第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述44

脳損傷理学療法6

Sat. Jun 6, 2015 8:15 AM - 9:15 AM 第7会場 (ホールD5)

座長:平山昌男(兵庫県社会福祉事業団あわじ荘)

[O-0333] 脳卒中片麻痺者における歩行中の足圧中心軌跡と下肢機能との関係

中野克己 (埼玉県総合リハビリテーションセンター)

Keywords:脳卒中, 歩行, 足圧中心

【目的】
人間は,身体重心とそれを床面で支える足圧中心(center of pressure:以下COP)との相互の位置関係により,身体の安定と不安定を繰り返しながら歩行を行っている(2000,江原)。これまでCOP軌跡は,装具や歩行器など治療の効果判定において使用され,視覚による観察では評価が困難な歩行の変化を鋭敏に捉えることから,その有用性が報告されている(2004,河辺:2006,梶川)。しかし,多くが治療介入前後の差を扱った症例報告であり,得られたCOP軌跡そのものが何を意味するのかについては明らかにされていない。そこで本研究では,COP軌跡を歩行の評価手段として活用していく上で,COP軌跡と下肢機能との関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】
2013年9月から2014年9月までA病院に入院し,平地歩行が監視以上で可能な脳卒中片麻痺者43例(男性32例,女性11例,平均年齢49.2±11.8歳,右片麻痺22例,左片麻痺21例,Brunnstrom Stage(以下BS)III14例,IV17例,V6例,VI6例)に対して,入院期間中に測定した64例を対象とした。歩行解析にはT&T medilogic社製リアルタイム足圧分布計測システムを使用した。歩行時の足圧分布を左右独立して連続記録した後,両足全体にかかるCOP軌跡を求めた。計測は,十分な歩行練習を実施した後,10mをランダムに左右8歩ずつ抽出した。
1.COP軌跡の分類と下肢機能との関係
測定されたCOP軌跡を類似パターン毎に分類した。次に,下肢機能をBSIIIIV群,VVI群の2群に分け,分類されたCOP軌跡の蝶型,三角型との間でクロス集計表を作成しχ2検定を行った。
2.COP軌跡の交差点座標と下肢機能との関係
1.で分類されたCOP軌跡の蝶型と三角型を対象に,左右へのCOP軌跡が交差する点に着目して,両足の中心点を原点,前後左右幅を各100とし,左右±50,前後±50からなる座標(X,Y)を求めた。なお,X座標は麻痺側を正とするために左片麻痺者は,正負を逆に変換した。次に,X座標とY座標との関係をピアソンの積率相関係数を用いて調べ,さらに各X,Yの値に対してBSIIIIV群,VVI群の2群間において,対応のないt検定による比較を行った。
3.COP軌跡のばらつきと下肢機能との関係
1.で分類されたCOP軌跡の蝶型と三角型を対象に,各歩行周期におけるCOP軌跡のばらつきを観察し,各COP軌跡が足長の5%未満の範囲で納まっていた例をばらつきなし群,5パーセント以上をばらつきあり群とした。さらにBSIIIIV群,VVI群とばらつきなし群,ばらつきあり群との間でクロス集計表を作成しχ2検定を行った。
なお,1.から3.の有意水準はすべて5%とした。
【結果】
1.COP軌跡の分類と下肢機能との関係
両足にかかるCOP軌跡は,蝶型34例,麻痺側の足1点と非麻痺側足2点からなる三角型16例,どちらにも属さない不定型4例の3つに分類された。BSIIIIV群,VVI群とCOP軌跡の蝶型,三角型との間には有意差が認められ(P<0.01),蝶型はBSVVI群に多くみられた。
2.COP軌跡の交差点座標と下肢機能との関係
COP軌跡の座標(X,Y)は,(14.1±12.0,3.6±7.6)であった。X座標とY座標との相関係数は0.34であった(P<0.01)。BSVVI群はIIIIV群よりもX値(p<0.01),Y値(p<0.05)ともに低値を示した。
3.COP軌跡のばらつきと下肢機能との関係
ばらつきなし群は20例,ばらつきあり群は40例であった。BSIIIIV群,VVI群とばらつきなし群,ばらつきあり群との間には有意差が認められ(P<0.01),ばらつきなし群はBSVVI群に多くみられた。
【考察】
今回の結果から,脳卒中片麻痺者の歩行中のCOP軌跡は3つに分類され,特に下肢機能が高いと蝶型のCOP軌跡を描く傾向があり,左右のリズミカルな歩行に近づくことが示唆された。また,下肢機能が高い方がCOP軌跡の交差点座標であるX座標,Y座標ともに低い値を示し,より身体の中心で平衡を保っていることが推察された。X座標とY座標との相関係数は0.34と低く,COP軌跡の左右への偏倚と前後への偏倚は,原因を分けて考える必要が示唆された。これは脳卒中片麻痺者の麻痺側重心移動能力と歩行速度との相関は低いとする久保田(2006)の報告とも一致する。なお,各歩行周期におけるCOP軌跡のばらつきは,下肢機能が高いほど少なく,歩行の安定性を評価する一指標になるものと思われる。
【理学療法学研究としての意義】
歩行中のCOP軌跡は,歩行の安定性や推進性に直接影響を与える因子であり,下肢機能との関係を踏まえ,COP軌跡の特徴を的確に評価することは,今後,歩行速度や耐久性などのより実用性の高い目標を立てる上で有用な指標になると思われる。