[O-0325] 頭頸部屈曲運動時における頸長筋の変化
キーワード:頸長筋, 頭頸部屈曲テスト, 超音波
【はじめに,目的】
頸部痛により頸部の運動制御方式に変化が起こり,頸部の深層屈筋群である頸長筋の活動が障害されることが報告されている。頸部深層屈筋群の活動性の間接的テストとして,頭頸部屈曲テスト(Cranio-Cervical Flexion Test:以下CCFT)が開発され,針筋電図によってその妥当性が示されている。CCFTは,頸部の表層筋である胸鎖乳突筋や前斜角筋の収縮が強くならないように頭頸部を屈曲させるテストであり,臨床場面における正確性のフィードバックは,検者の視診・触診による主観的評価に止まっている。頸長筋は表面筋電図による測定は困難であるが,超音波診断装置では,筋の断面を捉えることが可能であり,CCFT施行時に頸長筋の超音波画像を測定することで臨床応用が可能であると思われる。しかし,安静背臥位における頸長筋の超音波画像に関する先行研究は散見されるが,頸長筋を収縮させた状態での報告は少ない。本研究では,安静時からCCFTの各負荷段階における頸長筋の変化を明らかにすることを目的とした。
【方法】
頸部の基礎疾患や外傷の既往のない健常成人24名(男性12名,女性12名,年齢21.5±2.0歳)を対象とし両側の頸部を測定した。測定肢位は膝関節を屈曲した背臥位とし,被験者の後頭下にスタビライザー(chattanooga社)を置き,圧が20mmHgになるように空気を入れ,これを開始肢位とした。この時,頭頸部が伸展位になる場合は,折ったタオルを後頭部に入れ,頭部がベッドと平行になるように調整した。スタビライザーのモニター部分は,下顎の直上でベッドから40cmの高さになるように固定した。鮮明な頸長筋画像が得られるとされる第6頸椎レベルで撮像するために,甲状軟骨底部より2cm下方をランドマークに頸部長軸に対して垂直にプローブ(5-10MHz,リニア型)を当て,超音波診断装置(sonosite社)を用いて頸長筋,胸鎖乳突筋をイメージングした。被験者に20mmHgから2mmHgずつ圧が増加するように頭頸部を屈曲してもらい,30mmHgまでの5段階を測定した。それぞれの負荷段階で10秒間保持し,10秒経過時の静止画を撮像し,各測定の間は30秒間の休息時間を設けた。得られた画像を画像解析ソフトImage Jを用いて,頸長筋筋厚(以下APD),筋幅(以下LD),断面積(以下CSA),胸鎖乳突筋(以下SCM)筋厚を測定した。これらの測定結果に対し,反復測定一元配置分散分析およびBonferroniの多重比較検定を行い,各負荷段階におけるデータを比較した。統計処理はSPSS statistics 20.0を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
左利きの被験者が3名含まれていたため,利き手側,非利き手側で比較した。頸長筋の安静時の各パラメータの平均値は,APD(利き手側:1.10±0.21cm,非利き手側:1.20±0.18cm),LD(利き手側:2.09±0.31cm,非利き手側:2.17±0.30cm),CSA(利き手側:1.68±0.51cm2,非利き手側:1.74±0.43cm2),SCM筋厚(利き手側:0.94±0.24,非利き手側:0.90±0.21)であった。CCFTの各負荷段階における変化は,利き手側では有意差はみられなかった。非利き手側ではCSAのみ有意な主効果が認められ,安静時と24mmHg(1.92±0.49),26mmHg(1.97±0.52),30mmHg(1.98±0.49)との間でそれぞれ増大していた。
【考察】
頸長筋は頸椎の前方を沿うように走行しており,両側性に収縮することで,頭頸部の屈曲が起こる。CCFT施行時に,非利き手側においてCSAの増加がみられたが,利き手側では変化はみられなかった。頸長筋は上肢の運動のフィードフォワード機構として活動することが報告されており,利き手側上肢の瞬発的な運動に対して,非利き手側の頸長筋が活動しやすいといった特性を持っている可能性がある。非利き手側では安静時と比較して,頸長筋が収縮しているか否かの判断は可能であると思われる。また,APDやLDに有意差がみられなかったにも関わらず,CSAが増大した。APD,LDは得られた画像から最長部分を選択して測定している。超音波画像では,頸長筋は三角形に近い形状をしており,最長の厚さや幅を変化させなくても,筋の収縮によりCSAを増大させていることが考えられる。歪な形状で画像が得られるため,APDよりもCSAを測定することで正確な評価が可能になると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
CCFTは臨床場面において正確性の判断が難しい。非侵襲でリアルタイムな観察が可能な超音波診断装置を用いて,頸長筋を収縮させた状態の変化をみることができたとともに,その特性を示したことは非常に意義深い。
頸部痛により頸部の運動制御方式に変化が起こり,頸部の深層屈筋群である頸長筋の活動が障害されることが報告されている。頸部深層屈筋群の活動性の間接的テストとして,頭頸部屈曲テスト(Cranio-Cervical Flexion Test:以下CCFT)が開発され,針筋電図によってその妥当性が示されている。CCFTは,頸部の表層筋である胸鎖乳突筋や前斜角筋の収縮が強くならないように頭頸部を屈曲させるテストであり,臨床場面における正確性のフィードバックは,検者の視診・触診による主観的評価に止まっている。頸長筋は表面筋電図による測定は困難であるが,超音波診断装置では,筋の断面を捉えることが可能であり,CCFT施行時に頸長筋の超音波画像を測定することで臨床応用が可能であると思われる。しかし,安静背臥位における頸長筋の超音波画像に関する先行研究は散見されるが,頸長筋を収縮させた状態での報告は少ない。本研究では,安静時からCCFTの各負荷段階における頸長筋の変化を明らかにすることを目的とした。
【方法】
頸部の基礎疾患や外傷の既往のない健常成人24名(男性12名,女性12名,年齢21.5±2.0歳)を対象とし両側の頸部を測定した。測定肢位は膝関節を屈曲した背臥位とし,被験者の後頭下にスタビライザー(chattanooga社)を置き,圧が20mmHgになるように空気を入れ,これを開始肢位とした。この時,頭頸部が伸展位になる場合は,折ったタオルを後頭部に入れ,頭部がベッドと平行になるように調整した。スタビライザーのモニター部分は,下顎の直上でベッドから40cmの高さになるように固定した。鮮明な頸長筋画像が得られるとされる第6頸椎レベルで撮像するために,甲状軟骨底部より2cm下方をランドマークに頸部長軸に対して垂直にプローブ(5-10MHz,リニア型)を当て,超音波診断装置(sonosite社)を用いて頸長筋,胸鎖乳突筋をイメージングした。被験者に20mmHgから2mmHgずつ圧が増加するように頭頸部を屈曲してもらい,30mmHgまでの5段階を測定した。それぞれの負荷段階で10秒間保持し,10秒経過時の静止画を撮像し,各測定の間は30秒間の休息時間を設けた。得られた画像を画像解析ソフトImage Jを用いて,頸長筋筋厚(以下APD),筋幅(以下LD),断面積(以下CSA),胸鎖乳突筋(以下SCM)筋厚を測定した。これらの測定結果に対し,反復測定一元配置分散分析およびBonferroniの多重比較検定を行い,各負荷段階におけるデータを比較した。統計処理はSPSS statistics 20.0を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
左利きの被験者が3名含まれていたため,利き手側,非利き手側で比較した。頸長筋の安静時の各パラメータの平均値は,APD(利き手側:1.10±0.21cm,非利き手側:1.20±0.18cm),LD(利き手側:2.09±0.31cm,非利き手側:2.17±0.30cm),CSA(利き手側:1.68±0.51cm2,非利き手側:1.74±0.43cm2),SCM筋厚(利き手側:0.94±0.24,非利き手側:0.90±0.21)であった。CCFTの各負荷段階における変化は,利き手側では有意差はみられなかった。非利き手側ではCSAのみ有意な主効果が認められ,安静時と24mmHg(1.92±0.49),26mmHg(1.97±0.52),30mmHg(1.98±0.49)との間でそれぞれ増大していた。
【考察】
頸長筋は頸椎の前方を沿うように走行しており,両側性に収縮することで,頭頸部の屈曲が起こる。CCFT施行時に,非利き手側においてCSAの増加がみられたが,利き手側では変化はみられなかった。頸長筋は上肢の運動のフィードフォワード機構として活動することが報告されており,利き手側上肢の瞬発的な運動に対して,非利き手側の頸長筋が活動しやすいといった特性を持っている可能性がある。非利き手側では安静時と比較して,頸長筋が収縮しているか否かの判断は可能であると思われる。また,APDやLDに有意差がみられなかったにも関わらず,CSAが増大した。APD,LDは得られた画像から最長部分を選択して測定している。超音波画像では,頸長筋は三角形に近い形状をしており,最長の厚さや幅を変化させなくても,筋の収縮によりCSAを増大させていることが考えられる。歪な形状で画像が得られるため,APDよりもCSAを測定することで正確な評価が可能になると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
CCFTは臨床場面において正確性の判断が難しい。非侵襲でリアルタイムな観察が可能な超音波診断装置を用いて,頸長筋を収縮させた状態の変化をみることができたとともに,その特性を示したことは非常に意義深い。