第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述40

運動制御・運動学習3

2015年6月5日(金) 18:40 〜 19:40 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:谷浩明(国際医療福祉大学 小田原保健医療学部 理学療法学科)

[O-0310] Patterned electrical stimulationと随意運動の併用による脊髄相反性抑制への持続効果

高橋容子1, 藤原俊之2, 山口智史3, 川上途行3, 里宇明元3 (1.慶應義塾大学大学院医学研究科リハビリテーション医学教室, 2.東海大学医学部専門診療学系リハビリテーション科学, 3.慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室)

キーワード:H反射, 電気刺激, 歩行

【はじめに】
脳卒中後の脊髄相反性抑制(reciprocal inhibition:RI)の障害は,麻痺肢の運動障害と関連することが報告されている(Bhagchandani et al., 2012)。このRIを改善する手法として,歩行時の足関節におけるafferent burstを模擬したpatterned electrical stimulation(PES)が提案されている(Perez et al., 2003)。われわれは,第49回日本理学療法学術大会において,このPESと足関節の随意背屈運動を同時に行うことで,それぞれ単独と比較して,早期にRIを増強することを報告した。しかしながら,併用による効果の持続については不明である。そこで本研究では,PESに随意運動を併用することによるRI増強効果の持続に及ぼす効果について検討した。
【方法】
対象は健常者12名(年齢27±6.5歳)とした。選択基準は,下肢の整形疾患および神経疾患の既往がなく,同意の得られた者とした。PESは周波数100 Hzの刺激パルス10発を1 trainとして,この刺激trainを0.5 Hzで20分間刺激した。刺激は右総腓骨神経に行い,刺激強度は前脛骨筋のM波閾値とした。随意運動は,右足関節の背屈運動とし,0.5 Hzで20分間実施した。背屈運動は,前脛骨筋の表面筋電図において,振幅値100μVが得られる強度とした。介入は,1)PESのみ,2)随意運動のみ,3)PES+随意運動の3条件とし,1),2),3)の3条件の課題を1週間以上の間隔をあけて実施した。
評価は,ヒラメ筋H反射を用いた条件-試験刺激法により,RIを測定した。試験刺激は脛骨神経へ行い,刺激強度はヒラメ筋におけるM波最大振幅の15~25%の振幅のH波が誘発できる強度とした。条件刺激は腓骨頭部で総腓骨神経を刺激し,強度は前脛骨筋のM波閾値に設定した。条件-試験刺激間隔は,0,1,2 msとし,介入前評価において最も強く抑制が認められた条件-試験刺激間隔を選択した。RIの指標として,試験刺激のみで得られたH反射振幅値から試験刺激に条件刺激を加えて得られたH反射振幅値を引いたものを,試験刺激のみで得られたH反射振幅値で除し,100を乗じた値をRI量(%)とした。評価は,それぞれの介入開始直前,介入終了直後,10分後,20分後および30分後に実施した。
統計解析は,介入条件による持続効果の違いを明らかにするために,介入条件(PESのみ,随意運動のみ,PES+随意運動)と時間(介入前,介入終了直後,10分後,20分後,および30分後)の2要因による反復測定分散分析を実施した。Post-hoc検定として,Bonferroni補正した対応のあるt検定を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
分散分析の結果,介入条件と時間の交互作用(F[8,88]=4.14,p<0.001)を認め,介入条件,時間ともに主効果(介入:F[2,22]=1.54,p<0.001,時間:F[4,44]=29.1,p<0.001)を認めた。
介入条件内の比較において,PES+随意運動では,介入前と比較して介入後にRIが有意に増強し,その効果が20分後まで持続した(p<0.05)。PESのみでは,介入前と比較して,介入後にRIが有意に増強し,その効果が10分後まで持続した(p<0.05)。随意運動のみでは,介入前と比較して,介入後にRIが有意に増強したが(p<0.01),その効果は10分後までは持続しなかった。介入条件間の比較では,PES+随意運動において,他の2条件と比較し,介入終了20分後の時点で有意なRI増強を認めた(p<0.05)。
【考察】
本研究の結果から,PESに随意運動を併用することにより,それぞれ単独と比較して,RI増強効果が長く持続し,またその効果は介入後20分まで持続することが明らかになった。PESは,即時的にRIを増強することが報告されている(Perez et al., 2003)。またRIは,運動皮質からの投射を受けていることが知られており,PESに運動皮質の活動を高める随意運動を併用することによって,PES単独より,RIにおいて可塑的な変化を誘導したと考えられる。今後,脳卒中患者を対象に,RIと運動障害への効果を検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,運動障害に関係する相反性抑制を修飾する方法として,PESと随意運動の併用の有効性を示唆した。今後,中枢神経疾患に応用するための,基礎的研究として意義がある。