[O-0318] 無負荷の運動速度トレーニングが走行速度に及ぼす影響について
キーワード:走行, 運動速度, 筋力
【はじめに,目的】
走行速度に関する多くの研究において,筋力増強により走行速度が向上することが報告されている。一方,走行速度の規定には筋力以上に筋パワーの重要性が指摘されている。筋パワーは筋力×運動速度で表され,Delecluseらは,筋パワートレーニングを行った結果,筋力トレーニング以上に,走行速度の向上がみられたと報告している。また,高齢者において筋パワーの一要因である運動速度が筋力以上にパフォーマンスと関連すること,さらに運動速度に着目した介入研究においても,同負荷の運動を高速度で実施した方が筋パワーやパフォーマンスの向上に貢献したことが示されている。運動速度に着目したこれらの先行研究では,40%1RM以上の負荷がかかっており,運動速度のみに焦点をあてたトレーニングがパフォーマンスに及ぼす影響は明らかにされていない。
そこで本研究では,無負荷での運動速度トレーニングが走行速度に及ぼす影響について検討した。
【方法】
対象は健常成人女性29名とした。スピードトレーニング群(以下,S群)15名と筋力トレーニング群(以下,M群)14名の2群にランダムに分け,介入は1日に約20分,週に5回,6週間実施した。介入内容が正しく実施されるように,見本の提示と指導,紙面と動画の配布,動作の確認(週1回)を行った。また,未実施を防ぐために毎回確認をとり,実施状況を把握した。
S群は,全て無負荷で,①股関節屈伸反復運動(端座位),②股関節屈曲90°位で膝関節屈伸反復運動(背臥位),③膝関節伸展位で股関節屈曲運動(立位),④股関節屈曲運動(端座位),⑤膝関節伸展運動(端座位),⑥足関節底屈運動(長座位),の6種類を実施した。①②は左右交互にできるだけ早く20回反復する運動を,③~⑥はできるだけ早く1回動かす運動を行った。M群は,セラバンド(銀)を用い10回が限度となる強度で,収縮時間を3秒間とし,①股関節屈曲運動(端座位),②股関節伸展運動(立位),③膝関節屈曲運動(立位),④膝関節伸展運動(端座位),⑤足関節底屈運動(立位),の5種類を実施した。
測定は介入前後に行い,測定項目は,30m走,等尺性筋力(膝関節伸展),反復運動時間(股関節,膝関節)とした。
30m走は赤外線ストップウォッチ(デジタイマーII)を用いて,走行時間を測定した。等尺性膝関節伸展筋力は等速性筋力測定器(BIODEX)を用いて,膝関節屈曲90°位で測定した。反復運動時間はビデオカメラを用い,20回の反復運動に要した時間を測定し,本研究ではこの時間を運動速度として定義した。股関節の反復運動は端座位にて股関節屈曲90°から120°の範囲で股関節屈伸運動,膝関節の反復運動は端座位にて膝関節屈曲15°から110°の範囲で膝関節屈伸運動を行った。全ての測定項目については最速値,最大値を用いた。
統計処理は,介入前後におけるS群,M群それぞれの測定項目を,対応のあるt検定を用いて比較した。さらに,群間差および前後差の2要因についての二元配置分散分析を行い,交互作用を求めた。全ての統計解析にはSPSS Ver. 21.0を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
対象者の年齢は20.0±0.9歳であった。S群では介入の中断者はおらず,M群は介入外の外傷で2名が中止となり,12名となった。
各測定項目の平均値及び標準偏差を介入前後の順に示す。S群において,30m走(秒)は5.4±0.2,5.2±0.2であった。等尺性膝関節伸展筋力(Nm)は129.6±15.1,140.6±24.7,股関節反復運動時間(秒)は3.7±0.4,3.2±0.2,膝関節反復運動時間(秒)は4.0±0.4,3.6±0.3であった。M群において,30m走(秒)は5.3±0.3,5.2±0.2であった。等尺性膝関節伸展筋力(Nm)は133.8±18.5,144.2±19.0,股関節反復運動時間(秒)は3.7±0.4,3.4±0.2,膝関節反復運動時間(秒)は4.2±0.4,3.9±0.3であった。
S群は介入前後で30m走,等尺性筋力,反復運動時間において有意差が認められた。M群は等尺性筋力,反復運動時間で有意差が認められたが,30m走では認められなかった。また,二元配置分散分析の結果,30m走において交互作用が認められた。
【考察】
S群では30m走が有意に改善し,両群間で交互作用も認められた。この結果は,無負荷での運動速度トレーニングが,筋力トレーニング以上に走行速度の向上に有効である可能性を示している。本研究での運動速度トレーニングは自重以外の負荷がかかっておらず,関節への負担は他のトレーニングと比較してかなり小さいため,関節疾患を有する対象者に対しても効果的な運動介入になると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
自重以外の負荷がかからないトレーニングによってパフォーマンスが向上することを示した点。
走行速度に関する多くの研究において,筋力増強により走行速度が向上することが報告されている。一方,走行速度の規定には筋力以上に筋パワーの重要性が指摘されている。筋パワーは筋力×運動速度で表され,Delecluseらは,筋パワートレーニングを行った結果,筋力トレーニング以上に,走行速度の向上がみられたと報告している。また,高齢者において筋パワーの一要因である運動速度が筋力以上にパフォーマンスと関連すること,さらに運動速度に着目した介入研究においても,同負荷の運動を高速度で実施した方が筋パワーやパフォーマンスの向上に貢献したことが示されている。運動速度に着目したこれらの先行研究では,40%1RM以上の負荷がかかっており,運動速度のみに焦点をあてたトレーニングがパフォーマンスに及ぼす影響は明らかにされていない。
そこで本研究では,無負荷での運動速度トレーニングが走行速度に及ぼす影響について検討した。
【方法】
対象は健常成人女性29名とした。スピードトレーニング群(以下,S群)15名と筋力トレーニング群(以下,M群)14名の2群にランダムに分け,介入は1日に約20分,週に5回,6週間実施した。介入内容が正しく実施されるように,見本の提示と指導,紙面と動画の配布,動作の確認(週1回)を行った。また,未実施を防ぐために毎回確認をとり,実施状況を把握した。
S群は,全て無負荷で,①股関節屈伸反復運動(端座位),②股関節屈曲90°位で膝関節屈伸反復運動(背臥位),③膝関節伸展位で股関節屈曲運動(立位),④股関節屈曲運動(端座位),⑤膝関節伸展運動(端座位),⑥足関節底屈運動(長座位),の6種類を実施した。①②は左右交互にできるだけ早く20回反復する運動を,③~⑥はできるだけ早く1回動かす運動を行った。M群は,セラバンド(銀)を用い10回が限度となる強度で,収縮時間を3秒間とし,①股関節屈曲運動(端座位),②股関節伸展運動(立位),③膝関節屈曲運動(立位),④膝関節伸展運動(端座位),⑤足関節底屈運動(立位),の5種類を実施した。
測定は介入前後に行い,測定項目は,30m走,等尺性筋力(膝関節伸展),反復運動時間(股関節,膝関節)とした。
30m走は赤外線ストップウォッチ(デジタイマーII)を用いて,走行時間を測定した。等尺性膝関節伸展筋力は等速性筋力測定器(BIODEX)を用いて,膝関節屈曲90°位で測定した。反復運動時間はビデオカメラを用い,20回の反復運動に要した時間を測定し,本研究ではこの時間を運動速度として定義した。股関節の反復運動は端座位にて股関節屈曲90°から120°の範囲で股関節屈伸運動,膝関節の反復運動は端座位にて膝関節屈曲15°から110°の範囲で膝関節屈伸運動を行った。全ての測定項目については最速値,最大値を用いた。
統計処理は,介入前後におけるS群,M群それぞれの測定項目を,対応のあるt検定を用いて比較した。さらに,群間差および前後差の2要因についての二元配置分散分析を行い,交互作用を求めた。全ての統計解析にはSPSS Ver. 21.0を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
対象者の年齢は20.0±0.9歳であった。S群では介入の中断者はおらず,M群は介入外の外傷で2名が中止となり,12名となった。
各測定項目の平均値及び標準偏差を介入前後の順に示す。S群において,30m走(秒)は5.4±0.2,5.2±0.2であった。等尺性膝関節伸展筋力(Nm)は129.6±15.1,140.6±24.7,股関節反復運動時間(秒)は3.7±0.4,3.2±0.2,膝関節反復運動時間(秒)は4.0±0.4,3.6±0.3であった。M群において,30m走(秒)は5.3±0.3,5.2±0.2であった。等尺性膝関節伸展筋力(Nm)は133.8±18.5,144.2±19.0,股関節反復運動時間(秒)は3.7±0.4,3.4±0.2,膝関節反復運動時間(秒)は4.2±0.4,3.9±0.3であった。
S群は介入前後で30m走,等尺性筋力,反復運動時間において有意差が認められた。M群は等尺性筋力,反復運動時間で有意差が認められたが,30m走では認められなかった。また,二元配置分散分析の結果,30m走において交互作用が認められた。
【考察】
S群では30m走が有意に改善し,両群間で交互作用も認められた。この結果は,無負荷での運動速度トレーニングが,筋力トレーニング以上に走行速度の向上に有効である可能性を示している。本研究での運動速度トレーニングは自重以外の負荷がかかっておらず,関節への負担は他のトレーニングと比較してかなり小さいため,関節疾患を有する対象者に対しても効果的な運動介入になると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
自重以外の負荷がかからないトレーニングによってパフォーマンスが向上することを示した点。