[O-0299] 人工股関節全置換術術後患者における下肢筋力の非対称性と歩行時の荷重非対称性の関連
キーワード:人工股関節全置換術, 床反力, 下肢筋力
【はじめに,目的】
歩行時の床反力垂直分力は一般に二峰性を呈し,鉛直方向への身体の支持力を示す指標として歩行速度に影響を与える。変形性股関節症(股OA)患者では,床反力垂直分力における立脚初期の最大荷重や中期の抜重の指標が歩行速度と関連する。また,人工股関節全置換術(THA)術後の股関節負荷は主に床反力と関節モーメントの合力で構成され立脚初期で最も大きくなる。さらに,最大歩行速度で健常高齢者にみられる立脚初期の床反力垂直分力の非対称性は,膝関節伸展筋力の非対称性が影響する。このように関節負荷を間接的に表す床反力の非対称性は,下肢筋力の非対称性が関与していると考えられる。しかし,THA術後患者において歩行時の床反力指標の非対称性と下肢機能との関係は明らかにされていない。本研究の目的は,THA術後患者における最大歩行速度での立脚期前半の床反力垂直分力最大値の非対称性と下肢筋力の非対称性(下肢筋力低下率)の関連を検討することである。
【方法】
対象は片側性股OAに対して片側THAを施行した患者49名(男性7名,女性42名)とした。平均年齢,身長,体重,術後日数はそれぞれ64.4±10.7歳,153.2±5.7cm,53.1±8.8kg,175.0±2.2日であった。測定項目は下肢筋力,最大歩行速度での床反力垂直分力とした。下肢筋力は徒手筋力測定器(アニマ社製,ミュータスF-100)を使用して股関節外転,股関節伸展,膝関節伸展の最大等尺性筋力を2回測定し,最大値を採用した。股関節筋力,膝関節筋力のアーム長は,それぞれ大転子から腓骨外果の近位5cm,膝関節中心から腓骨外果の近位5cmまでの距離とし,筋力測定値との積を体重で除して算出した値を下肢筋力として用いた。床反力垂直分力の測定は,歩行時に連続して床反力垂直分力が計測可能な靴型下肢加重計(アニマ社製,ゲートコーダMP-1000)を用いて,15mの歩行路をできるだけ速く歩かせて計測した。床反力垂直分力の単脚立脚期の前半と後半に生じる2つの峰のうち第1最大値(Fz1)を算出した。非術側に対する術側の下肢筋力低下率およびFz1の非対称性は,非術側と術側の測定値の差を非術側の測定値で除して算出した値をパーセンテージで表した。統計解析は,術側と非術側のFz1および筋力の差をWilcoxonの符号付き順位検定を用いて比較した。さらに各筋における筋力低下率の比較にはKruskal-Wallis検定を使用し,事後検定としてBonferroni補正を行った後,因子間の比較をWilcoxonの符号付き順位検定を用いて検討した。Fz1の非対称性と下肢筋力低下率の関連をSpearmanの順位相関係数を用いて検定した。統計学的有意水準は5%とした。
【結果】
術側Fz1(115.2±9.5%BW)は非術側Fz1(121.9±13.0%BW)より有意に小さかった(p<0.01)。股関節外転筋力は術側0.11±0.03kg・m/BW,非術側0.13±0.03kg・m/BW,股関節伸展筋力は術側0.14±0.04kg・m/BW,非術側0.16±0.05kg・m/BW,膝関節伸展筋力は術側0.11±0.03kg・m/BW,非術側0.16±0.05kg・m/BWであり,いずれも術側筋力が有意に小さかった(p<0.01)。下肢筋力低下率は,股関節外転筋力15.6%,股関節伸展筋力10.0%,膝関節伸展筋力27.6%であり,膝関節伸展筋力の低下率は股関節外転筋力,股関節伸展筋力より有意に大きかった(p<0.01)が,股関節外転筋力と股関節伸展筋力は有意な差を認めなかった。Fz1の非対称性は股関節外転筋(r=0.37,p<0.01)と股関節伸展筋(r=0.44,p<0.01)の筋力低下率と有意な正の相関関係を認めたが,膝関節伸展筋の筋力低下率とは関連を認めなかった。
【考察】
THA術後における最大歩行速度での床反力垂直分力前半の指標と下肢筋力は,術側で非術側よりも低値を示しており,術後6か月でも十分に回復していなかった。下肢筋力低下率は,股関節周囲筋よりも膝関節伸展筋力で大きかった。この膝関節伸展筋力低下率の増大およびFz1の非対称性と股関節周囲筋筋力低下率の関連性は,歩行時の術側立脚期前半の床反力垂直分力を形成する膝関節伸展筋の貢献度が減少し,正常に機能している股関節周囲筋の貢献度を代償的に増加させている可能性を示している。ゆえに,THA術後では最も筋力低下率が大きい膝関節伸展筋力へのアプローチに注目する重要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,THA術後患者の歩行時の荷重非対称性とその基盤となる下肢筋力非対称性との関連性が明確になった。本研究は,THA術後患者の歩行機能の改善に重要な情報を提供するものと考えられる。
歩行時の床反力垂直分力は一般に二峰性を呈し,鉛直方向への身体の支持力を示す指標として歩行速度に影響を与える。変形性股関節症(股OA)患者では,床反力垂直分力における立脚初期の最大荷重や中期の抜重の指標が歩行速度と関連する。また,人工股関節全置換術(THA)術後の股関節負荷は主に床反力と関節モーメントの合力で構成され立脚初期で最も大きくなる。さらに,最大歩行速度で健常高齢者にみられる立脚初期の床反力垂直分力の非対称性は,膝関節伸展筋力の非対称性が影響する。このように関節負荷を間接的に表す床反力の非対称性は,下肢筋力の非対称性が関与していると考えられる。しかし,THA術後患者において歩行時の床反力指標の非対称性と下肢機能との関係は明らかにされていない。本研究の目的は,THA術後患者における最大歩行速度での立脚期前半の床反力垂直分力最大値の非対称性と下肢筋力の非対称性(下肢筋力低下率)の関連を検討することである。
【方法】
対象は片側性股OAに対して片側THAを施行した患者49名(男性7名,女性42名)とした。平均年齢,身長,体重,術後日数はそれぞれ64.4±10.7歳,153.2±5.7cm,53.1±8.8kg,175.0±2.2日であった。測定項目は下肢筋力,最大歩行速度での床反力垂直分力とした。下肢筋力は徒手筋力測定器(アニマ社製,ミュータスF-100)を使用して股関節外転,股関節伸展,膝関節伸展の最大等尺性筋力を2回測定し,最大値を採用した。股関節筋力,膝関節筋力のアーム長は,それぞれ大転子から腓骨外果の近位5cm,膝関節中心から腓骨外果の近位5cmまでの距離とし,筋力測定値との積を体重で除して算出した値を下肢筋力として用いた。床反力垂直分力の測定は,歩行時に連続して床反力垂直分力が計測可能な靴型下肢加重計(アニマ社製,ゲートコーダMP-1000)を用いて,15mの歩行路をできるだけ速く歩かせて計測した。床反力垂直分力の単脚立脚期の前半と後半に生じる2つの峰のうち第1最大値(Fz1)を算出した。非術側に対する術側の下肢筋力低下率およびFz1の非対称性は,非術側と術側の測定値の差を非術側の測定値で除して算出した値をパーセンテージで表した。統計解析は,術側と非術側のFz1および筋力の差をWilcoxonの符号付き順位検定を用いて比較した。さらに各筋における筋力低下率の比較にはKruskal-Wallis検定を使用し,事後検定としてBonferroni補正を行った後,因子間の比較をWilcoxonの符号付き順位検定を用いて検討した。Fz1の非対称性と下肢筋力低下率の関連をSpearmanの順位相関係数を用いて検定した。統計学的有意水準は5%とした。
【結果】
術側Fz1(115.2±9.5%BW)は非術側Fz1(121.9±13.0%BW)より有意に小さかった(p<0.01)。股関節外転筋力は術側0.11±0.03kg・m/BW,非術側0.13±0.03kg・m/BW,股関節伸展筋力は術側0.14±0.04kg・m/BW,非術側0.16±0.05kg・m/BW,膝関節伸展筋力は術側0.11±0.03kg・m/BW,非術側0.16±0.05kg・m/BWであり,いずれも術側筋力が有意に小さかった(p<0.01)。下肢筋力低下率は,股関節外転筋力15.6%,股関節伸展筋力10.0%,膝関節伸展筋力27.6%であり,膝関節伸展筋力の低下率は股関節外転筋力,股関節伸展筋力より有意に大きかった(p<0.01)が,股関節外転筋力と股関節伸展筋力は有意な差を認めなかった。Fz1の非対称性は股関節外転筋(r=0.37,p<0.01)と股関節伸展筋(r=0.44,p<0.01)の筋力低下率と有意な正の相関関係を認めたが,膝関節伸展筋の筋力低下率とは関連を認めなかった。
【考察】
THA術後における最大歩行速度での床反力垂直分力前半の指標と下肢筋力は,術側で非術側よりも低値を示しており,術後6か月でも十分に回復していなかった。下肢筋力低下率は,股関節周囲筋よりも膝関節伸展筋力で大きかった。この膝関節伸展筋力低下率の増大およびFz1の非対称性と股関節周囲筋筋力低下率の関連性は,歩行時の術側立脚期前半の床反力垂直分力を形成する膝関節伸展筋の貢献度が減少し,正常に機能している股関節周囲筋の貢献度を代償的に増加させている可能性を示している。ゆえに,THA術後では最も筋力低下率が大きい膝関節伸展筋力へのアプローチに注目する重要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,THA術後患者の歩行時の荷重非対称性とその基盤となる下肢筋力非対称性との関連性が明確になった。本研究は,THA術後患者の歩行機能の改善に重要な情報を提供するものと考えられる。