第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述38

大腿骨頚部骨折・その他

Fri. Jun 5, 2015 5:30 PM - 6:30 PM 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:具志堅敏(文京学院大学 保健医療技術学部)

[O-0286] 中高齢女性における歩行速度と立位姿勢アライメント,背部筋の筋量および筋内非収縮組織との関連

正木光裕1, 池添冬芽1, 福元喜啓2, 南征吾3, 青山惇一4, 木村みさか5, 市橋則明1 (1.京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻, 2.神戸学院大学総合リハビリテーション学部, 3.大和大学保健医療学部, 4.京都八幡病院リハビリテーション科, 5.京都学園大学バイオ環境学部)

Keywords:歩行速度, 立位姿勢アライメント, 背部筋筋機能

【はじめに,目的】
加齢に伴い,中高齢者の立位姿勢アライメントは,脊柱後彎や骨盤後傾が増加したアライメントに変化する。このような中高齢者の脊柱後彎の増加は,歩行速度や背部筋の筋量減少および筋内脂肪・結合組織といった筋内非収縮組織の割合の増加と関連することが報告されている。さらに,歩行速度と立位姿勢アライメントとの関連について,下肢の筋力とは独立して,腰椎前彎角度が最大歩行速度と関連することも示されている。しかし,体幹の筋機能とは独立して,立位姿勢アライメントが歩行速度と関連しているかについては明らかにされていない。
したがって,本研究では体幹の筋機能として超音波診断装置を用いて背部筋の筋量および筋内非収縮組織の割合を評価し,中高齢女性における歩行速度と立位姿勢アライメント,背部筋の筋量および筋内非収縮組織との関連性について検討した。
【方法】
対象は地域在住の健常な中高齢女性35名(平均年齢72.9±7.4歳)とした。10mの距離における通常歩行速度,最大歩行速度を測定した。立位姿勢アライメントの測定にはSpinal Mouse(Index社製)を使用し,安静立位での矢状面における胸椎後彎角度,腰椎前彎角度,仙骨前傾角度を算出した。また,超音波画像診断装置(GEヘルスケア社製LOGIQ Book e)を使用し,安静腹臥位における左右の腰部脊柱起立筋,大腰筋の縦断画像,腰部多裂筋の横断画像を撮影した。得られた画像から各筋の筋厚を測定し,また画像処理ソフトImage J(NIH社製)を使用して筋輝度を算出した。なお筋厚は筋量,筋輝度は筋内脂肪・結合組織といった筋内非収縮組織の割合の指標とした。筋輝度は0から255の256段階で表現されるグレースケールで評価され,値が大きいほど高輝度で筋内の非収縮組織が増加していることを意味する。筋厚および筋輝度は,左右の平均値を代表値とした。統計解析では,通常歩行速度,最大歩行速度と立位姿勢アライメント,背部筋の筋厚および筋輝度との関連を,スピアマンの順位相関係数を用いて検討した。また,通常歩行速度,最大歩行速度を従属変数とし,立位姿勢アライメント,背部筋の筋厚および筋輝度,年齢を独立変数としたステップワイズ法による重回帰分析を用いて検討した。なお有意水準は5%とした。
【結果】
安静立位時の姿勢アライメントは,胸椎後彎角度35.9±13.8°,腰椎前彎角度12.9±7.1°,仙骨前傾角度3.3±5.3°であった。
単相関分析の結果,通常歩行速度は,脊柱起立筋筋厚(r=0.42),年齢(r=-0.39)と有意な相関を示した。最大歩行速度においては,腰椎前彎角度(r=0.34),脊柱起立筋筋厚(r=0.42),年齢(r=-0.38)と有意な相関を示した。
重回帰分析の結果,通常歩行速度および最大歩行速度に影響を及ぼす因子として,脊柱起立筋の筋厚(通常歩行:β=0.41,最大歩行:β=0.40),年齢(通常歩行:β=-0.41,最大歩行:β=-0.41)が抽出され,脊柱起立筋の筋厚が小さく,年齢が高くなるほど通常歩行速度および最大歩行速度は低下した(決定係数;通常歩行:0.37,最大歩行:0.37)。
【考察】
本研究の結果,中高齢女性における歩行速度は,立位姿勢アライメントよりも腰部脊柱起立筋の筋量の方が関連することが明らかになった。また,歩行速度と背部筋の筋機能との関連において,大腰筋や腰部多裂筋のような脊柱の安定性に寄与する深部筋よりも,より動的な運動制御に寄与する腰部脊柱起立筋の方が歩行速度に影響を及ぼすことが示唆された。
本研究の対象は,脊柱後彎の増加といった立位姿勢アライメント変化が軽度な中高齢者であったため,今後は脊柱後彎が大きく増加した中高齢者を対象として,関連性を検討していく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
今回,地域在住の中高齢女性における歩行速度は脊柱起立筋の筋量と関連していることが明らかになった。本研究の結果は,中高齢女性における歩行速度の向上を目的として理学療法を実施する際には,脊柱起立筋を対象とした体幹筋トレーニングも重要であることを示唆している。