第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述36

脳損傷理学療法4

Fri. Jun 5, 2015 5:30 PM - 6:30 PM 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:松﨑哲治(専門学校 麻生リハビリテーション大学校 理学療法学科)

[O-0269] 回復期脳卒中患者の寝返り動作能力と睡眠中の寝返りの回数の関係

飯倉大貴1, 山口智史1,2, 前田和平1, 島田祐里1, 近藤国嗣1, 大高洋平1,2 (1.東京湾岸リハビリテーション病院, 2.慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室)

Keywords:基本動作, 睡眠姿勢, 片麻痺

【はじめに,目的】
脳卒中発症後,早期に自立した日常生活活動を行うため,寝返り動作能力の改善を目的とした理学療法が行われている。一方,睡眠中の寝返りは体温や圧分散を調整する役割があると考えられており,無意識下で複数回行われる。この睡眠中の寝返りは,寝返りの動作能力が影響することが推察される。しかし,脳卒中片麻痺患者において,寝返り動作能力と睡眠中の寝返り回数の関係を明らかにした報告はない。そこで本研究は,回復期脳卒中患者の寝返り動作能力が睡眠中の寝返り回数に影響するかを検討することを目的とした。
【方法】
対象は当回復期病棟に入院した脳卒中片麻痺患者39名(女性15名,年齢66.9±12.5歳,BMI22.1±3.5,発症後日数44.9±13.9日,入院後日数9.5±5.9日:平均値±標準偏差)であった。運動麻痺は,Stroke Impairment Assessment Setにおける上肢項目が合計6.9±3.1,下肢項目が合計11.7±3.8(平均値±標準偏差)であった。採用基準は,覚醒時の寝返り動作が見守り以上で可能,研究同意が得られる者とした。除外基準は,当院入院後1ヶ月以下,寝返り動作に影響する可動域制限を有する,寝返り時に疼痛を有する,重度の認知症ある者とした。また対照群として,健常成人10名(女性6名,年齢22.8±1歳,BMI20±1.5:平均値±標準偏差)を設定した。
覚醒時の寝返り動作能力を見守り群,修正自立群,自立群に分類した。見守りは,安全面の配慮や動作方法の指示が必要であるが,介助を必要とせず動作を遂行できると定義した。修正自立は手すりを使用し安全に動作を遂行できる,自立は自ら安全に動作を遂行できるとした。
睡眠中の寝返り回数の測定には無線3次元加速度計(SmartWatch PMP-300E,パシフィックメディコ社)を使用し,サンプリング周波数は1 Hzとした。加速度計は,夜間臥床前にバンドで胸骨前面に固定した。測定に際して,計測日以外の睡眠環境と同様になるように配慮し,1日のみ測定した。
加速度計により得られた重力加速度データから,三角関数を用いて重力方向に対する傾きを算出した。その値から,背臥位・右側臥位・左側臥位・腹臥位の4つの姿勢に分類した(sato et al, 2013)。分類の定義は,重力方向(0°)に対して加速度計の傾斜が左右に45°の範囲を背臥位とし,45°を右に超えた姿勢を右側臥位,左に超えた姿勢を左側臥位とした。この側臥位の範囲は,重力方向に対して45~135°および225~315°までとし,136~224°までの姿勢は腹臥位とした。臥床時間は,本人および看護師が記載した睡眠記録用紙から判断した。臥床時間内に姿勢変換した回数を睡眠中の寝返り回数とし,それぞれの群における寝返り回数を解析した。
【結果】
脳卒中患者において,臥床時間は7.3±1.2時間(平均値±標準偏差),寝返り回数は12.9±15.5(0-67)回【平均値±標準偏差(最小値-最大値)】であった。活動時の寝返り動作能力は見守り群7名,修正自立群10名,自立群22名であった。
各群における睡眠中の寝返り回数は,見守り群は0回が2名(28.6%),1回以上10回以下が2名(28.6%),11回以上20回以下が0名(0%),21回以上が3名(42.9%)であった。修正自立群は0回が3名(30%),1回以上10回以下が3名(30%),11回以上20回以下が2名(20%),21回以上が2名(20%)であった。自立群は0回が5名(22.7%),1回以上10回以下が8名(36.4%),11回以上20回以下が4名(18.2%),21回以上が5名(22.7%)であった。健常成人の臥床時間は6.1±1.1時間(平均値±標準偏差),寝返り回数は22.3±7.4(12-36)回【平均値±標準偏差(最小値-最大値)】であった。
【考察】
脳卒中片麻痺患者において,睡眠中の寝返り回数は半数以上が10回以下と少なかった。また,寝返り動作により大きな差異を認めず,睡眠中の寝返り回数は寝返り動作能力と必ずしも関連していない可能性が示された。この原因として,脳卒中患者においては,覚醒時には意識して可能な寝返り動作が睡眠中にはできないということを反映している可能性が考えられる。しかし,本研究の限界として,寝返りの定義にあてはまらないわずかな角度での寝返りは検出されなかった点が考えられる。また一方で,寝返り回数が高値を示す者もおり,寝返り検出角度である45°付近の姿勢でいた事が考えられる。そのため今後,計測方法と定義を検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,覚醒中の寝返り動作能力と睡眠中の寝返り回数の関連を初めて示した研究である。この両者の関係を明らかにすることは,寝返りが行われないことによって生じる褥瘡や疼痛などのリスクを把握する上で,重要な情報を提供すると考える。