[O-0316] 複数回ボツリヌス療法を実施した患者の経時的変化に対する考察
Keywords:ボツリヌス, 痙縮, 関節可動域
【はじめに,目的】
2010年より脳卒中患者の上下肢痙縮に対するボツリヌス(以下BTX)療法が認可されたことで痙縮に対する治療が広く行われるようになってきており,治療効果に関する多くの報告がなされている。同時に理学療法士や作業療法士が介入することにより高い治療効果が得られているとの報告も多い。しかし,それらの報告の中で,長期間の経時的変化を追っている先行研究は見当たらない。今回,当院および旭川リハビリテーション病院にて複数回BTX療法を受けている患者Modified Ashworth Scale(以下MAS),関節可動域(以下ROM)を比較し,検討したので報告する。
【方法】
2012年11月~2014年8月に当院および旭川リハビリテーション病院で複数回のBTX療法を受け,理学療法士および作業療法士による週1回以下の治療を行った患者28名を対象とした。実施回数はBTX療法施行前を「施行前」,1回目のBTX療法施行後から2回目の施行日までを「1期」,2回目の施行日から3回目の施行日までを「2期」(以下同様の方法で区切り3期,4期,5期,6期とする)とし,MASとROMの値を期ごとに比較した。施行日の間隔は3か月~4か月の間でBTX療法を施行されていた。MASは肘関節屈筋群,手関節屈筋群,手指関節屈筋群,足関節底屈筋群,ROMは肘関節伸展,手指関節屈曲位と手指関節伸展位それぞれの手関節伸展,手指関節伸展,足関節背屈を測定した。データ解析は28人分のデータを1人の被検者データとみなし,BTXを施注された筋群(肘関節屈筋群,手関節屈筋群,手指関節屈筋群,足関節底屈筋群),関節(肘,手,手指,足)と測定時期(施行前,1期~6期)の二要因の分散分析を行った。従属変数はMAS,ROMとした。下位検定はBonferroni法を用い,有意水準は5%以下とした。
【結果】
データのサンプル数はMASは肘関節屈筋群350,手関節屈筋群427,手関節屈筋群421,足関節底屈筋群522,回数は施行前70,1期293,2期350,3期377,4期251,5期190,6期189であった。ROMは肘関節240,手関節背屈(手指屈曲位)277,手関節背屈(手指伸展位)198,手指関節260,足関節321,回数は施行前47,1期206,2期265,3期268,4期182,5期171,6期157であった。
MASは肘関節屈筋群で施行前2.36±0.52と比較して2期1.68±0.76,3期1.51±0.79で有意に減少した。手関節屈筋群では施行前2.42±0.69と比較して1期1.47±0.75,2期1.57±0.71,3期1.44±0.94,4期1.26±0.84,5期1.62±0.75,6期1.56±0.95で有意に減少した。手指関節屈筋群では施行前2.34±0.65と比較して1期1.57±0.81,2期1.63±1.65,3期1.7±0.78,4期1.5±0.68で有意に減少した。足関節底屈筋群では施行前2.04±0.84と比較して1期1.26±0.6で有意に減少した。
ROMは手関節背屈(手指伸展位)で施行前17.86±25.14と比較して1期47.83±15.85,2期41.02±18.87,3期35.9±16.78,4期43.65±15.27,5期44.82±12.70で有意な改善を認めた。
【考察】
今回,BTX療法後理学療法士および作業療法士による週1回以下の治療を施行した患者を対象にデータ解析を行った。今回の結果より手・手指関節では痙縮軽減効果が持続し,特に手関節屈筋群は複数回投与により全期で有意な改善が認められた。それに対して,足関節や肘関節では痙縮軽減効果が持続しにくいという結果になった。これは手関節,手指関節は比較的自分で動かしやすい関節であり,効果の持続を認めることが示唆された。肘関節や足関節は患者自身では動かしにくく,痙縮の軽減効果を持続させるためには他者の介入が必要であることが示唆された。
今回の持続例には積極的な手・手指関節の自身によるストレッチや持続伸張装具を用いた例が含まれており,治療効果持続のためには患者への的確なストレッチ方法の指導や装具療法,IVESなどの電気刺激を利用した自宅での治療などの併用も重要と考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
過去に複数回BTX療法を施行した患者の経時的変化を検討したデータの報告はなく,本研究でデータを取り,検討したことにより今後のBTX療法後の理学療法に役立てていきたい。
検討に使用したデータはすべて理学療法士または作業療法士による治療が週1回以下であるため,今後は療法士による治療が週2回以上施行されている患者の経時的変化を検討していきたい。
2010年より脳卒中患者の上下肢痙縮に対するボツリヌス(以下BTX)療法が認可されたことで痙縮に対する治療が広く行われるようになってきており,治療効果に関する多くの報告がなされている。同時に理学療法士や作業療法士が介入することにより高い治療効果が得られているとの報告も多い。しかし,それらの報告の中で,長期間の経時的変化を追っている先行研究は見当たらない。今回,当院および旭川リハビリテーション病院にて複数回BTX療法を受けている患者Modified Ashworth Scale(以下MAS),関節可動域(以下ROM)を比較し,検討したので報告する。
【方法】
2012年11月~2014年8月に当院および旭川リハビリテーション病院で複数回のBTX療法を受け,理学療法士および作業療法士による週1回以下の治療を行った患者28名を対象とした。実施回数はBTX療法施行前を「施行前」,1回目のBTX療法施行後から2回目の施行日までを「1期」,2回目の施行日から3回目の施行日までを「2期」(以下同様の方法で区切り3期,4期,5期,6期とする)とし,MASとROMの値を期ごとに比較した。施行日の間隔は3か月~4か月の間でBTX療法を施行されていた。MASは肘関節屈筋群,手関節屈筋群,手指関節屈筋群,足関節底屈筋群,ROMは肘関節伸展,手指関節屈曲位と手指関節伸展位それぞれの手関節伸展,手指関節伸展,足関節背屈を測定した。データ解析は28人分のデータを1人の被検者データとみなし,BTXを施注された筋群(肘関節屈筋群,手関節屈筋群,手指関節屈筋群,足関節底屈筋群),関節(肘,手,手指,足)と測定時期(施行前,1期~6期)の二要因の分散分析を行った。従属変数はMAS,ROMとした。下位検定はBonferroni法を用い,有意水準は5%以下とした。
【結果】
データのサンプル数はMASは肘関節屈筋群350,手関節屈筋群427,手関節屈筋群421,足関節底屈筋群522,回数は施行前70,1期293,2期350,3期377,4期251,5期190,6期189であった。ROMは肘関節240,手関節背屈(手指屈曲位)277,手関節背屈(手指伸展位)198,手指関節260,足関節321,回数は施行前47,1期206,2期265,3期268,4期182,5期171,6期157であった。
MASは肘関節屈筋群で施行前2.36±0.52と比較して2期1.68±0.76,3期1.51±0.79で有意に減少した。手関節屈筋群では施行前2.42±0.69と比較して1期1.47±0.75,2期1.57±0.71,3期1.44±0.94,4期1.26±0.84,5期1.62±0.75,6期1.56±0.95で有意に減少した。手指関節屈筋群では施行前2.34±0.65と比較して1期1.57±0.81,2期1.63±1.65,3期1.7±0.78,4期1.5±0.68で有意に減少した。足関節底屈筋群では施行前2.04±0.84と比較して1期1.26±0.6で有意に減少した。
ROMは手関節背屈(手指伸展位)で施行前17.86±25.14と比較して1期47.83±15.85,2期41.02±18.87,3期35.9±16.78,4期43.65±15.27,5期44.82±12.70で有意な改善を認めた。
【考察】
今回,BTX療法後理学療法士および作業療法士による週1回以下の治療を施行した患者を対象にデータ解析を行った。今回の結果より手・手指関節では痙縮軽減効果が持続し,特に手関節屈筋群は複数回投与により全期で有意な改善が認められた。それに対して,足関節や肘関節では痙縮軽減効果が持続しにくいという結果になった。これは手関節,手指関節は比較的自分で動かしやすい関節であり,効果の持続を認めることが示唆された。肘関節や足関節は患者自身では動かしにくく,痙縮の軽減効果を持続させるためには他者の介入が必要であることが示唆された。
今回の持続例には積極的な手・手指関節の自身によるストレッチや持続伸張装具を用いた例が含まれており,治療効果持続のためには患者への的確なストレッチ方法の指導や装具療法,IVESなどの電気刺激を利用した自宅での治療などの併用も重要と考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
過去に複数回BTX療法を施行した患者の経時的変化を検討したデータの報告はなく,本研究でデータを取り,検討したことにより今後のBTX療法後の理学療法に役立てていきたい。
検討に使用したデータはすべて理学療法士または作業療法士による治療が週1回以下であるため,今後は療法士による治療が週2回以上施行されている患者の経時的変化を検討していきたい。