

[O-0268] 化学療法目的で入院した血液腫瘍患者におけるPerformance Statusからみたリハビリテーションの効果について

石丸将久, 吉田佳弘, 東友美, 小田太史, 古賀彩佳, 佐賀里昭, 木下暢子 (日本赤十字社長崎原爆病院)

Keywords:がん化学療法, Performance Status, 骨髄抑制

【はじめに,目的】
がん治療における化学療法では骨髄抑制等の有害事象を出現させ患者のADL低下をもたらす要因になりうる。先行研究において化学療法後の患者がリハビリテーション(以下,リハ)を実施することにより身体機能の向上が認められたことが報告されている。しかしながら,先行研究の多くは対象者を歩行可能な患者に限定しており,歩行不可能な患者に対するリハの有効性については明らかにされていない。今回,当院に化学療法目的で入院しリハ開始時に歩行不可能な患者を含む血液腫瘍患者を対象として,リハの効果についてPerformance Status(以下,PS)の変化から検討を行いその結果について考察を加えたのでここに報告する。
【方法】
対象は2013年4月から2014年3月までに当院に化学療法目的で入院した血液腫瘍患者延べ56例(男性37例・女性19例,平均年齢72.7±13.2歳)とした。除外基準としては入院期間が3週間未満,入院期間中に死亡,入院後に脳血管障害を発症し重度の機能障害を有したものとした。調査項目は性別,年齢,BMI,主病名,在院日数,入院からリハ開始までの日数,リハ実施期間,リハ実施単位数,骨髄抑制の有無,入院時・リハ開始時・転帰時のPSとし患者カルテより後方視的に調査した。なお,骨髄抑制に関してはADL低下に大きな影響を及ぼすと考えられるWBC1000/μl以下,Hgb8.0mg/dl以下,PLT20000/μl以下が1つ以上出現した場合を骨髄抑制有りとした。また,入院時と転帰時のPSの変化から,PSが改善もしくは変化がなかった群を維持・改善群,低下した群を低下群として2群に分類した。リハ開始時のPSによりH群(PS:0~2)とL群(PS:3~4)の2群に分け調査項目を比較した。さらにL群内においてもPSの変化より維持・改善群と低下群の2群に分けて比較した。
2群の比較にあたっては,カテゴリー変数にはカイ二乗検定,連続変数には対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定を使用した。いずれも統計処理にはSPSS(ver21forWindows)を使用し有意水準は5%未満とした。
【結果】
H群とL群の2群間の比較では,性別(H群/L群,男性19例女性8例/男性18例女性11例),年齢(70.7±13.5歳/74.6±12.6歳),BMI(20.2±2.7kg/m2/20.6±3.1 kg/m2),主病名(急性骨髄性白血病6例/5例,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫4例/11例,濾胞性リンパ腫6例/3例,骨髄異形成症候群2例/3例,成人T細胞白血病・リンパ腫2例/3例,多発性骨髄腫2例/1例,バーキットリンパ腫3例/0例,急性リンパ性白血病2例/0例,ホジキンリンパ腫0例/2例,リンパ形質細胞性リンパ腫0例/1例),在院日数(36.3±16.5日/47.4±23.9日),入院からリハ開始までの日数(8.5±9.3日/14.1±17.7日),リハ実施期間(27.8±18.0日/33.4±18.3日),リハ実施単位数(34±21単位/49±35単位),骨髄抑制の有無(有13例,無14例/有18例,無11例),PSの変化(維持・改善27例,低下0例/維持・改善21例,低下8例)であり,PSの変化において有意差が認められた。さらに,L群内でPSの変化より維持・改善群(21例)と低下群(8例)で比較した結果,入院時からリハ開始までの日数(維持・改善/低下,6.7±4.9日/33.5±23.5日),在院日数(38±14.9日/72.1±25.6日),骨髄抑制の有無(有10例,無11例/有8例,無0例)において有意差が認められた。
【考察】
H群は全例において入院時から転帰時のPSにおいて改善もしくは変化がなく入院時からのPSが維持できており,廃用症候群の予防としての目的を達成することができていた。L群は重篤な有害事象や原疾患の増悪等がなかった21例においてPSの維持・改善がみられ,その半数以上で骨髄抑制を認めなかった。一方,残り8例は転帰時においても入院時のPSまで回復することができず,その全例において骨髄抑制があり,貧血,WBC減少に関連した感染症,原疾患の増悪等も認められた。化学療法中の血液腫瘍患者においてPSの低下を予防し改善をはかるには,早期にリハを開始することに加え,リハ実施前には原疾患の病態把握や骨髄抑制の有無の確認を行い,その中でも特にWBCの値を確認し感染予防に努めていくことの重要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,化学療法中の血液腫瘍患者に対するリハに影響を与える因子が明らかとなり,今後の治療アプローチのあり方に示唆を与える。