第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述43

頚部・肩関節

2015年6月5日(金) 18:40 〜 19:40 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:高村隆(船橋整形外科病院 肩関節・肘関節センター 特任理学診療部)

[O-0327] 腱板大・広範囲断裂における術後修復良好群・再断裂群の比較

北坂彰彦1, 中川泰誉1, 井升聖滋1, 山崎重人1, 菊川和彦2 (1.マツダ株式会社マツダ病院リハビリテーション科, 2.マツダ株式会社マツダ病院整形外科)

キーワード:腱板断裂, 術後再断裂, Shoulder 36

【はじめに,目的】
鏡視下腱板修復術(arthroscopic rotator cuff repair:以下,ARCR)は良好な術後成績が報告されているが,一方で大断裂以上の断裂サイズが大きい症例では高い再断裂率が報告されている。しかし臨床現場では再断裂を来した症例においても成績良好例を多く経験する。ARCR後の修復良好群と再断裂群を比較した先行研究では,臨床成績に差はないとする報告や再断裂群の成績が劣るという報告があり統一した見解は得られていない。そこで今回,再断裂リスクが高いとされる腱板大・広範囲断裂患者において,ARCR後1年での修復良好群と再断裂群の臨床成績を比較検討したので報告する。
【方法】
2012年1月~2013年10月において,当院でARCRを施行した腱板断裂患者204例中,大・広範囲断裂は64例であった。そのうち術後1年で客観・主観評価を行えた27例を本研究の対象とした。術後1年でのMRI評価において,Sugaya分類TypeI~IIIを修復良好群,TypeIV・Vを再断裂群とし,2群間での比較検討を行った。術後評価において,客観評価には自動関節可動域(以下,ROM)と筋力を,主観評価には患者立脚肩関節評価法(以下,Shoulder 36)をそれぞれ用いた。筋力はMMTで評価した。測定項目は,ROMは屈曲・外転・下垂位外旋,筋力は外転・下垂位外旋とした。手術は肩関節専門医が施行し,一次修復可能なものにはsuture bridge法を,一次修復不能なものには大腿筋膜移植術を行った。統計学的解析は対応のないt検定を使用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】
対象27例のうち10例が術後1年でのMRI評価にて再断裂と診断された。再断裂率は37%であった。対象の年齢は修復良好群69.8±6.2歳,再断裂群67.7±9.6歳であり有意差はなかった。腱板修復良好群17例と再断裂群10例を客観・主観評価にて比較した。ROMの結果は,屈曲(修復良好群/再断裂群)164.1±7.8°/157±24.9°,外転158.5±11.4°/149±29.2°,下垂位外旋42.6±13.9°/46.5±18.4°であり両群間で有意差は認めなかった。筋力においても同様に有意差を認めなかった。一方,主観評価であるShoulder 36の疼痛・筋力・健康感領域において修復良好群が再断裂群と比べ有意に高い値を示した。各領域の平均値は,疼痛3.9±0.2点/3.6±0.6点,筋力3.8±0.3点/3.4±0.7点,健康感3.9±0.2点/3.6±0.5点であった。さらにこれらの領域を詳細に検討すると,疼痛領域では「拍手を10回する」「左右の手を前後に振って歩く」「傘を患側の手で開く」の3項目で,筋力領域では「タオルの両端をもって患側の手を上にして背中を洗う」「患側の手でバスや電車のつり革につかまる」の2項目で,健康感領域では「食事をする」「自宅近くでの買い物をする」の2項目で2群間に有意差を認めた。一方で「患側の手で頭より上の棚に皿を置く」「患側を下にして寝る」など困難なこととして訴えられやすい項目は,両群ともに減点項目として挙げられており有意差はなかった。
【考察】
本研究において,腱板大断裂以上のARCR後1年の客観評価では修復良好群と再断裂群に有意差は認めなかったが,主観評価では修復良好群が再断裂群より良好な成績を示した。その要因として,ROMや筋力の客観評価は単発的な結果を示していることが挙げられる。日常生活動作(以下,ADL)では同じ動作の反復や体幹などを含む複合動作が主であり,単発的な筋力などはADLに反映されにくく,今回の客観評価と主観評価の結果に矛盾が生じたと考える。一方でADLには筋持久力や腱板以外の機能も影響を与えていると考えられる。したがってARCR後再断裂症例に対しては,ADLを考慮した動作練習や運動指導がより重要となる可能性がある。今後は筋持久力やADL動作を客観的に評価し,運動指導の効果を検証する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
肩腱板大断裂以上のARCR後再断裂例では,腱板機能だけでなくADLを考慮した運動指導がより重要となる。