[O-0338] 三次元トレッドミル歩行分析による異常歩行の定量的評価―外旋歩行と非麻痺側への体幹の過度な側方移動―
Keywords:脳卒中, 歩行分析, トレッドミル
【はじめに,目的】
リハビリテーション医療において,歩行分析は歩行障害の重症度診断,治療方針の決定,治療の効果判定を行ううえで重要である。現在,臨床における主な歩行分析方法は視診である。しかし,視診による歩行分析は主観的であり,評価基準が順序尺度であるため信頼性は低い。我々は,臨床で三次元動作分析装置を用いて定量的な歩行分析をするため,トレッドミル歩行分析を行っている。これまでに分回し歩行をはじめとする脳卒中片麻痺患者に特徴的な8種類の異常歩行の定量的評価を試み,その臨床的有用性を報告した。今回は新たに外旋歩行と非麻痺側への体幹の過度な側方移動の重症度を示す指標を作成し,その妥当性を検討した。
【方法】
対象は,健常者44名(60.0±6.0歳)と片麻痺患者50名とした。対象の身体の計12カ所にマーカを貼付け,三次元動作分析装置KinemaTracer®(キッセイコムテック株式会社)を用いて4台のCCDカメラを同期させ,トレッドミル歩行を60Hzで20秒間記録した。トレッドミル速度は,健常者が5.0km/h,片麻痺患者は平地快適歩行速度またはその70%とし,片麻痺患者には必要に応じて手すりと装具の使用を許可した。外旋歩行の指標は,麻痺側遊脚期における足関節マーカのX座標(側方成分)と第5中足骨骨頭マーカのX座標の差の平均値を,安静立位時の両マーカ間距離で除した値とした。非麻痺側への体幹の過度な側方移動の指標は,麻痺側後の両脚支持期~麻痺側遊脚期における,両側肩関節マーカの中点の最外側X座標と,麻痺側後の両脚支持期における両側足関節マーカの中点のX座標の平均値との差とした。片麻痺患者において,各歩行周期で異常歩行の出現頻度および程度のばらつきが大きいと考えられるため,1歩毎に指標値を算出し,その上位1/3の平均値を各対象の指標値として採用した。また,健常者の指標値の平均値±標準偏差×2を正常範囲とした。指標値の妥当性を検討するため,算出した指標値と視診による重症度判定結果を,Spearman順位相関係数を用いて比較した。視診による歩行分析は,理学療法士3名(臨床経験年数13.3±1.2年)を評価者とし,各異常歩行の定義を示して観察時期と現象の統一を図った後,片麻痺患者のトレッドミル歩行のビデオ画像を観察させ,異常歩行の重症度を5段階で判定させた。
【結果】
視診で異常と判定された対象の指標値は,健常者の正常範囲外に概ね存在した。また,3名の評価者の視診による重症度判定結果の中央値と指標値のSpearman順位相関係数は,外旋歩行がrs=-0.56(p<0.01),非麻痺側への体幹の過度な側方移動がrs=-0.74(p<0.01)であった。
【考察】
三次元トレッドミル歩行分析により,片麻痺患者に特徴的な異常歩行パターンである外旋歩行と非麻痺側への体幹の過度な側方移動の重症度を示す指標を作成し,その妥当性を検討した。作成した指標の妥当性を検討する場合,標準化された信頼性の高い基準と比較する必要があるが,臨床では視診による歩行分析が主流であり,また視診による歩行分析方法は標準化されていない。そこで今回,臨床経験年数が高く歩行分析に成熟した理学療法士が視診により評価した歩行分析結果と指標値を比較し,両者が概ね一致することで,作成した指標が臨床での有用性が高い指標となり得ると考えた。視診で異常と判定された対象の指標値は,正常範囲外に概ね存在し,視診による重症度判定結果の中央値と指標値の比較において有意な高い相関を認めたことより,今回作成した指標は臨床での有用性が高い指標であると考えた。本研究により,計10種類の異常歩行パターンの重症度の判定が一度の計測で可能となった。これらの指標は,明確な判断基準としても活用できるため,視診による歩行分析の精度向上にも役立つと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
現在,標準化された歩行分析方法はない。三次元動作分析装置による歩行分析は客観的であり信頼性が高いが,経済的・空間的・時間的コストの面から臨床応用されておらず,臨床では信頼性が低い視診による歩行分析が主流である。我々は信頼性が高い三次元動作分析を臨床で実施するため,三次元トレッドミル歩行分析を行っている。本研究では,一般的な機器による歩行分析で得られる時間・距離因子に加え,脳卒中片麻痺患者に特徴的な異常歩行の重症度を表す指標を作成した。これにより,一度の計測で計10種類の異常歩行パターンの重症度を判定することができ,治療への示唆や治療の効果判定につながると考えている。
リハビリテーション医療において,歩行分析は歩行障害の重症度診断,治療方針の決定,治療の効果判定を行ううえで重要である。現在,臨床における主な歩行分析方法は視診である。しかし,視診による歩行分析は主観的であり,評価基準が順序尺度であるため信頼性は低い。我々は,臨床で三次元動作分析装置を用いて定量的な歩行分析をするため,トレッドミル歩行分析を行っている。これまでに分回し歩行をはじめとする脳卒中片麻痺患者に特徴的な8種類の異常歩行の定量的評価を試み,その臨床的有用性を報告した。今回は新たに外旋歩行と非麻痺側への体幹の過度な側方移動の重症度を示す指標を作成し,その妥当性を検討した。
【方法】
対象は,健常者44名(60.0±6.0歳)と片麻痺患者50名とした。対象の身体の計12カ所にマーカを貼付け,三次元動作分析装置KinemaTracer®(キッセイコムテック株式会社)を用いて4台のCCDカメラを同期させ,トレッドミル歩行を60Hzで20秒間記録した。トレッドミル速度は,健常者が5.0km/h,片麻痺患者は平地快適歩行速度またはその70%とし,片麻痺患者には必要に応じて手すりと装具の使用を許可した。外旋歩行の指標は,麻痺側遊脚期における足関節マーカのX座標(側方成分)と第5中足骨骨頭マーカのX座標の差の平均値を,安静立位時の両マーカ間距離で除した値とした。非麻痺側への体幹の過度な側方移動の指標は,麻痺側後の両脚支持期~麻痺側遊脚期における,両側肩関節マーカの中点の最外側X座標と,麻痺側後の両脚支持期における両側足関節マーカの中点のX座標の平均値との差とした。片麻痺患者において,各歩行周期で異常歩行の出現頻度および程度のばらつきが大きいと考えられるため,1歩毎に指標値を算出し,その上位1/3の平均値を各対象の指標値として採用した。また,健常者の指標値の平均値±標準偏差×2を正常範囲とした。指標値の妥当性を検討するため,算出した指標値と視診による重症度判定結果を,Spearman順位相関係数を用いて比較した。視診による歩行分析は,理学療法士3名(臨床経験年数13.3±1.2年)を評価者とし,各異常歩行の定義を示して観察時期と現象の統一を図った後,片麻痺患者のトレッドミル歩行のビデオ画像を観察させ,異常歩行の重症度を5段階で判定させた。
【結果】
視診で異常と判定された対象の指標値は,健常者の正常範囲外に概ね存在した。また,3名の評価者の視診による重症度判定結果の中央値と指標値のSpearman順位相関係数は,外旋歩行がrs=-0.56(p<0.01),非麻痺側への体幹の過度な側方移動がrs=-0.74(p<0.01)であった。
【考察】
三次元トレッドミル歩行分析により,片麻痺患者に特徴的な異常歩行パターンである外旋歩行と非麻痺側への体幹の過度な側方移動の重症度を示す指標を作成し,その妥当性を検討した。作成した指標の妥当性を検討する場合,標準化された信頼性の高い基準と比較する必要があるが,臨床では視診による歩行分析が主流であり,また視診による歩行分析方法は標準化されていない。そこで今回,臨床経験年数が高く歩行分析に成熟した理学療法士が視診により評価した歩行分析結果と指標値を比較し,両者が概ね一致することで,作成した指標が臨床での有用性が高い指標となり得ると考えた。視診で異常と判定された対象の指標値は,正常範囲外に概ね存在し,視診による重症度判定結果の中央値と指標値の比較において有意な高い相関を認めたことより,今回作成した指標は臨床での有用性が高い指標であると考えた。本研究により,計10種類の異常歩行パターンの重症度の判定が一度の計測で可能となった。これらの指標は,明確な判断基準としても活用できるため,視診による歩行分析の精度向上にも役立つと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
現在,標準化された歩行分析方法はない。三次元動作分析装置による歩行分析は客観的であり信頼性が高いが,経済的・空間的・時間的コストの面から臨床応用されておらず,臨床では信頼性が低い視診による歩行分析が主流である。我々は信頼性が高い三次元動作分析を臨床で実施するため,三次元トレッドミル歩行分析を行っている。本研究では,一般的な機器による歩行分析で得られる時間・距離因子に加え,脳卒中片麻痺患者に特徴的な異常歩行の重症度を表す指標を作成した。これにより,一度の計測で計10種類の異常歩行パターンの重症度を判定することができ,治療への示唆や治療の効果判定につながると考えている。