[O-0322] 骨格筋に対する磁気刺激療法の効果
Keywords:磁気刺激, 骨格筋, 筋力増強
【はじめに,目的】
神経系疾病や外傷に伴う安静・固定などの影響で骨格筋の廃用・萎縮を認める症例は少なくない。その予防・治療に対する理学療法の一つとして治療的電気刺激法(Therapeutic Electrical Stimulation以下,TES)などが用いられている。TESは,筋萎縮の予防,筋力増強,痙性の抑制,運動の随意性向上などに使用されている。しかし,浅層の骨格筋には有効であるが,深層の骨格筋には十分刺激が届きにくい。また,皮膚表面の汚れや,電極との接触状態の影響を受けやすく,刺激量を一定にすることが難しいため目的の筋を刺激することが困難な場合がある。一方,磁気刺激は非侵襲的で痛みのない刺激であり,使用するコイルによって,2~4cm程度の深部組織を刺激することが可能である。しかしながら,骨格筋に対する磁気刺激や刺激頻度(低頻度刺激・高頻度刺激)を比較した報告は少ない。本研究では,単独での増強運動が難しい内側広筋斜頭に対して磁気刺激を実施し,刺激頻度による筋力増強効果を検討したので報告する。
【方法】
心肺機能や筋骨関節系の問題がなく定期的な運動習慣のない健常者26名(男性18名・女性8名,平均年齢29.2±5.3歳)を対象者とした。刺激側は利き足・軸足関係なく,ランダムに抽出し,右低頻度刺激・左高頻度刺激13名,右高頻度刺激・左低頻度刺激13名に振り分けた。刺激部位は内側広筋斜頭を選択し,モーターポイントを膝蓋骨上縁内角より内上方へ2横指で統一した。磁気刺激にはMagVenture社MagProR30を使用し,照射コイルはCool-B65を選択した。刺激強度は視診にて筋の収縮が十分に確認され,不快感のない最大値とした。期間は4週間,週4回の刺激を上限とし,合計12回とした。測定項目は安静時の大腿周径・内側広筋の筋厚・膝伸展筋力とし,実施前・磁気刺激終了・終了1ヵ月後にそれぞれ測定した。安静時の大腿周径は,膝蓋骨中央,膝蓋骨上縁5cm・10cm・15cmを巻尺にて計測した。内側広筋の筋厚測定には,超音波診断装置(GE Healthcare社Venue 40 Musculoskeletal)を使用し,プローブは12MHzを選択した。測定肢位は背臥位にて,膝関節伸展位とし測定部位は膝蓋骨上内側縁より10cm近位とし,プローブを皮膚面に対して垂直に接触させたときの超音波断層画像を記録し,皮下脂肪下から大腿骨までの筋組織厚を測定した。膝伸展筋力は,HUR社レッグプレス インクライン リハブを用い,パフォーマンスレコーダー9200にて片脚ずつ測定した。統計処理は,磁気刺激の刺激頻度と各測定値の比較は,反復測定2元配置分散分析を用いた。また,期間での測定値の比較は,Bartlett検定にて等分散を確認した後に,1元配置分散分析を行った。有意な差を認めた場合にはpost hoc testとして多重比較検定(Tukey-Kramer法)を行った。磁気刺激の照射強度と,膝伸展筋力の増加率(実施前-実施後)の関係については,ピアソンの相関係数を用いた。いずれも有意水準は5%未満とした。
【結果】
低頻度刺激と高頻度刺激の差は反復測定2元配置分散分析の結果,有意差は認められなかった。大腿周径・内側広筋の筋厚・膝伸展筋力では,1元配置分散分析の結果,有意差を認めたため,多重比較検定(Tukey-Kramer法)を用いた結果,内側広筋の筋厚で,実施前 右3.0±0.48cm 左2.9±0.50cm,実施後 右3.2±0.41cm 左3.3±0.50cm,終了1ヶ月後 右3.0±0.42cm左3.1±0.44cmであり,実施前-実施後で左内側広筋の筋厚にP<0.05で有意差を認めた。膝伸展筋力(実施前・実施後の増加率)は,右37.2±34.7%左58.0±57.3%であり,左右膝伸展筋力 右P<0.05左P<0.01で有意差を認めた。磁気刺激の照射強度と,膝伸展筋力の増加率(実施前-実施後)の関係は,ピアソンの相関係数より右r=0.02 左r=0.15と相関は認められなかった。
【考察】
内側広筋斜頭への磁気刺激により,安静時の大腿周径に変化は見られないものの,左内側広筋の筋厚及び両側膝伸展筋力が増強した。また,今回実施した被験者すべてが軸足左側であることも要因の一つと推察される。刺激頻度の差や照射強度の相関に有意差を認められなかったものの,磁気刺激の照射強度を不快感のない最大値としたため,今後は照射強度を統一して,刺激頻度に変化が生じるか検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,骨格筋に対する磁気刺激の有用性を検討し,今後はさまざまな疾患に対しての効果が期待されるため,意義があるものと考える。
神経系疾病や外傷に伴う安静・固定などの影響で骨格筋の廃用・萎縮を認める症例は少なくない。その予防・治療に対する理学療法の一つとして治療的電気刺激法(Therapeutic Electrical Stimulation以下,TES)などが用いられている。TESは,筋萎縮の予防,筋力増強,痙性の抑制,運動の随意性向上などに使用されている。しかし,浅層の骨格筋には有効であるが,深層の骨格筋には十分刺激が届きにくい。また,皮膚表面の汚れや,電極との接触状態の影響を受けやすく,刺激量を一定にすることが難しいため目的の筋を刺激することが困難な場合がある。一方,磁気刺激は非侵襲的で痛みのない刺激であり,使用するコイルによって,2~4cm程度の深部組織を刺激することが可能である。しかしながら,骨格筋に対する磁気刺激や刺激頻度(低頻度刺激・高頻度刺激)を比較した報告は少ない。本研究では,単独での増強運動が難しい内側広筋斜頭に対して磁気刺激を実施し,刺激頻度による筋力増強効果を検討したので報告する。
【方法】
心肺機能や筋骨関節系の問題がなく定期的な運動習慣のない健常者26名(男性18名・女性8名,平均年齢29.2±5.3歳)を対象者とした。刺激側は利き足・軸足関係なく,ランダムに抽出し,右低頻度刺激・左高頻度刺激13名,右高頻度刺激・左低頻度刺激13名に振り分けた。刺激部位は内側広筋斜頭を選択し,モーターポイントを膝蓋骨上縁内角より内上方へ2横指で統一した。磁気刺激にはMagVenture社MagProR30を使用し,照射コイルはCool-B65を選択した。刺激強度は視診にて筋の収縮が十分に確認され,不快感のない最大値とした。期間は4週間,週4回の刺激を上限とし,合計12回とした。測定項目は安静時の大腿周径・内側広筋の筋厚・膝伸展筋力とし,実施前・磁気刺激終了・終了1ヵ月後にそれぞれ測定した。安静時の大腿周径は,膝蓋骨中央,膝蓋骨上縁5cm・10cm・15cmを巻尺にて計測した。内側広筋の筋厚測定には,超音波診断装置(GE Healthcare社Venue 40 Musculoskeletal)を使用し,プローブは12MHzを選択した。測定肢位は背臥位にて,膝関節伸展位とし測定部位は膝蓋骨上内側縁より10cm近位とし,プローブを皮膚面に対して垂直に接触させたときの超音波断層画像を記録し,皮下脂肪下から大腿骨までの筋組織厚を測定した。膝伸展筋力は,HUR社レッグプレス インクライン リハブを用い,パフォーマンスレコーダー9200にて片脚ずつ測定した。統計処理は,磁気刺激の刺激頻度と各測定値の比較は,反復測定2元配置分散分析を用いた。また,期間での測定値の比較は,Bartlett検定にて等分散を確認した後に,1元配置分散分析を行った。有意な差を認めた場合にはpost hoc testとして多重比較検定(Tukey-Kramer法)を行った。磁気刺激の照射強度と,膝伸展筋力の増加率(実施前-実施後)の関係については,ピアソンの相関係数を用いた。いずれも有意水準は5%未満とした。
【結果】
低頻度刺激と高頻度刺激の差は反復測定2元配置分散分析の結果,有意差は認められなかった。大腿周径・内側広筋の筋厚・膝伸展筋力では,1元配置分散分析の結果,有意差を認めたため,多重比較検定(Tukey-Kramer法)を用いた結果,内側広筋の筋厚で,実施前 右3.0±0.48cm 左2.9±0.50cm,実施後 右3.2±0.41cm 左3.3±0.50cm,終了1ヶ月後 右3.0±0.42cm左3.1±0.44cmであり,実施前-実施後で左内側広筋の筋厚にP<0.05で有意差を認めた。膝伸展筋力(実施前・実施後の増加率)は,右37.2±34.7%左58.0±57.3%であり,左右膝伸展筋力 右P<0.05左P<0.01で有意差を認めた。磁気刺激の照射強度と,膝伸展筋力の増加率(実施前-実施後)の関係は,ピアソンの相関係数より右r=0.02 左r=0.15と相関は認められなかった。
【考察】
内側広筋斜頭への磁気刺激により,安静時の大腿周径に変化は見られないものの,左内側広筋の筋厚及び両側膝伸展筋力が増強した。また,今回実施した被験者すべてが軸足左側であることも要因の一つと推察される。刺激頻度の差や照射強度の相関に有意差を認められなかったものの,磁気刺激の照射強度を不快感のない最大値としたため,今後は照射強度を統一して,刺激頻度に変化が生じるか検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,骨格筋に対する磁気刺激の有用性を検討し,今後はさまざまな疾患に対しての効果が期待されるため,意義があるものと考える。