第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述40

運動制御・運動学習3

Fri. Jun 5, 2015 6:40 PM - 7:40 PM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:谷浩明(国際医療福祉大学 小田原保健医療学部 理学療法学科)

[O-0307] 後傾時の立位位置知覚能に及ぼす踵部圧付加の効果

淺井仁1, 中泉大2 (1.金沢大学医薬保健研究域保健学系リハビリテーション科学領域理学療法科学講座, 2.金沢大学医薬保健学総合研究科保健学専攻)

Keywords:立位, 足底圧刺激, 位置知覚

【諸言】
前後方向における立位位置の知覚能は,安静立位位置に近く立位姿勢の安定性が高い位置では低く,安定性が低い位置では高い傾向にあることが示唆されている1)。安定性が低い位置で位置知覚能が高まる背景には,足圧分布や筋活動の大きな変化に伴う体性感覚情報の大きな変化があることが考えられ,我々はいくつかの検討をしてきた。その結果,前傾立位時は第1中足指節間関節部,第1足指部での足底圧分布,および足指屈筋活動の大きな変化が2),後傾立位時は踵部での足底圧分布のそれが3)4),それぞれ立位位置の知覚に重要であることが明らかとなった。今回は,踵圧情報と後傾立位位置の知覚能との関係をさらに詳細に検討するために,踵圧情報の付加による立位位置知覚能への影響を検討した。仮説は以下の通りである:踵圧情報の付加は,知覚能の低い場合でより有効になる。

【対象と方法】
対象は,健常な大学生15名(女性7名,男性8名)で,いずれも金沢大学医学倫理審査委員会により承認された研究目的,手順,リスクとその対応等の説明に同意して参加した。
前後方向の立位位置は,足圧中心の足長に対する踵点からの相対位置(%FL)で表した。立位位置知覚能の測定は,40,35,30,25,および20%FLの5つの参照位置で行われた(20%FLは最も後傾)。5つの参照位置の再現は先行研究に基づき1)5),休憩を挟みながら各参照位置の試行が7回となるまでランダムな順番で繰り返された。立位位置知覚能は位置毎に参照位置と再現位置との絶対誤差(7試行の平均値)により評価された。踵圧情報を付加するために両側の踵骨隆起部の足底に六角ナット添付した。六角ナットは,前後径5mm,厚さ3mm,および前後径4mm,厚さ2mmの2種類が用意された。実験に先立ち,各被験者にはそれぞれの六角ナットを添付し立位姿勢の保持,および歩行を合わせて10分間以上をしてもらい,疼痛が出現しなかった六角ナットを実験に用いた。実験は,六角ナットを添付した条件(圧付加条件),および添付しなかった条件(無付加条件)の2条件で,被験者毎にランダムな順番で行われた。統計:参照位置と刺激条件による絶対誤差への影響ついて2元配置反復測定分散分析を用いて検討した。参照位置毎に無負荷条件での絶対誤差と,これに対する圧付加条件での比率(無負荷条件と圧付加条件との値が同じなら100%)との相関をピアソンの相関を用いて検討した。有意水準は5%とした。

【結果】
絶対誤差への参照位置と刺激条件の影響について2元配置反復測定分散分析をしたところ,刺激条件による有無な影響はなかったが,40から20%FLにかけて絶対誤差が小さくなり参照位置による有意な影響が認められた(F=34.95)。参照位置と圧刺激の有無による交互作用は認められなかった。圧刺激付加による絶対誤差への影響は個人毎に位置によって異なっていた。そこで,参照位置毎に無負荷条件での絶対誤差と圧付加条件での値の比率との相関を検討したところ,40%FLではr=-0.65,35%FLではr=-0.50,30%FLではr=-0.63,25%FLではr=-0.45,および20%FLではr=-0.69といずれの参照位置も負の相関が認められた。このうち,40,30および20%FLでは有意な相関が認められた。

【考察】
位置毎の絶対誤差への刺激条件による有意な影響は認められず,個人毎に圧刺激付加の影響が異なる可能性が示唆された。そこで,参照位置毎に無負荷条件での絶対誤差と圧付加条件での値の比率との相関をみたところ,全ての参照位置で負の相関があり,40,30および20%FLでは有意であった。このことは,無付加条件で知覚能が低い場合は踵部への圧刺激の付加が効果的であった(知覚能が高まった)が,無付加条件で知覚能が高い場合は踵部への圧刺激の付加が逆効果であったことが明らかとなった。

【理学療法学研究としての意義】
今回の結果から,後傾立位位置での知覚能が低い場合には,踵圧刺激の付加により知覚能が高まることが明らかとなった。このことは,安定性の低い立位位置での位置知覚に基づいた姿勢調節の練習をするために重要であり,理学療法学においては重要な知見である。

1)Fujiwara, Asai, et al. J Physiol Anthropol, 29:197-203, 2010.
2)Asai and Fujiwara. Percept Mot Skills 96:549-577, 2003.
3)淺井,藤原,他。Health and Behavior Sciences, 2:19-25, 2003.
4)Fujiwara, Asai, et al. Percept Mot Skills, 100:432-442, 2005.
5)Fujiwara, Asai, et al. Percept Mot Skills, 88:581-589, 1999.