[O-0332] 肺炎患者の摂食開始時および退院時嚥下筋活動の特徴
~表面筋電図による比較~
キーワード:表面筋電図, 肺炎患者, 嚥下筋
【はじめに,目的】
肺炎は日本人の死亡原因の第4位であり高齢化社会が進行する昨今,今後さらに増加する可能性が考えられる。また高齢者では肺炎罹患者のうち70%が誤嚥によるものであり誤嚥性肺炎に罹患する確率が高い。当院リハビリテーション科でも肺炎患者に対し積極的にリハビリ介入をしているが,その中で嚥下障害を伴い問題とされている患者がしばしば見られる。さらに脳卒中患者や健常高齢者・若年者の嚥下時の筋活動や特徴を表面筋電図(Surface Electromyogram,以下sEMG)・針筋電図で明らかにした報告は散見されるが,肺炎患者を対象とした報告は渉猟した範囲ではなかった。
そこで今回,筋活動を非侵襲的かつ簡易に測定することのできる表面筋電図計を用い,肺炎患者嚥下時の嚥下筋の筋活動時間や筋活動量の特徴を明らかにした。
【方法】
対象は2014年4月~2015年10月の期間中,当院へ肺炎または誤嚥性肺炎の診断にて入院した20名(男性:8名,女性12名:年齢:84.25±9.24歳)。また,基礎疾患に中枢神経障害のあるもの,明らかに間質性肺炎や細菌性肺炎,その他肺炎,誤嚥性肺炎以外の診断がついた者は除いた。
測定課題は,sEMGの記録に表面筋電図計(KISSEICOMTEC株式会社:ワイヤレス筋電図計MQ-Air)を用い舌骨上筋群である顎二腹筋前腹・顎舌骨筋,舌骨下筋群である胸骨舌骨筋・甲状舌骨筋の4つの筋に記録用電極を貼付した。被験者の姿勢はG-up80°位で頸部正中位・体幹垂直位にポジショニングをとり,ゼリーを嚥下させた。なおゼリーは嚥下初期食と同等の粘 度(硬さ700N/m2,付着性300J/m3,常温)である物を用いた。この時のサンプリング周波数は1000Hzとしデジタル・アナログ変換した後,パーソナルコンピューターに取り込んだ。その他評価項目に関して患者特性として年齢,性別,CRP値とし表面筋電図検査とともに摂食開始時および退院時に評価した。
sEMGで得られた嚥下時の記録は解析ソフト(Kine Analyzer)にて波形解析を行った。記録した嚥下時のsEMGは全波整流化し整流波を求めたのち数値計算パレットを使用し筋積分値(iEMG:mV・sec)を算出した。この際嚥下以外の波形は使用しないようにするため安静時振幅を基線とし,嚥下振幅が安静時基線以上に超えた点を嚥下開始時,安静時基線まで戻った点を嚥下終了時とした。得られた摂食開始時と退院時のデータを嚥下持続時間および嚥下筋ごとに有意差検定を行った。なお統計学的解析は対応のあるT-検定を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
摂食開始時および退院時のCRP値は有意差に改善を認めた(P<0.05,r=0.037)。時間成分である嚥下持続時間においては摂食開始時と退院時の間に有意差に低下を認めた(P<0.05,r=0.031)。筋活動量成分である筋積分値においては舌骨上筋群である顎二腹筋前腹(P<0.05,r=0.038)と顎舌骨筋(P<0.05,r=0.002)でともに有意差を低下認めた。舌骨下筋群の1つである甲状舌骨筋で有意差に低下を認めた(P<0.05,r=0.038)。胸骨舌骨筋は有意差を認めなかったが摂食開始時の筋積分値よりも退院時の筋積分値の方が減少する傾向にあった(P<0.05,r=0.11)。
【考察】
嚥下持続時間に関して高齢者は若年者と比較し嚥下持続時間が延長しており誤嚥のリスクが高いと推察されている。今回の結果をふまえると嚥下持続時間の短縮は嚥下機能が改善した1要因であると考えられ,退院時の嚥下筋活動の短縮は迅速な物質の送り込みに重要であるとともに誤嚥の再発予防にも重要であると考えられる。また健常者を対象に嚥下時には喉頭が前上方に移動することを確認していることや,加齢に伴い甲状軟骨の移動距離が有意に増大することを示している先行研究もある。これらから今回は高齢者の喉頭の偏移の影響も考えられ摂食開始時では嚥下持続時間が延長していたのではと考えることも出来る。嚥下時積分値に関して,健常者を対象とし舌骨下筋群の筋活動増大は嚥下困難感を増強させることを検討した先行研究がある。今回の結果から,舌骨下筋群だけでなく舌骨上筋群の筋活動増大も嚥下機能低下を反映するとこが考えられる。よって肺炎患者の嚥下機能に関して,摂食開始時は低下しており退院時には改善していることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
肺炎患者の摂食状況は栄養状態や身体機能に密接に関係しており呼吸理学療法を実施していく上で嚥下筋活動改善に着目した理学療法も誤嚥再発予防には重要と考えられた。
肺炎は日本人の死亡原因の第4位であり高齢化社会が進行する昨今,今後さらに増加する可能性が考えられる。また高齢者では肺炎罹患者のうち70%が誤嚥によるものであり誤嚥性肺炎に罹患する確率が高い。当院リハビリテーション科でも肺炎患者に対し積極的にリハビリ介入をしているが,その中で嚥下障害を伴い問題とされている患者がしばしば見られる。さらに脳卒中患者や健常高齢者・若年者の嚥下時の筋活動や特徴を表面筋電図(Surface Electromyogram,以下sEMG)・針筋電図で明らかにした報告は散見されるが,肺炎患者を対象とした報告は渉猟した範囲ではなかった。
そこで今回,筋活動を非侵襲的かつ簡易に測定することのできる表面筋電図計を用い,肺炎患者嚥下時の嚥下筋の筋活動時間や筋活動量の特徴を明らかにした。
【方法】
対象は2014年4月~2015年10月の期間中,当院へ肺炎または誤嚥性肺炎の診断にて入院した20名(男性:8名,女性12名:年齢:84.25±9.24歳)。また,基礎疾患に中枢神経障害のあるもの,明らかに間質性肺炎や細菌性肺炎,その他肺炎,誤嚥性肺炎以外の診断がついた者は除いた。
測定課題は,sEMGの記録に表面筋電図計(KISSEICOMTEC株式会社:ワイヤレス筋電図計MQ-Air)を用い舌骨上筋群である顎二腹筋前腹・顎舌骨筋,舌骨下筋群である胸骨舌骨筋・甲状舌骨筋の4つの筋に記録用電極を貼付した。被験者の姿勢はG-up80°位で頸部正中位・体幹垂直位にポジショニングをとり,ゼリーを嚥下させた。なおゼリーは嚥下初期食と同等の粘
sEMGで得られた嚥下時の記録は解析ソフト(Kine Analyzer)にて波形解析を行った。記録した嚥下時のsEMGは全波整流化し整流波を求めたのち数値計算パレットを使用し筋積分値(iEMG:mV・sec)を算出した。この際嚥下以外の波形は使用しないようにするため安静時振幅を基線とし,嚥下振幅が安静時基線以上に超えた点を嚥下開始時,安静時基線まで戻った点を嚥下終了時とした。得られた摂食開始時と退院時のデータを嚥下持続時間および嚥下筋ごとに有意差検定を行った。なお統計学的解析は対応のあるT-検定を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
摂食開始時および退院時のCRP値は有意差に改善を認めた(P<0.05,r=0.037)。時間成分である嚥下持続時間においては摂食開始時と退院時の間に有意差に低下を認めた(P<0.05,r=0.031)。筋活動量成分である筋積分値においては舌骨上筋群である顎二腹筋前腹(P<0.05,r=0.038)と顎舌骨筋(P<0.05,r=0.002)でともに有意差を低下認めた。舌骨下筋群の1つである甲状舌骨筋で有意差に低下を認めた(P<0.05,r=0.038)。胸骨舌骨筋は有意差を認めなかったが摂食開始時の筋積分値よりも退院時の筋積分値の方が減少する傾向にあった(P<0.05,r=0.11)。
【考察】
嚥下持続時間に関して高齢者は若年者と比較し嚥下持続時間が延長しており誤嚥のリスクが高いと推察されている。今回の結果をふまえると嚥下持続時間の短縮は嚥下機能が改善した1要因であると考えられ,退院時の嚥下筋活動の短縮は迅速な物質の送り込みに重要であるとともに誤嚥の再発予防にも重要であると考えられる。また健常者を対象に嚥下時には喉頭が前上方に移動することを確認していることや,加齢に伴い甲状軟骨の移動距離が有意に増大することを示している先行研究もある。これらから今回は高齢者の喉頭の偏移の影響も考えられ摂食開始時では嚥下持続時間が延長していたのではと考えることも出来る。嚥下時積分値に関して,健常者を対象とし舌骨下筋群の筋活動増大は嚥下困難感を増強させることを検討した先行研究がある。今回の結果から,舌骨下筋群だけでなく舌骨上筋群の筋活動増大も嚥下機能低下を反映するとこが考えられる。よって肺炎患者の嚥下機能に関して,摂食開始時は低下しており退院時には改善していることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
肺炎患者の摂食状況は栄養状態や身体機能に密接に関係しており呼吸理学療法を実施していく上で嚥下筋活動改善に着目した理学療法も誤嚥再発予防には重要と考えられた。