第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述44

脳損傷理学療法6

Sat. Jun 6, 2015 8:15 AM - 9:15 AM 第7会場 (ホールD5)

座長:平山昌男(兵庫県社会福祉事業団あわじ荘)

[O-0336] 脳血管障害片麻痺患者におけるステップ肢位での重心移動と歩行自立度の関係

鳥居和雄, 加辺憲人, 藤井茜, 橋本祥行, 三浦創, 戸田伸 (医療法人輝生会船橋市立リハビリテーション病院)

Keywords:脳血管障害片麻痺患者, ステップ肢位, 歩行自立度

【はじめに,目的】
脳血管障害片麻痺患者(以下,CVD患者)のバランス評価としてFunctional Reach test(以下,FR)やBerg Balance scale(以下,BBS)が広く使用されている。FRは簡便かつ短時間での測定が可能で,支持基底面は変えず一方向への重心移動能力を評価しており,BBSは支持基底面が変わらない静的なバランス評価と支持基底面が変化する動的なバランス評価を実施することで包括的なバランス能力を評価していると考えられる。当院におけるCVD患者の歩行自立の判断は,FRやBBSなどのバランス評価指標に加え,実歩行場面の観察をもとに担当理学療法士が行なっている。その際,FRやBBSの値が良くても歩行が自立できない症例を経験することがあり,両評価に加え歩行時の課題を想定しやすいバランス評価の開発が必要と考えた。そこで,今回は歩行動作の中の両脚支持期を想定できるステップ肢位での,動的バランス能力評価を考え,初発CVD患者を対象に評価し,その意義や傾向について検討を行ったので報告する。
【方法】
対象は当院に入院した初発CVD患者7名(男性5名:女性2名,平均年齢72±6歳)。診断名は脳梗塞5名:脳出血2名,麻痺側は右3名:左4名,発症後日数116日±51日。下肢Brunnstrom stageはIIIが1名,IVが4名,Vが2名。また静止立位保持ならび評価方法の理解が可能,触れる程度の介助以上の能力で歩行が可能な者とした。ステップ肢位でのバランス評価として,3つのステップ課題を考案。Test①:足を肩幅程度に開いた立位姿勢から対象者自身のタイミングで,支持脚よりも前方にステップ,5秒間保持した後に元の位置に戻す課題を麻痺側・非麻痺側からの両方実施。Test②:後方に麻痺側,前方に非麻痺側下肢となるようにステップ肢位をとり,その場で非麻痺側下肢の足関節背屈運動を10回と5秒間の背屈位保持実施中の姿勢保持。Test③:前方に麻痺側,後方に非麻痺側下肢となるようにステップ肢位をとり,その場で非麻痺側下肢の足関節底屈運動を10回と5秒間の底屈位保持実施中の姿勢保持。測定方法としてTest①~③の全てを麻痺側側方と前方から動画を撮影し,臨床経験5年目以上の理学療法士5名で実施中のバランス能力を以下のように評価。安全に実施可能を4レベル,自制内のふらつきありを3レベル,ふらつきがあり見守りが外せないを2レベル,自制外のふらつきがあり介助を要するを1レベル,実施困難を0レベルと採点し,それぞれの実施能力を平均し値を算出(検者間信頼性はICC:0.88)。また全例でBBSの測定値ならびに評価時点での生活場面の歩行自立度を確認し,算出された平均値と比較を行なった。
【結果】
Test①において麻痺側・非麻痺側からのステップともに採点が1レベル以下の者は1名でBBSは27点,生活場面での歩行は介助を必要としていた。またTest①の非麻痺側からのステップが2レベル以下の者は1名でBBSは52点だが,生活場面での歩行は見守りを必要としていた。Test②・③のどちらか一方でも3レベル未満の者は3名で,杖または装具などの歩行補助具を使用すれば歩行自立可能となっておりBBSは22点・49点・48点とばらつきがあった。Test①~③全てが3レベル以上で実施可能な者は2名で,共に生活場面ではフリーハンド歩行自立となっておりBBSも52点・53点と高かった。
【考察】
本研究の結果から,対象者数が少なく統計処理は行えなかったものの,今回考案したステップ肢位でのバランス能力が高い者は,生活場面での歩行自立度も高い傾向にあった。また,BBSが高値でもステップ肢位でのバランス能力が不良な者は,生活場面の歩行自立度も低い傾向にあった。草野ら(2001)は足部の動きを含めたステップ肢位における重心移動能力について,健常高齢者よりもCVD患者で有意に低かったと報告している。このことからCVD患者では支持基底面が変化する条件下で重心移動を制御する動的バランスが困難であり,そのバランス能力が連続的に要求される歩行場面の自立度に影響すると考える。
【理学療法学研究としての意義】
CVD患者における歩行の自立は重要な目標であり課題である。今後は包括的なバランス評価だけではなく,歩行に特化したバランス評価を追加し実施することで歩行自立判定の精度が高められると考える。今回実施したバランス評価は,より歩行場面を想定した評価と考える。症例数を増やし信頼性や客観性,妥当性を検証していくと同時に,評価実施中の麻痺側下肢への荷重率や動作戦略の評価を加えたより良い評価方法の検討,自主トレーニングへの応用も考えていきたい。