第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述43

頚部・肩関節

Fri. Jun 5, 2015 6:40 PM - 7:40 PM 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:高村隆(船橋整形外科病院 肩関節・肘関節センター 特任理学診療部)

[O-0323] 頸部痛患者における日本語版Patient-Specific Functional Scaleの信頼性・妥当性・反応性の検討

中丸宏二1,2, 相澤純也3, 小山貴之4, 波戸根行成1, 瓦田恵三1, 新田收2 (1.寺嶋整形外科医院リハビリテーション科, 2.首都大学東京大学院人間健康科学研究科, 3.東京医科歯科大学スポーツ医歯学診療センター, 4.日本大学文理学部体育学科)

Keywords:頸部痛, 患者特異的質問票, 日本語版Patient-Specific Functional Scale

【はじめに,目的】
頸部痛は比較的よく見られる症状で,1年間で頸部痛を訴える人は全人口の40%にも上るとの報告がある。このような頸部痛患者を評価する際に関節可動域のような客観的なアウトカムだけでなく,患者自身が自分の状態を評価する自己記入式の質問票などの主観的なアウトカムを使用することが必須なものとなってきている。頸部痛患者用の代表的な質問票には疾患特異的なものとしてNeck Disability Index(NDI)があるが,頸部痛の臨床ガイドラインでは患者特異的な質問票であるPatient-Specific Functional Scale(PSFS)も使用することを勧めている。PSFSは障害によって最も影響を受けている活動を患者自身が3つ挙げて,それぞれの活動に対して0(全くできない)~10(以前と同じようにできる)の間で点数をつけ,その平均点を算出することで評価する。PSFSは英語圏ではその信頼性,妥当性が検証され,頸部痛患者に対する臨床試験のアウトカムとして用いられている。日本ではPSFSの信頼性などを検討した研究はなく,アウトカムとしても用いられていない。日本において理学療法介入の治療効果を調べる質の高い臨床試験を行うためにも信頼性,妥当性が検証された評価ツールを使用することが求められる。本研究の目的はPSFSを国際的なガイドラインに準拠して翻訳・異文化適応を行って日本語版を作成し,頸部痛患者における日本語版PSFSの信頼性,妥当性,反応性を検証することである。

【方法】
PSFSの開発者であるDr. Stratford(McMaster University, Canada)から日本語に翻訳する許可を得た後,Beatonらが推奨する異文化適応のガイドラインに準拠して暫定的な日本語版PSFSを作成した。作成した暫定版を頸部痛患者20名に回答してもらうパイロットテストを行い,その結果を開発者に報告して問題がないという回答を得たことから最終的な日本語版PSFSを作成した。作成した日本語版PSFSの信頼性,妥当性,反応性を検討するために,対象人数を増やしたフィールドテストを行った。対象は20歳以上の頸部痛を訴える外来患者103名で,除外基準は重度の頚椎症性神経根症,脊椎骨折,頸椎の手術歴などとした。最初に患者のベースラインの状態を見るために日本語版PSFS,日本語版NDIに回答してもらった。1週間後と3週間後には治療開始からの全体的な変化を7段階で評価するThe Patient’s Global Impression of Change(PGIC)と日本語版PSFSに再回答してもらった。再現性を見るために1週間後にPGICで変化なしと回答した安定群を対象に級内相関係数(intraclass correlation coefficient:ICC))を算出した。収束的妥当性は日本語版PSFSと日本語版NDIとの相関をPearsonの相関係数を用いて検討した。反応性は3週間後の安定群と改善群における日本語版PSFSの点数変化を対応のないt検定で検討し,また最小可検変化量(minimal detectable change:MDC)を算出した。統計解析にはSPSS(Ver.20.0)を使用し,有意水準は5%に設定した。

【結果】
異文化適応の過程(翻訳,パイロットテスト)は特に問題なく行われた。フィールドテストを行った結果,ICCは0.98(95%CI:0.95-0.99),日本語版NDIとの相関は-0.35,3週間後の安定群と改善群におけるPSFSの点数変化には有意差が認められた(P<0.01)。MDCは0.64であった。

【考察】
本研究の目的はPSFSをガイドラインに準拠して日本語版PSFSを作成し,その信頼性,妥当性,反応性を検討することであった。本研究の結果から,頸部痛患者における日本語版PSFSの高い信頼性,妥当性,反応性が認められた。日本語版PSFSの再現性はICCで0.98と高い信頼性を示し,この結果は頸部痛患者を対象とした先行研究(0.97)と同様の結果となった。収束的妥当性を検討したNDIとの相関は中程度であったが,体系的な質問票であるNDIでは患者特有の質問項目が含まれていない可能性があり,このことが強い相関を示さなかった理由と考える。3週間後の安定群と改善群とのスコア変化に有意な差が認められたことで,日本語版PSFSには充分な反応性があることが示された。MDCは0.64となり,再評価でPSFSの点数の変化がこの値を超えた場合には臨床的に実際に患者が変化したと言える。

【理学療法学研究としての意義】
患者特異的なアウトカムとして日本語版PSFSを使用した頸部痛患者に対する質の高い臨床試験を行うことが可能となり,その研究結果を海外の研究結果と比較できるようになる。