第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述43

頚部・肩関節

2015年6月5日(金) 18:40 〜 19:40 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:高村隆(船橋整形外科病院 肩関節・肘関節センター 特任理学診療部)

[O-0328] 腱板断裂例サイズの違いが術後の肩関節機能回復に及ぼす影響

雫田研輔, 高橋友明, 田島泰裕, 松葉友幸, 石垣範雄, 畑幸彦 (JA長野厚生連安曇総合病院肩関節治療センター)

キーワード:腱板断裂, 術後成績, 経時的変化

【目的】腱板断裂サイズが術後の肩関節機能回復に影響を及ぼすことはよく知られているが,具体的な経時的回復についての報告はわれわれが渉猟しえた範囲内ではほとんど無かった。今回,われわれは,断裂サイズの違いが術後12ヵ月までの肩関節機能回復に及ぼす影響について調査したので報告する。
【方法】対象は,腱板全層断裂に対してMcLaughlin法が施行されて12ヵ月以上経過した症例100例100肩とした。手術時年齢は平均63.5歳で,性別は男性41肩,女性39肩,手術側は右67肩,左33肩であった。対象を,断裂腱板の数によって,2腱以上の腱板断裂を認めた40肩(以下,M群)と,棘上筋腱の単独断裂の60肩(以下,S群)の2群に分類した。2群間で以下の項目について比較・検討した。①手術時年齢,②性別,③手術側,④他動的肩関節可動域(屈曲,外転,伸展,下垂位内外旋および外転位内外旋),⑤徒手筋力(屈曲,外転,伸展,下垂位外旋および下垂位内旋),⑥肩関節治療成績判定基準(以下,JOA score)。④と⑤および⑥については術前と術後3ヵ月,6ヵ月,9ヵ月および12ヵ月で評価し,この5回の測定毎の2群間の比較を行った。なお有意差検定は以下のように行った。①,④,⑤および⑥のM群とS群での比較にはMann-Whitney’s U testを用い,②と③についてはχ2検定を用い,危険率0.05未満を有意差ありとした。
【結果】患者特性として,M群はS群より男性と右側が有意に多かった。他動的肩関節可動域については,M群の屈曲はS群より,術前と術後3カ月で有意に小さかった。また,M群の下垂位外旋はS群より,術後6ヵ月,9ヵ月および12ヵ月で有意に小さかった。さらに,M群の外転位外旋はS群より,術前と術後3カ月で有意に小さく,M群の外転位内旋はS群より,すべての時期で有意に小さかった。徒手筋力については,M群の屈曲と外転および下垂位外旋筋力の筋力はS群より,すべての時期で有意に低下していた。
【考察】今回の結果の統計学的有意差を示した項目の中から,最終的に術後成績に影響を及ぼす因子を検証する。患者特性では,M群はS群より男性と右側が有意に多かったが,性別に関して,UCLAスコアは術後6ヵ月と1年で男性が有意に大きかったが,術後1.5年以降は男女間での差がなくなるという報告があり,最終的には術後成績に影響を及ぼさないことが分かった。また手術側に関しては,手術側が利き手か否かは術後成績に影響しないという報告があるため,これらの項目を除外した。残りの他動的肩関節可動域,徒手筋検査,およびJOA scoreの項目に関して,腱板修復時期について,断裂腱板を縫着してから腱板付着部が完成するまでに24週を要したという報告がある,これに基づいて腱板修復後6ヵ月以降に有意差を認めなかった他動的肩関節可動域の屈曲および外転位外旋は肩関節機能に影響を与える因子ではないと考えこれらを除外した。次に,腱板が付着する部位について,棘上筋は大結節上面の前内側に停止,棘下筋は大結節の広範囲に停止しているという望月らの報告に基づいて考えると,棘上筋と棘下筋がともに断裂しているM群が,棘上筋だけのS群より,屈曲と外転の筋力低下をきたすことは分かる。また,棘下筋は外旋筋群でもあるので,M群がS群より下垂位外旋の筋力低下をきたすことも分かる。さらに,修復時に後方腱板断端を大結節まで引き出す操作によって,後方腱板の緊張が高くなるので,外転位内旋の制限が生じたと推測した。これらの項目のうち,下垂位外旋の筋力低下が術後1年を通じて継続したために,術後6ヵ月以降に下垂位外旋の可動域制限が生じてきたと推測した。さらに,術後6ヵ月以降に生じたこの下垂位外旋の関節可動域制限が,術後9ヵ月以降のJOA scoreの総合点の低下の原因となったと考えた。
【理学療法学研究としての意義】2腱以上の腱板断裂手術例については,下垂位外旋筋力の低下及び下垂位外旋の関節可動域制限が残存する可能性が高いため,術後早期のみならず術後6ヵ月以降の理学療法を考慮する必要があると思われた。