第50回日本理学療法学術大会

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口述

セレクション 口述6

人工関節

Fri. Jun 5, 2015 6:40 PM - 7:40 PM 第6会場 (ホールD7)

座長:神戸晃男(金沢医科大学病院 医療技術部 心身機能回復技術部門), 建内宏重(京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻)

[O-0296] 人工膝関節置換術適用患者における術後歩行自立日数に影響する術前因子の検討

~多施設共同研究による標準値設定の試み 第1報~

森川真也1, 谷口千明1, 土居誠治2, 天野徹哉3, 伊藤秀幸4, 玉利光太郎5 (1.放射線第一病院リハビリテーション科, 2.愛媛十全医療学院, 3.常葉大学, 4.山口コ・メディカル学院, 5.ペルー共和国国立障害者リハビリテーションセンター(JICAボランティア参加))

Keywords:変形性膝関節症, 歩行自立, 検査特性

【はじめに,目的】本邦における変形性膝関節症(膝OA)の有病率は約2,400万人と推定され,年間8万件以上の手術が施行されている。近年では在院日数の短縮が加速する中,クリティカルパス(パス)の導入により術後早期からの歩行獲得が望まれている。しかし,パスにはバリアンス発生の可能性が指摘されており,パスの違いは歩行の自立日数にも大きく影響する。そこで本研究はパスの違いを含め,術前因子から術後の歩行自立日数に影響する因子を検討することを目的とした。
【方法】対象は,研究協力が得られた6施設にて人工膝関節置換術の適用になった膝OA患者174名の内,両側同時例を除く173名(173膝,平均年齢75.5±7.5歳,男性29名,女性144名)とした。取込基準はTKA適用例およびUKA適用例とし,除外基準は神経学的所見が認められる者,膝関節以外の原因で立ち上がり・歩行動作に制限のある者,認知機能障害・精神機能障害を有する者とした。研究デザインは前向き縦断研究とし,ベースライン(術前)として基本属性および居住地,運動歴,医学的属性としてJOAスコア,障害側,術式,Kellgren-Lawrence分類を調査した。また,身体機能として膝関節屈曲・伸展筋力,股関節伸展可動域,膝関節屈曲・伸展可動域,疼痛(NRS),運動機能として5m最大歩行速度,TUG(最大)および改訂版SR-FAI,FIM,JKOMを測定した。追跡調査として,術後の歩行自立日数および2週後のFIMを調査した。歩行自立日数の判断基準はT字杖歩行が1人で歩けるようになるまでに要した日数とし,①理学療法士2名の主観的判断により杖歩行自立(50m歩行可能)と判断された場合,②被験者自身が杖歩行に自信がある場合,③TUGにてカットオフ値(13.5秒または15.0秒以下)を達成した場合の3条件をすべて満たすまでに要した日数とした。統計処理は,歩行自立日数の妥当性を確認するために術後2週目のFIMと相関分析を行った。歩行自立日数に影響する因子の分析については,歩行自立日数が術後2週以内のものを自立群「0」,それ以外のものを非自立群「1」の2群に分類した。交絡因子として基本属性,パスの違い,医学的属性を採用し,身体・運動機能,改訂版SR-FAI,FIM,JKOMを説明変数とした。事前に単変量解析にてスクリーニングを行い,t検定,χ二乗検定にて関連(P<0.2)を認めた変数により二項ロジスティック回帰分析を行い,説明変数,交絡因子を階層的に投入し予測因子を検討した。また,最終的に作成された予測モデルの独立因子のROC曲線より検査特性を算出した。有意水準は5%未満とした。
【結果】本研究で定めた歩行自立基準と術後2週目のFIMとの相関係数はr=-0.472(p=0.03)であり予測妥当性が確認された。自立群は41名(23.7%),非自立群は132名(76.3%),自立群の平均歩行自立日数は11.3±2.2日であった。単変量解析によって抽出された説明変数は,JKOM,FIM,TUG,膝伸展筋力(健,患側),膝屈曲筋力(患側),膝関節屈曲可動域(健側),股関節伸展可動域(患側),NRSであった。二項ロジスティック回帰分析の結果,TUG,NSRが有意にアウトカムを説明した。交絡因子投入後はTUG,パスの違いがアウトカムを説明した。χ二乗検定の結果このモデルは有意であり,判別的中率は75.0%であった。TUGのカットオフ値(AUC:0.694,p<0.01)は10.6秒であり,この時の感度は70.1%,特異度65.9%,陽性尤度比2.1,陰性尤度比0.5であった。事前確率を76.3%とした場合,陽性的中率は86.9%であった。
【考察】本研究の結果,術後2週以内に歩行自立できない対象者は76.3%存在し,パスとは独立した術前因子としてTUGが抽出された。すなわち,術前のTUGが10.6秒以上かかる場合,術後2週以内に歩行自立に至らない可能性が86.9%であることが示唆された。先行研究においても,術前のTUGは術後の歩行機能と有意な相関があることが報告されており,有効な指標の一つになると考える。本研究の限界として,パスの影響を除外できないこと,および今回作成されたモデルの予測能が十分でないことが挙げられる。したがって今後さらなる予測因子の探索が必要である。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,施設間でのパスの違いがある中で,術前の状態から術後の歩行自立日数を予測する有用な指標の一つになると考える。また,本研究で提示した予測モデルを洗練していくことにより,術後歩行自立日数の遅延するものをより早期に把握し,適切な理学療法介入を模索するうえでの一助となると考える。