[O-0317] 人工膝関節置換術適用患者における身体・運動機能検査の標準範囲の設定
多施設共同研究による標準範囲設定の試み(第一報)
Keywords:標準範囲, 身体・運動機能検査, 変動要因
【はじめに,目的】
我が国では変形性膝関節症の有病率が非常に高く,自覚症状を有する者は1,000万人と推定されている。そのため経年的に病期の進行や症状が悪化する症例に対しては手術療法が適応になり,年間5万件以上の手術が施行されている。人工膝関節置換術後の身体機能や運動機能がQOLの長期成績などに重要な影響を与えることが示唆されており,リハビリテーションにおいて身体・運動機能検査が実施されている。しかし,身体機能検査や運動機能検査における問題点として,各検査における標準範囲が設定されていないため,各検査値の持つ意味については不明であることが挙げられ,また検査値に影響する変動要因や層別化について検討されていないのが現状である。そこで本研究は,人工膝関節置換術適用患者の基本属性・医学的属性・身体機能および運動機能を多施設共同研究によって調査し,身体・運動機能検査の変動要因の分析と標準範囲の設定を目的に実施した。
【方法】
対象は,研究協力が得られた6施設にて人工膝関節置換術の適用になった膝OA患者170名(男性28名・平均76.6±7.5歳,女性142名・平均75.0±7.3歳)とした。取込基準は人工膝関節全置換術適用例および単顆関節置換術適用例とし,除外基準は運動麻痺などの神経学的所見が認められる者,膝関節以外の関節可動域制限や疼痛が著明で立ち上がり・歩行動作の制限になっている者,認知機能障害・精神機能障害を有する者とした。身体機能検査については①術側・非術側膝伸展筋力②術側・非術側膝屈曲筋力③術側・非術側膝伸展関節可動域,④術側・非術側膝屈曲関節可動域,運動機能検査については①5m最大歩行速度②TUG(最大速度)③TUG(快適速度)の計測を行った。変動要因については基本属性である①性別②年齢③BMI④居住地⑤運動歴,医学的属性である⑥K-L分類⑦術式の7項目を調査した。標準範囲の設定はシャピロウィルク検定を実施し,正規性を認めた項目は平均値±1.96×標準偏差,正規性を認めなかった項目は2.5~97.5%タイル値を用いて上限値および下限値を算出した。また変動要因の分析には各検査項目を従属変数とした重回帰分析を実施した。さらに変動要因を認めた検査項目については要因別に標準範囲を層別化した。
【結果】
シャピロウィルク検定の結果,非術側膝屈曲可動域のみ正規性を認めた。重回帰分析を実施した結果,術側膝伸展筋力は性別と術式,術側膝屈曲筋力は術式,非術側膝屈曲筋力は性別,術側屈曲可動域は術式,非術側膝伸展可動域と非術側膝屈曲可動域はBMIが抽出された。その他の検査は有意な要因を認めなかった。変動要因を認めた検査を層別化し標準範囲を設定した結果,筋力については術側膝伸展筋力男性TKA(MIS)0.10~0.60Nm/kg・男性TKA(MIS)以外の術式0.09~0.32Nm/kg・女性TKA(MIS)0.11~0.48Nm/kg・女性TKA(MIS)以外の術式0.06~0.41Nm/kg,非術側膝伸展筋力0.18~1.25Nm/kg,術側膝屈曲筋力TKA(MIS)0.10~0.54Nm/kg・TKA(MIS)以外の術式0.07~0.40Nm/kg,非術側膝屈曲筋力男性0.13~0.96Nm/kg・女性0.14~0.81Nm/kgであった。関節可動域については術側膝伸展可動域-20~0度,非術側膝伸展可動域BMI25未満-11~0度・BMI25以上-20~0度,術側膝屈曲可動域TKA(MIS)79~144度・TKA(MIS)以外の術式85~125度,非術側膝屈曲可動域BMI25未満107~160度・BMI25以上91~159度であった。運動機能検査については5m最大歩行速度21.8~76.9m/分,TUG(最大速度)8.6~25.8秒,TUG(快適速度)10.3~32.5秒であった。
【考察】
術側膝伸展筋力は女性でTKA(MIS)以外の術式であると上限・下限値ともに低く,術側膝屈曲筋力についてもTKA(MIS)以外の術式で上限・下限値が低く設定された。また非術側膝屈曲筋力は女性において上限値が低く設定された。術側膝屈曲可動域はTKA(MIS)以外の術式であると上限値が低く,さらに非術側膝関節可動域についてはBMIが高いと下限値が低く設定された。一方,運動機能検査は変動要因を認めなかったため,各検査の標準範囲を層別化せずに設定した。本研究の限界として多く検査の標準範囲を2.5~97.5%タイル値から設定しているため,標準範囲が広く設定されている可能性がある。また標準範囲の設定にはサンプル数が不足していることから,今後も多施設共同研究を継続し,大規模なサンプルによる標準範囲を設定する必要性がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究で得られた知見は人工膝関節置換術患者における身体・運動機能検査の結果を解釈するための一助となり,標準範囲を提示していくことは根拠に基づいた理学療法を提供することに繋がると考える。
我が国では変形性膝関節症の有病率が非常に高く,自覚症状を有する者は1,000万人と推定されている。そのため経年的に病期の進行や症状が悪化する症例に対しては手術療法が適応になり,年間5万件以上の手術が施行されている。人工膝関節置換術後の身体機能や運動機能がQOLの長期成績などに重要な影響を与えることが示唆されており,リハビリテーションにおいて身体・運動機能検査が実施されている。しかし,身体機能検査や運動機能検査における問題点として,各検査における標準範囲が設定されていないため,各検査値の持つ意味については不明であることが挙げられ,また検査値に影響する変動要因や層別化について検討されていないのが現状である。そこで本研究は,人工膝関節置換術適用患者の基本属性・医学的属性・身体機能および運動機能を多施設共同研究によって調査し,身体・運動機能検査の変動要因の分析と標準範囲の設定を目的に実施した。
【方法】
対象は,研究協力が得られた6施設にて人工膝関節置換術の適用になった膝OA患者170名(男性28名・平均76.6±7.5歳,女性142名・平均75.0±7.3歳)とした。取込基準は人工膝関節全置換術適用例および単顆関節置換術適用例とし,除外基準は運動麻痺などの神経学的所見が認められる者,膝関節以外の関節可動域制限や疼痛が著明で立ち上がり・歩行動作の制限になっている者,認知機能障害・精神機能障害を有する者とした。身体機能検査については①術側・非術側膝伸展筋力②術側・非術側膝屈曲筋力③術側・非術側膝伸展関節可動域,④術側・非術側膝屈曲関節可動域,運動機能検査については①5m最大歩行速度②TUG(最大速度)③TUG(快適速度)の計測を行った。変動要因については基本属性である①性別②年齢③BMI④居住地⑤運動歴,医学的属性である⑥K-L分類⑦術式の7項目を調査した。標準範囲の設定はシャピロウィルク検定を実施し,正規性を認めた項目は平均値±1.96×標準偏差,正規性を認めなかった項目は2.5~97.5%タイル値を用いて上限値および下限値を算出した。また変動要因の分析には各検査項目を従属変数とした重回帰分析を実施した。さらに変動要因を認めた検査項目については要因別に標準範囲を層別化した。
【結果】
シャピロウィルク検定の結果,非術側膝屈曲可動域のみ正規性を認めた。重回帰分析を実施した結果,術側膝伸展筋力は性別と術式,術側膝屈曲筋力は術式,非術側膝屈曲筋力は性別,術側屈曲可動域は術式,非術側膝伸展可動域と非術側膝屈曲可動域はBMIが抽出された。その他の検査は有意な要因を認めなかった。変動要因を認めた検査を層別化し標準範囲を設定した結果,筋力については術側膝伸展筋力男性TKA(MIS)0.10~0.60Nm/kg・男性TKA(MIS)以外の術式0.09~0.32Nm/kg・女性TKA(MIS)0.11~0.48Nm/kg・女性TKA(MIS)以外の術式0.06~0.41Nm/kg,非術側膝伸展筋力0.18~1.25Nm/kg,術側膝屈曲筋力TKA(MIS)0.10~0.54Nm/kg・TKA(MIS)以外の術式0.07~0.40Nm/kg,非術側膝屈曲筋力男性0.13~0.96Nm/kg・女性0.14~0.81Nm/kgであった。関節可動域については術側膝伸展可動域-20~0度,非術側膝伸展可動域BMI25未満-11~0度・BMI25以上-20~0度,術側膝屈曲可動域TKA(MIS)79~144度・TKA(MIS)以外の術式85~125度,非術側膝屈曲可動域BMI25未満107~160度・BMI25以上91~159度であった。運動機能検査については5m最大歩行速度21.8~76.9m/分,TUG(最大速度)8.6~25.8秒,TUG(快適速度)10.3~32.5秒であった。
【考察】
術側膝伸展筋力は女性でTKA(MIS)以外の術式であると上限・下限値ともに低く,術側膝屈曲筋力についてもTKA(MIS)以外の術式で上限・下限値が低く設定された。また非術側膝屈曲筋力は女性において上限値が低く設定された。術側膝屈曲可動域はTKA(MIS)以外の術式であると上限値が低く,さらに非術側膝関節可動域についてはBMIが高いと下限値が低く設定された。一方,運動機能検査は変動要因を認めなかったため,各検査の標準範囲を層別化せずに設定した。本研究の限界として多く検査の標準範囲を2.5~97.5%タイル値から設定しているため,標準範囲が広く設定されている可能性がある。また標準範囲の設定にはサンプル数が不足していることから,今後も多施設共同研究を継続し,大規模なサンプルによる標準範囲を設定する必要性がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究で得られた知見は人工膝関節置換術患者における身体・運動機能検査の結果を解釈するための一助となり,標準範囲を提示していくことは根拠に基づいた理学療法を提供することに繋がると考える。