[O-0330] 超音波画像で測定した慢性閉塞性肺疾患の横隔膜機能と睡眠時動脈血酸素飽和度の関係
Keywords:慢性閉塞性肺疾患, 超音波画像診断, 横隔膜
【目的】
慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)では,睡眠時の問題点として動脈血酸素飽和度(以下SaO2)が低下することがあげられる。睡眠時にSaO2が低下する主要な原因として分時換気量低下による肺胞低換気があり,特にREM睡眠時に多く起こる。REM睡眠時には呼吸補助筋を含めた骨格筋の筋緊張が低下し,換気は主に横隔膜によって担われている。しかし,睡眠中の臥位姿勢は横隔膜運動にとって不利な環境である上に,COPD患者は肺過膨張などが原因で横隔膜機能が低下している場合がある。その結果,睡眠中の換気量が低下しやすくなる。また,近年,横隔膜機能の評価で非侵襲的なものとして,超音波画像を用いた検討が様々行われている。本研究は,超音波画像を用いて測定される横隔膜機能とパルスオキシメーターを用いて測定される睡眠時の経皮的動脈血酸素飽和度(以下SpO2)の関係性を明らかにし,睡眠時低酸素状態をスクリーニングする一手段として横隔膜機能評価の有用性を検討することを目的とした。
【方法】
対象は,安定期COPD患者23名(年齢:74.2±7.2歳,%VC:97.8±15.4%,%FEV1:51.5±16.0%,PaO2:77.2±9.3mmHg,PaCO2:40.0±4.6mmHg)である。
横隔膜機能は超音波画像診断装置Noblus(日立アロカメディカル社製)を用いて測定した。測定肢位は仰臥位とし,プローブを右側中腋窩線から前腋窩線間の第8または9肋間(Zone of Apposition)の体表に置き,同部位において横隔膜筋厚(以下Tdi)をBモードで描出した。残気量位から全肺気量位のTdiの変化量を求め,残気量位のTdiを基準とした筋厚変化率(以下ΔTdi%)を算出し横隔膜機能とした。
睡眠時SpO2はパルスオキシメーターPULSOX-Me300(帝人社製)と加速度計Actiwatch2(フィリップスレスピロニクス社製)を用いて測定した。対象者に就床時刻および起床時刻を記載させ,その時間内における就寝時間をActiwatch2にて判定した。判定された就寝時間を睡眠時SpO2の解析時間とし,その時間内における平均SpO2(以下SpO2 mean),睡眠時SpO2が起床時の安静臥位最大値(以下SpO2 max)より4%以上低下した時間の割合(Total time with SpO2 dip exceed 4%:TE4%dip)および90%未満の時間の割合(Total time with SpO2 below 90%:TB90%)を測定した。
睡眠時SpO2各測定値と横隔膜機能および先行研究で関係性が多く報告されているPaO2の関係性を,Pearsonの積率相関係数にて検討した。また,睡眠時SpO2 meanに関する予測因子を重回帰分析(Stepwise法)にて検討した。
【結果】
対象の総就床時間は459.2±92.7分,Actiwatch2によって判定された総睡眠時間は414.3±97.5分であった。それぞれの測定値はΔTdi%が86.4±16.9%,SpO2 maxが96.3±0.9%,睡眠時SpO2 meanが93.5±1.7%,TB90%が2.3±2.5%,TE4%dipが9.5±7.9であった。ΔTdi%と各測定値間には,睡眠時SpO2 mean(r=0.677,p<0.001)と有意な正の相関,TE4%dip(r=-0.669,p<0.001)およびTB90%(r=-0.517,p<0.044)とは有意な負の相関がみられた。また,PaO2と各測定値間においても,睡眠時SpO2 mean(r=0.734,p<0.001)とは有意な正の相関,TE4%dip(r=-0.459,p<0.028)およびTB90%(r=-0.504,p<0.014)とは有意な負の相関がみられた。睡眠時SpO2 meanを目的変数とした重回帰分析の結果PaO2(β=0.521,p=0.003)とΔTdi%(β=0.399,p=0.019)が予測因子として抽出された。重相関係数は0.807,調整済み決定係数は0.617,推定値からの標準誤差は1.035であった。
【考察】
本研究の結果,超音波画像を用いて測定された横隔膜機能およびPaO2が高いほど,睡眠時SpO2平均値も高く,さらに睡眠時SpO2が低下する時間の割合も少ないという傾向がみられた。また,重回帰分析の結果,睡眠時SpO2の予測因子としてPaO2と横隔膜機能が抽出されたことから,超音波画像を用いて測定する横隔膜機能は睡眠時低酸素状態をスクリーニングする一要因となる可能性が示唆された。さらに,横隔膜機能を維持・向上することによって,睡眠時SpO2の低下を防げる可能性も考えられ,今後の検討課題であると考える。
【理学療法研究としての意義】
従来からCOPDの横隔膜機能は低下するといわれるが,その機能の維持・向上は睡眠時SpO2低下の予防・改善にも寄与する可能性が示唆された。また,超音波画像診断は非侵襲的で身体的負担も少なく,横隔膜機能評価を行う上で有用な手段であると考える。
慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)では,睡眠時の問題点として動脈血酸素飽和度(以下SaO2)が低下することがあげられる。睡眠時にSaO2が低下する主要な原因として分時換気量低下による肺胞低換気があり,特にREM睡眠時に多く起こる。REM睡眠時には呼吸補助筋を含めた骨格筋の筋緊張が低下し,換気は主に横隔膜によって担われている。しかし,睡眠中の臥位姿勢は横隔膜運動にとって不利な環境である上に,COPD患者は肺過膨張などが原因で横隔膜機能が低下している場合がある。その結果,睡眠中の換気量が低下しやすくなる。また,近年,横隔膜機能の評価で非侵襲的なものとして,超音波画像を用いた検討が様々行われている。本研究は,超音波画像を用いて測定される横隔膜機能とパルスオキシメーターを用いて測定される睡眠時の経皮的動脈血酸素飽和度(以下SpO2)の関係性を明らかにし,睡眠時低酸素状態をスクリーニングする一手段として横隔膜機能評価の有用性を検討することを目的とした。
【方法】
対象は,安定期COPD患者23名(年齢:74.2±7.2歳,%VC:97.8±15.4%,%FEV1:51.5±16.0%,PaO2:77.2±9.3mmHg,PaCO2:40.0±4.6mmHg)である。
横隔膜機能は超音波画像診断装置Noblus(日立アロカメディカル社製)を用いて測定した。測定肢位は仰臥位とし,プローブを右側中腋窩線から前腋窩線間の第8または9肋間(Zone of Apposition)の体表に置き,同部位において横隔膜筋厚(以下Tdi)をBモードで描出した。残気量位から全肺気量位のTdiの変化量を求め,残気量位のTdiを基準とした筋厚変化率(以下ΔTdi%)を算出し横隔膜機能とした。
睡眠時SpO2はパルスオキシメーターPULSOX-Me300(帝人社製)と加速度計Actiwatch2(フィリップスレスピロニクス社製)を用いて測定した。対象者に就床時刻および起床時刻を記載させ,その時間内における就寝時間をActiwatch2にて判定した。判定された就寝時間を睡眠時SpO2の解析時間とし,その時間内における平均SpO2(以下SpO2 mean),睡眠時SpO2が起床時の安静臥位最大値(以下SpO2 max)より4%以上低下した時間の割合(Total time with SpO2 dip exceed 4%:TE4%dip)および90%未満の時間の割合(Total time with SpO2 below 90%:TB90%)を測定した。
睡眠時SpO2各測定値と横隔膜機能および先行研究で関係性が多く報告されているPaO2の関係性を,Pearsonの積率相関係数にて検討した。また,睡眠時SpO2 meanに関する予測因子を重回帰分析(Stepwise法)にて検討した。
【結果】
対象の総就床時間は459.2±92.7分,Actiwatch2によって判定された総睡眠時間は414.3±97.5分であった。それぞれの測定値はΔTdi%が86.4±16.9%,SpO2 maxが96.3±0.9%,睡眠時SpO2 meanが93.5±1.7%,TB90%が2.3±2.5%,TE4%dipが9.5±7.9であった。ΔTdi%と各測定値間には,睡眠時SpO2 mean(r=0.677,p<0.001)と有意な正の相関,TE4%dip(r=-0.669,p<0.001)およびTB90%(r=-0.517,p<0.044)とは有意な負の相関がみられた。また,PaO2と各測定値間においても,睡眠時SpO2 mean(r=0.734,p<0.001)とは有意な正の相関,TE4%dip(r=-0.459,p<0.028)およびTB90%(r=-0.504,p<0.014)とは有意な負の相関がみられた。睡眠時SpO2 meanを目的変数とした重回帰分析の結果PaO2(β=0.521,p=0.003)とΔTdi%(β=0.399,p=0.019)が予測因子として抽出された。重相関係数は0.807,調整済み決定係数は0.617,推定値からの標準誤差は1.035であった。
【考察】
本研究の結果,超音波画像を用いて測定された横隔膜機能およびPaO2が高いほど,睡眠時SpO2平均値も高く,さらに睡眠時SpO2が低下する時間の割合も少ないという傾向がみられた。また,重回帰分析の結果,睡眠時SpO2の予測因子としてPaO2と横隔膜機能が抽出されたことから,超音波画像を用いて測定する横隔膜機能は睡眠時低酸素状態をスクリーニングする一要因となる可能性が示唆された。さらに,横隔膜機能を維持・向上することによって,睡眠時SpO2の低下を防げる可能性も考えられ,今後の検討課題であると考える。
【理学療法研究としての意義】
従来からCOPDの横隔膜機能は低下するといわれるが,その機能の維持・向上は睡眠時SpO2低下の予防・改善にも寄与する可能性が示唆された。また,超音波画像診断は非侵襲的で身体的負担も少なく,横隔膜機能評価を行う上で有用な手段であると考える。