第50回日本理学療法学術大会

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口述

セレクション 口述7

呼吸

Sat. Jun 6, 2015 8:15 AM - 9:15 AM 第6会場 (ホールD7)

座長:小川智也(公立陶生病院 中央リハビリテーション部), 田平一行(畿央大学)

[O-0331] 慢性呼吸不全患者の運動機能推移パターンに基づく長期経過の分析

山中悠紀1, 宮坂智哉2, 奥野裕佳子3, 鏑木武4, 石井禎基1, 石川朗5 (1.姫路獨協大学医療保健学部, 2.北海道科学大学保健医療学部, 3.茨城県立医療大学保健医療学部, 4.長野市民病院リハビリテーション科, 5.神戸大学大学院保健学研究科)

Keywords:慢性呼吸不全患者, 運動機能, 長期経過

【目的】慢性呼吸不全患者の機能状態を改善するうえでリハビリテーションは有用な手段であり,先行研究では運動療法を中心とした包括的プログラムによる呼吸困難の軽減,運動能力の向上,健康関連QOLの改善などが報告されている。ただ,これらプログラムによって改善した機能を維持し,廃用性の機能低下を起こさせないためには在宅でのプログラム継続を支援する仕組みが重要となる。我々は基幹病院での2週間の短期入院リハビリテーションに退院後の在宅および外来での継続支援を組み合わせたリハビリテーションプログラムを提供しその効果を報告してきた。ただ,長期経過のなかで個々の患者が示す反応は様々であり,十分な効果を認めない症例も一部に認められる。そのため,機能状態の上昇もしくは下降のトレンドを捉えて分析することができれば患者の経過にあわせた対処への有益な情報となる可能性が高いと考える。本研究では同リハビリテーションプログラムを導入し2年間の経過観察が可能であった慢性呼吸不全患者を対象として運動機能の反応パターンを単調性のみを仮定した傾向性検定統計量を用いた推移プロファイルの類似性によって分類することでリハビリテーションによる運動機能の長期経過を捉えてその傾向を分析することを目的とした。
【方法】2004年7月から2012年6月に2週間の入院リハビリテーション後に在宅および外来での継続支援を行った慢性呼吸不全患者33例(慢性閉塞性肺疾患21例,肺結核後遺症11例,間質性肺炎1例)を対象として,プログラム開始時から2年間の半年毎の測定データを後方視的に分析した。2週間の入院リハビリテーションプログラムは多職種が参加した包括的な内容で患者教育,服薬・栄養指導,運動療法を中心とした呼吸理学療法などをクリティカルパスに沿って実施した。退院後は訪問看護ステーションが中心となって在宅でのプログラム継続を支援するとともに外来で理学療法士がプログラム実施状況の確認や追加指導などを行い,プログラム継続による機能状態への影響を評価するためスパイロメトリー,6分間歩行試験,疾患特異的および包括的尺度による健康関連QOL調査を半年毎に実施した。経時測定データの解析にはHirotsuの方法(Biometrika 1991)を用い,データを被験者数(n)と測定時期の2元表とみなして被験者間の応答パターンを基準化後の二乗和統計量(累積Χ2統計量)として算出し,交互作用の多重比較によって推移パターンの似通った被験者の分類を試みた。群分けの手順は先行研究に従ってクラスター分析のWard法を用い,得られた群分けの有意性は2乗距離の最大値の分布を累積Χ2統計量と逆特性を持つように構成した統計量で除すことで評価した。得られた群間の背景データおよび経時データの比較にはIBM SPSS statistics 21.0を使用し,Bonferroni法による多重比較検定を行った。有意水準はp<0.05に設定した。
【結果】群数(N)による有意確率はN=2(p=0.25),N=3(p=0.10),N=4(p<0.01)であった。本研究の分類手順ではなるべく少ないパラメータによる処理の特徴づけを試みたものであり,群数がN=3から4にかけて有意確率の著明な減少がみられたことから4群への群分けが合理的であると思われた。4群のプロファイルは軽度改善(n=8),改善(n=10),軽度低下(n=8),低下(n=7)傾向を示めすものと解釈された。4群間でプログラム開始時の背景データおよび経時測定データに有意差はなくプログラム開始時のデータから長期経過予測につながる可能性のある特徴は示されなかったが,プログラム開始時と6か月後の6分間歩行距離の変化に低下群とその他3群の間に有意差が認められた。
【考察】先行研究ではCOPD患者を中心として入院および外来でのリハビリテーション実施後の在宅での維持プログラムによって1年半におよぶ運動能力や健康関連QOLの改善が報告されている。ただ,それらの効果は徐々に減衰し2年後には対照群と有意差がなくなることが指摘されているが,本研究によって運動機能の2年間の推移プロファイルの類似度によって慢性呼吸不全患者のリハビリテーションに対する反応パターンの違いを捉えられる可能性が示され,低下群における6か月後の運動機能の低下が特徴的であった。
【理学療法学研究としての意義】慢性呼吸不全患者の運動機能推移パターンに基づく長期経過の分析の可能性を示した本研究結果は在宅呼吸リハビリテーションの発展に資する意義がある。