第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

セレクション 口述6

人工関節

2015年6月5日(金) 18:40 〜 19:40 第6会場 (ホールD7)

座長:神戸晃男(金沢医科大学病院 医療技術部 心身機能回復技術部門), 建内宏重(京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻)

[O-0298] 人工股関節全置換術後の退院前後の満足度に影響を与える生活動作の検討

青砥桃子1, 木下一雄2, 吉田啓晃3, 桂田功一2, 岡道綾4, 樋口謙次2, 中山恭秀3, 安保雅博5 (1.東京慈恵会医科大学葛飾医療センターリハビリテーション科, 2.東京慈恵会医科大学附属柏病院リハビリテーション科, 3.東京慈恵会医科大学附属第三病院リハビリテーション科, 4.東京慈恵会医科大学附属病院リハビリテーション科, 5.東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座)

キーワード:人工股関節全置換術, 日常生活動作, 患者満足度

【はじめに,目的】
人工股関節全置換術(以下THA)後の入院期間は短くなってきており,自宅復帰に向けた効率的な介入や指導が必要となる。また,退院後は自宅での生活が主となり,生活様式や動作方法,活動範囲が変わり,生活に満足できる要因が変化することが予想される。これらのことより,退院前後に患者の状態に応じた介入や指導を行うことは退院後の患者満足度向上に繋がると考える。近年,股関節疾患患者の主観的QOLに関する報告は増加傾向にあり,患者自身のQOLや満足度が重要視されている。先行研究では,THA後の満足度の変化を追った検討や満足度と生活動作との関連性を検討した報告は散見されるが,退院前後の満足度変化は明らかではない。そこで,本研究の目的はTHA患者の退院前後における満足度の変化を調査し,その満足度に影響を与える生活動作を明らかにすることである。
【方法】
対象は当大学附属4病院で片側変形性股関節症の診断を受け,後方進入法での初回THAを実施した女性213例のうち,退院,術後2ヶ月(2M)の両時期で問診表の生活動作項目全てに回答が得られた41例(平均年齢65.9±8.9歳)とした。除外項目は認知機能の低下を認める者であった。評価項目は,寝返る,起き上がる,トイレ動作,椅子に座った状態での作業,立位での仕事または家事,階段を昇る,階段を降りる,靴下をはく,足の爪を切る,荷物を持つ,歩行,浴槽の出入り,床に座る,床の物を拾う,車の乗り降り,転ばずに生活する,脱臼に注意する,の17項目の生活動作とした。5点(楽にできる)~1点(できない・やっていない)の5段階の自己記入式評価を実施した。生活動作の満足度はVASを用いて0mm(最も満足)~100mm(最も不満足)で調査した。統計解析にはSPSS(Ver.19)を使用し,各時期において,従属変数を満足度,独立変数を生活動作17項目として重回帰分析を行い,変数選択法はステップワイズ法とした。
【結果】
満足度(VAS)の平均値は,退院時は41.1±24.3mm,2Mは31.1±20.9mmであった。満足度に影響を与える生活動作は,退院時は階段を降りる(標準偏回帰係数 β=-0.525,p<0.01),起き上がる(β=-0.370,p<0.01)が抽出され,項目得点の中央値は,階段を降りるは3点,起き上がるは4点であった。2Mでは,立位での仕事または家事(β=-0.554,p<0.01),転ばずに生活する(β=-0.307,p<0.01),足の爪を切る(β=-0.251,p<0.05)が抽出され,項目得点の中央値は,立位での仕事または家事が4点,転ばずに生活するが4点,足の爪を切るが3点であった。
【考察】
結果より,退院時では降段や起き上がり,2Mでは立位作業,転ばずに生活する,爪切り動作が因子で抽出された。退院時では降段動作は退院後の生活を想定した動作練習として行われることが多い。また,降段動作の得点から,退院時では楽にできると思っている人が少ない結果であった。このことは,降段時に術側が先行する際の支持性が不十分であり,動作の困難感が残存しているためと考えられる。起き上がり動作については,毎日繰り返される日常動作の一つであり,術前は股関節の動作時痛により,動作方法が限られる場合が多い。一方,術後は動作時痛が軽減し自身の好む方法で楽に行えるようになり,満足度に反映したと考える。2Mが経過すると退院時よりも活動性は高くなり,社会的役割として家事への復帰やIADL動作が必要となる女性が多くなる。そのため立位作業や転ばずに生活することの重要性は高まり,満足度に影響したと考える。爪切り動作に関しては,得点が3点であることから,できると感じている人は少なく,できないと感じている場合は満足度が低い傾向にあった。これは,術後2ヶ月では可動域制限が残存し,爪切りが困難な場合が多いため,満足度に反映したと考える。また,爪切りは他の抽出された項目よりも実施頻度が少ないため,満足度に与える影響は小さいと考えられる。
これらのことから,退院までには降段や起き上がり等の起居・移動動作の獲得を目指し,2M頃には家事や爪切り,転倒リスクの少ない安全な移動手段の獲得に向けて積極的に介入することが患者満足度の向上に繋がるといえる。今後は,股関節疾患の診断や年齢,男女差,術式の違い等,満足度に影響を与える他の因子についても検討していき,THA患者の満足度に対する理解を深めたい。
【理学療法学研究としての意義】
病院内の生活から自宅での生活へと大きく変わる時期となる退院前後において,患者満足度に影響を与える生活動作を明らかにすることは,入院中の効率的な生活動作指導の一助となり,退院後の患者満足度向上に繋がると考える。