[O-0319] 初発脊椎圧迫骨折例における退院時歩行能力に影響する因子の検討
Keywords:歩行, 階段昇降能力, 生活習慣病
【はじめに,目的】一旦,脆弱性骨折が発生すると,その後に骨折リスクが高まることは知られているが,その原因については十分には明らかにされてはいない。その中でも,最も頻度の高い骨粗鬆症性骨折である脊椎圧迫骨折例において,次なる骨折を防ぐ2次予防は,特に重要度が高いと考える。また,受傷後の歩行能力の低下は,脊椎椎体骨折例の予後を悪化させる因子とされており(濱本ら1999),退院時の歩行能力は着目すべき指標である。本研究の目的は,初発の脊椎圧迫骨折例の退院時の歩行能力に影響を及ぼす因子について検討することである。
【方法】2010年1月から2014年9月に脊椎圧迫骨折の診断にて,当院に入院し,保存療法が施行され,重篤な合併症がなく自宅復帰となった症例の内,受傷前に独歩または杖歩行が可能で,初発の単椎体新鮮骨折である40例(男性:14例,女性:26例,年齢:71.9±10.5歳)を対象とした。受傷前と退院時の歩行能力を比較し,同等となったものを到達群,低下したものを非到達群の2群に分類した。両群間において,年齢,性別,認知症性老人の日常生活自立度判定基準,要介護認定の有無,生活習慣病(高血圧・糖尿病・脂質異常症)の有無,脳血管疾患および心疾患,高齢者に多い骨折(大腿骨近位部骨折・上腕骨近位端骨折・橈骨遠位端骨折)の既往の有無,受傷前骨粗鬆症治療薬使用の有無,受傷前の階段昇降能力(Barthel Index,以下BIにて評価),入院直近時の血清アルブミン値,骨折椎体高位および椎体変形の程度,在院日数,入院より歩行練習開始までの日数,消炎鎮痛薬の退院時処方の有無を検討項目として比較した。骨折椎体高位および椎体変形の程度は,入院時の単純レントゲン写真より,半定量的評価法(semiquantitative assessment:SQ法)を用いて判定した。統計学的手法はShapiro-Wilk検定にて,正規性について確認し,正規分布に従っている場合は,等分散性を確認し,Welchの補正による2標本t検定を,正規性が確認できない場合は,Mann-WhitneyのU検定を行った。また,名義尺度間の比較にはカイ2乗検定を行った。更に,歩行到達の可否を従属変数,2群間の比較で有意差の認められた項目を独立変数として,多重ロジスティック回帰分析を行い,検討を加えた。多変量解析にあたっては,独立変数間の多重共線性に配慮した。統計学的解析には,R.2.8.1によるR commanderを使用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】到達群は30例(男性:12例,女性:18例,年齢:69.9±11.0歳),非到達群は10例(男性:2例,女性:8例,年齢:78.2±5.8歳)であった。2群間の比較で有意差の認められた項目は,年齢,受傷前の階段昇降能力(到達群:BI10点28例,BI5点2例,非到達群:BI10点6例,BI5点4例),生活習慣病の有無(到達群:有9例,無21例,非到達群:有7例,無3例)の3項目であった。多重ロジスティック回帰分析の結果,歩行到達の可否に影響を与える因子として,受傷前の階段昇降能力(p=0.02),生活習慣病の有無(p=0.04)が抽出された。受傷前の階段昇降能力(BI10点:歩行能力維持,BI5点以下:歩行能力低下)と生活習慣病(無:歩行能力維持,有:歩行能力低下)について,スクリーニングを行ったと仮定すると,「階段昇降」は,感度:40.0%,特異度:93.3%,陽性尤度比:5.7,「生活習慣病」は,感度:70.0%,特異度:70.0%,陽性尤度比:2.3であった。
【考察】辻(1999)によると,階段昇降に苦痛を感じないものは,バランス能力や膝伸展筋力が優れているとされている。また,骨粗鬆症と動脈硬化や血管石灰化には密接な関係があるとされ,近年,生活習慣病では,骨折危険度が高まることが注目されている。本研究では,初発の脊椎圧迫骨折例における退院時の歩行能力に影響を及ぼす因子として,受傷前の階段昇降能力の低下と生活習慣病を有することが抽出され,階段昇降能力は身体能力を,生活習慣病は骨粗鬆症を反映する指標ではないかと推察された。これらの情報は,理学療法開始時に入手でき,早期より歩行能力低下の危険性を念頭に置くことができる点,脆弱性骨折の2次予防を視野に入れた転倒予防がより重要となる症例を入院後早期に把握できる可能性がある点で,有用な指標であると考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,入院後早期に把握できる受傷前の階段昇降能力の低下と生活習慣病の存在が,初発の脊椎圧迫骨折例における歩行能力低下に関与する可能性を示せた点で,その意義は高いと考える。
【方法】2010年1月から2014年9月に脊椎圧迫骨折の診断にて,当院に入院し,保存療法が施行され,重篤な合併症がなく自宅復帰となった症例の内,受傷前に独歩または杖歩行が可能で,初発の単椎体新鮮骨折である40例(男性:14例,女性:26例,年齢:71.9±10.5歳)を対象とした。受傷前と退院時の歩行能力を比較し,同等となったものを到達群,低下したものを非到達群の2群に分類した。両群間において,年齢,性別,認知症性老人の日常生活自立度判定基準,要介護認定の有無,生活習慣病(高血圧・糖尿病・脂質異常症)の有無,脳血管疾患および心疾患,高齢者に多い骨折(大腿骨近位部骨折・上腕骨近位端骨折・橈骨遠位端骨折)の既往の有無,受傷前骨粗鬆症治療薬使用の有無,受傷前の階段昇降能力(Barthel Index,以下BIにて評価),入院直近時の血清アルブミン値,骨折椎体高位および椎体変形の程度,在院日数,入院より歩行練習開始までの日数,消炎鎮痛薬の退院時処方の有無を検討項目として比較した。骨折椎体高位および椎体変形の程度は,入院時の単純レントゲン写真より,半定量的評価法(semiquantitative assessment:SQ法)を用いて判定した。統計学的手法はShapiro-Wilk検定にて,正規性について確認し,正規分布に従っている場合は,等分散性を確認し,Welchの補正による2標本t検定を,正規性が確認できない場合は,Mann-WhitneyのU検定を行った。また,名義尺度間の比較にはカイ2乗検定を行った。更に,歩行到達の可否を従属変数,2群間の比較で有意差の認められた項目を独立変数として,多重ロジスティック回帰分析を行い,検討を加えた。多変量解析にあたっては,独立変数間の多重共線性に配慮した。統計学的解析には,R.2.8.1によるR commanderを使用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】到達群は30例(男性:12例,女性:18例,年齢:69.9±11.0歳),非到達群は10例(男性:2例,女性:8例,年齢:78.2±5.8歳)であった。2群間の比較で有意差の認められた項目は,年齢,受傷前の階段昇降能力(到達群:BI10点28例,BI5点2例,非到達群:BI10点6例,BI5点4例),生活習慣病の有無(到達群:有9例,無21例,非到達群:有7例,無3例)の3項目であった。多重ロジスティック回帰分析の結果,歩行到達の可否に影響を与える因子として,受傷前の階段昇降能力(p=0.02),生活習慣病の有無(p=0.04)が抽出された。受傷前の階段昇降能力(BI10点:歩行能力維持,BI5点以下:歩行能力低下)と生活習慣病(無:歩行能力維持,有:歩行能力低下)について,スクリーニングを行ったと仮定すると,「階段昇降」は,感度:40.0%,特異度:93.3%,陽性尤度比:5.7,「生活習慣病」は,感度:70.0%,特異度:70.0%,陽性尤度比:2.3であった。
【考察】辻(1999)によると,階段昇降に苦痛を感じないものは,バランス能力や膝伸展筋力が優れているとされている。また,骨粗鬆症と動脈硬化や血管石灰化には密接な関係があるとされ,近年,生活習慣病では,骨折危険度が高まることが注目されている。本研究では,初発の脊椎圧迫骨折例における退院時の歩行能力に影響を及ぼす因子として,受傷前の階段昇降能力の低下と生活習慣病を有することが抽出され,階段昇降能力は身体能力を,生活習慣病は骨粗鬆症を反映する指標ではないかと推察された。これらの情報は,理学療法開始時に入手でき,早期より歩行能力低下の危険性を念頭に置くことができる点,脆弱性骨折の2次予防を視野に入れた転倒予防がより重要となる症例を入院後早期に把握できる可能性がある点で,有用な指標であると考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,入院後早期に把握できる受傷前の階段昇降能力の低下と生活習慣病の存在が,初発の脊椎圧迫骨折例における歩行能力低下に関与する可能性を示せた点で,その意義は高いと考える。